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超短編小説「猫角家の人々」その20

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超短編小説「猫角家の人々」その20

介護士、正確には、介護福祉士とは、国家資格である。厚生労働省が管轄する資格である。この資格を持っている方が、介護の現場では、待遇面では多少は有利である。だが、積極的に資格を取得しようとする人は少ない。2000年に介護保険制度が施行されてすぐに、介護現場は、恒常的な人手不足に悩まされた。どんなに程度の低い人材でも、介護現場では大事にされた。滅多なことでは首にはならなかった。

あるデイサービスの経営者だった人物は、こう語っている。

最初から普通ではなかった。開設前の職員の求人面接に遅れずに来た人は半数程度。来たとしても「できるだけ楽な仕事をしたい」「すぐに有給休暇を全部欲しい」「朝、起きれるかわからない」など、常識を逸脱したことを平気で言う人がたくさんいた。

この種の社会の最底辺のグズが参集する職場、それが、介護の現場である。収容者に対する暴力、セクハラ、何でもありである。収容されている老人3人を介護施設の窓から放り投げて殺した事件が記憶に新しい。(勿論、立派で誠実な介護職員はたくさんいる。)

汚くてきつい仕事、長時間労働、低収入。誰もやりたくない仕事だから、いつでも人が足りない。1年中募集をしている。こんな劣悪な労働環境でも働きたいと思うボランティア精神旺盛の人がいるのだろうか?いるであろう。だが、少数だ。

訪問介護?悪質なヘルパーには、稼ぎどころの労働環境だ。家探しして金目の物を盗み出す。現金が一番いい。管理の緩い家なら、呆け老人の財布を預かって、勝手に預金を引き出す。給与など取るに足らない。無くたって構わない。あちこちの家に入り込んで、爺さん婆さんの金を拝借する方が、はるかに実入りがいい。訪問介護が一番、犯行をやりやすい労働環境だ。そんな些細な犯行を躊躇するくらいなら、介護職なんかに就いてはいない。もし、ばれてしまったら?しらばっくれればいい。会社も人手不足で滅多なことでは解雇しない。派遣先を変えるくらいで話は収まる。証拠がない限り、捕まることはない。

「どうせ、婆さんが金を持っていても、馬鹿息子にせびられるだけだ。私が有効に使ってやるんだから、ありがたく思え。」

50代の介護職の女は、自分の性を金儲けの道具にする。介護施設に収容された老人男性は、いくつになっても「男」であることに変わりはない。身の回りの世話をしてくれる女性介護職の体を触る。乳を揉む。口元からよだれを流しながら、尻を触る。呆けているから、理性のブレーキが利かないのだ。「はいはい、駄目ですよ」と払いのけながらも、少しは触らせてやる。毎日のことだ。いちいち目くじらを立てるのも面倒になってくる。79歳の老人には、53歳の女体が、妄想を掻き立てる、夢にまでみるビーナスの裸体なのである。

触らせてくれる介護職、蘆原某には人気が集まる。爺さんは。呆けた頭で、蘆原某の関心を買いたいと願う。おむつの交換に来た蘆原某に、くしゃくしゃになった1万円札6-7枚を差し出す。他の人に見られるとまずい。すぐさま、お札を介護服のポケットにねじ込んだ蘆原某は、おむつの交換のために尻を上げた老人の局部をさり気なく触ってあげる。老人は歓喜し、うめき声を上げる。蘆原某は、おむつの交換にかこつけて、薄い乳を老人の二の腕に押し付け、7万円の寄付金に見合ったサービスを提供するのであった。寄付金に見合ったサービスかどうかは、かなり疑わしいが。

50代だが、色白、細面で若く見える介護職、蘆原某は、未だに独身であった。同性愛者だったのである。(続く)

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