長編8
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舞首〜其の三【完】〜

随分永く放置してしまいました。

特に何かあったわけではないですが生粋の面倒臭がりなのとこんなオチもないつまらない話を続けるのも如何な物かと思い放置してしまいました。

何年か振りにサイトを覗くとまだ自身のページが残されていた事、読み返す事で忘れていた記憶が戻ってきた事等もあり完結だけはさせようと考えた次第です。

………………………

最深部の部屋にて花の彫刻が施された木箱を開け中のお菓子を物色しつつ小さなバームクーヘンを取り合って小競り合いをしていた私達兄弟

耳の下辺りに鈍痛を感じ兄のバームクーヘンへの愛を思い知り仕方無しに海苔の巻いた煎餅を口にしていた時に襖がすうーっと滑らかに開く。

祖母の家の様に途中で引っ掛かる事なく開ききると先程の神主さん、初めて見るツルツル頭の僧侶に続き両親の二人が入って来た。

神主さんと僧侶が対面に座っている間に両親が私達に声を掛ける

父『俺達は外で待っとるから当事者のお前ら二人で話を聞け。難しい言葉やまだ知らん様な話も出て来るやろけどまずは最後まできちんと聞く事。ええな?』

兄『…ゴクッ…わがっだ……』

バームクーヘンに水分を奪われ情けない声で返事をする兄とそれを横目に薄ら笑いを浮かべる私に呆れる様な安心する様な顔を向けた後対面の神主さんと僧侶に深々をお辞儀をし両親は部屋を後にした。

  

『さて…』

机に置かれたお茶を一口した後そう言葉を発したのは僧侶の方だった

僧侶『坊主達。話は長くなると思うが先に聞いときたい事ないか?……因みに答えるのは隣に座っとる神主さんな。わしら仏様にお仕えする者は基本的に祓うとかそういった教えはないからな。わしは進行役…司会者位に思うてくれたらええ』 

坊主が坊主二人におい坊主って……と心の中でささやかなツッコミを入れていると隣で兄が某大御所芸人さんがいらっしゃ~いと言う様な素振りで髪をかき上げながら話出す。

兄『トイレ何処ですか?』

私『ぶはっ!それじゃ(トイレに)いってらっしゃーい!やんけ!禿げ関係ないし!はははははは』

神主、僧侶『…………ぶはっ。はははははは』

静けさを一気に跳ね飛ばす様に全員で大爆笑。場の空気等クソくらえとばかりに大笑いした後隣の部屋に待機していたと思われる半笑いの女性に案内され二人で用を済ませ『掴みは完璧やな』と自信に満ち溢れた兄と改めて席につく。

神主さん『君らええ根性しとるな。これまで怖い思いしたやろうに。たいしたもんやわ』

私『怖い?嫌な思いというか感じ悪いっていうか腹は立っとったよ。だって毎日毎日飽きもせんと追い掛けてくる夢みさせられるわ、起きたら枕元に綺麗に整列して起きるの待ってんもん。○○○川に沈めた次の朝なんか部屋ん中めっちゃ臭なって帰ってきよんねん。風呂入ってから部屋上がれっちゅうねん!!』

なぁ!と兄を見やる

兄『あれヤバかったな。怒ってたし…ぷっ…まぁ牛乳石鹸で綺麗にしたら元の顔に戻っとったけども…でもそれが逆にウケたよな…はは』

何に対して逆なのかは分からなかったがそんな事をフランクに話せる空気になった事、改めてこれまでの事象を共にしたのが兄だった事に深く感謝した。

対面に向き直るとこれまで怪訝そうな何処か怒りにも似たピリピリとした表情だった神主さんとお坊さんの二人はなんとも優しく穏やかな表情へと変わっていた

神主『……うん。君ら二人なら大丈夫やな。……正直なとこどこまで話すべきなんか悩んでてん。今回みたいのはな、憎む心を核に作られ怖がる心を餌に育つって言うたら解りやすいか?まぁ混じりっけ無しの悪意やわな』

僧侶『○○さん…大丈夫?』

神主『あぁこの子達なら大丈夫でしょ。畏れがないわけじゃないでしょうが最初に見た時も少々驚きましたがこの子達には障りがない。勿論あとでお祓いはしますよ』

私、兄『???』

神主『あぁ分からんわな笑 あの人形を手にしてからこれまで君達を含め君達の周りに実害出てないやろ?大怪我したり病気に掛かったり心が病んでしまった人が出たりしてないやろ?』

兄『ないと思う』

私『多分やけど俺の周りでもない』

神主『せやろ。これなぁ地味に凄いことやねん。君達が知りたい事の一つに人形が変色した事があると思うねん。あれな、期が熟したというか準備できたから仕上げにいこか!って事やねん。』

兄『え?あぁ夢で手の届くとこまで追いついたって事?』

神主『それもあるかもしれん……でもしっくりこんのよ。なんせ君達を中心にまだ何一つ影響を及ぼす事さえ出来てへんからな。』

私『準備出来てへん??』

神主『多分痺れ切らしたんちゃうかな笑 発動したのにこいつら怖がらへんししまいにゃ汚い川に沈めるわ怒って戻ってみりゃ臭いって怒り返された挙げ句綺麗にされて気分削がれるわ……そんでもって祠に閉じ込められて三体で一つなのに一体とはぐれてまうわ。踏んだり蹴ったりとはこの事やろ笑 それでも呪物としての仕事はこなそうと努力したんかもなぁ、だから二体で仕上げに取り掛かろうとしたんかもしれん。なんちゅうか呪いにこんな人間味を感じたんも初めてやわな笑 正直困惑しとるとこあるわ』

兄『お前ガンプラとゴールドクロスの連合軍とも闘わせよったもんな笑』

私『兄ちゃんだってトイレに流そうとしたやん。ウンコまみれで帰ってきたら洗うん嫌やなとか言うてやめとったけど笑』

僧侶が頭を撫でながら呆れきった様子で溜息をもらす

僧侶『坊主達はこれまで自分達に起きてる事を何やとおもっとんたんなら??』

兄『うーん……なんやろ??勿体無いお化けの祟??』

私『だから勿体無いお化け出る程金持ちちゃうやん』

僧侶が下を向き首を左右に振る

僧侶『そりゃ痺れも切らすわな』

神主『あはは。ともかくや!今解る事は期は熟し切ってないしおそらくは準備も整ってないと俺は考えとる。今のままの状態なら鎮めて安置する事は容易いから安心しなさい。』

『それに呪物自体もこの目でみたけどじっくり苦しめてから仕上げに心を壊す感じの物やのに苦しめるどころかなんちゅうか共に冒険させられてるっちゅうか遊ばれてしもてるからな』

兄『うーん…じっくり苦しめてから仕上げ??…静かに入って徐々に盛り上げてサビに入る感じ?じゃあ今は盛り上がりはいまいちやったけども気持ち良くサビ歌って挽回したろ思たらマイク切れたみたいな??』

私『ようこそーここえー』

兄『それいきなりサビから入るパターンのやつやんけ!』

僧侶『………』

神主『あはは。まぁそんな所やろな。多分今も悔しがっとるやろな笑』

兄『そういえば公園で神職さんみたいな人に相談した時には問題無いみたいな事言われてんけど…』

神主『ああそれな。推測やけど神職ではないんちゃうかな。おそらくはアルバイト。公園内の小さな社とはいえ管理されてたって事は研修は受けてはるんやろうけどきちんと道に入られた方ではないんと違うかなとそう思うで。そんな風にお手伝いをしてくださる人はごまんとおるよ。ただよう分からんのに問題なしとした事は放っておけんからこちらから話はしておくつもりや』

私『ほほぅ。それで一番気になってんのは迷子の一体は放っておいてもええのん??』

神主『あかんな。さっき今のままの状態で安置するなら言うたよな?……アレは三体揃って初めて意味を成すねん。それぞれに役割はあるんやろうけど一体では成り立たん。でもそれは二体でも同じやねん。成り立たんからたいした力はないし君達に影響を及ぼす事もない。でも成り立ってないものを祓う事は出来ん。無いものは祓えんっちゅう事やな。つまりここにあるアレは憎しみの心に当てられたただのゴム人形やな。そんでもって残りの一体はこの地に自ら踏み入れる事は出来んやろな。呪物の欠片なうえに不完全なままの状態やから弱すぎる。入ろうにも入れんって感じや。』

兄『そんなら俺達どうしたらええの?』

僧侶『どうなるの?じゃなくどうしたらええのか?か……なるほど根っこが強いんかもな…』

兄『??』

神主『ね、大丈夫ですよ。』

神主『いつになるか分からんけどおそらく君達の所に帰ってくるんちゃうかなと思っとる』

兄、私『ええええーー!!』

…………………………………………………………

一通りの話を聞き終えた後本堂で御祓いを受け外に出ると辺りは薄暗くなっていた。

トイレに案内してくれた女性と共に両親に出迎えられ何やら神主さんと両親が談笑した後家族一人一人に御守りを渡され帰路についた。

途中マックに寄り夕食をとったのだがその日はお菓子位しか口にしておらず兄弟二人して貪り食う姿をみて獣のお化けだったのか??と心配された

………………………………………………

翌朝少し期待していたがアレはいなかった

悪夢を見ることもなくすっきり目覚めることが出来た。

兄はもうリビングなのか階下から笑い声が聞こえる。

顔を洗い終えリビングのドアを開けると昨日までの事など忘れてしまいましたけど何か?みたいな顔で【おはよ~】が飛び交う

その雰囲気にあっさり飲み込まれた私も朝の挨拶を返し普段は口にしない朝ご飯のパンを咥えたまま身支度をし牛乳で焼き過ぎてカチカチになったパンを流し込み家を出た。

その日は土曜日だったので昼前には授業が終わりそのまま運動場で遊ぶのが恒例になっておりその日も先日友達になった岡田君を含め数名と走り回って遊んでいた。

自分でも本当に単純脳だと関心してしまうがこの時点で既に昨日までの事象は遠い思い出に変わっていた。

ひとしきり遊んだ後岡田君が迎えが来たからと告げご両親が運転してきたであろう車に向い後部座席のドアを開ける

残った数名で運動場に響き渡る様な大きな声で【バイバーイ】と手を振りながら叫んでいると運転席から一人のおばさんが降りてきて声を掛けられた。

おばさん『あなたが○○君?』

私『そうだけど』

おばさん『うちの子と仲良くしてくれてるみたいだね。ありがとうね。あの子も毎日学校の話を楽しそうに話してくれてるよ。本当にありがとう……ごめんね…』

そういうと車に乗り込み帰っていった。

私『ごめん???????岡田君となんかあったっけ????』

覚えのない言葉を掛けられ若干困惑するもあっさり流した

その後アレは私達の元に帰ってくる事もなく私の周りでも困った事が起きる事もありませんでした。

これはアレの存在自体をすっかり忘れていたある日の事、兄が私に向かい

『干からびてしわくちゃになったアレじゃね??w』

とパチンコ玉より一回り程大きな塊をと私に手渡して来たことがありました。ただそれは祖母が漬けている梅酒の梅の種でありそれを知った父に強烈な右フックを食らってダウンするという伝説を作ったのですがその際両親に

『そういえば迷子の一体どうなったんやろね??』

と話掛けて判明したのですがなんと件の公園の祠の扉の部分に引っ掛かっている所をアルバイト神職さんに発見され直近でお説教を受けていた事そして本物の呪物であると知らされていた事もあり悲痛な声で神主さんに連絡があったそうです。

その後神主さんが引き取り問題なく供養されたらしいとの事でした。

因みに岡田君の新築一戸建てはとても綺麗でいつ行ってもいい匂いがするお菓子の豊富な素敵な家でした……ただ一時期は数名で頻繁に遊びに行ってたのですが私が5年生、兄が中学生になった頃に岡田君が校舎屋上の扉前の踊り場?部に奇声を上げて逃げるという事件を頻発してしまいその頃から疎遠となってしまいました。

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