世界は「ウワサ」でてきている。
そんなことを悟ったのは小学校3年生の頃だった。
最初は些細なもの。
「○○くんが□□ちゃんに告白したらしいよ」
「え〜、変なの」
「で?返事は?」
「振られたに決まってるじゃん」
教室の隅でこしょこしょと何人かで集まってウワサをする女の子たち。
その時は、誰がどんなことをしていても他人事だと思って、言うほど興味は持たなかった。
でも、くだらないウワサの中に一つ、とてもじゃないほど、当時の僕たちには衝撃的すぎる事故が起きた。
クラスメイトの神山くんが自殺した。
理由なんて明白。ウワサに耐えられなくなった。
日々こしょこしょと話されるウワサ。
自分を見る冷たい視線。
友達とも疎遠になって、ぽつりと一人ぼっちの教室。
ウワサの内容はよく覚えてないけど、神山くんの両親が実は人殺しだったなんて根も葉もないものだったと思う。
勿論、本人も否定した。先生にも言った。
だが、ウワサは止まらないまま、中学生になっても囁かれるほどだった。
〜〜〜
中学1年生の夏。蝉の声がうるさい教室で、窓側の席に座っていた僕は外をぼんやりと見つめていた。
外には水しぶきが飛び散るプールが見えた。
先生の声をどこか遠くで聞きながら、ホイッスルの音も聞いていた。
神山くんは体調不良でその日は休みだった。
きっとウワサのせいだってまた他人事みたく。
〜〜〜
一瞬だった。綺麗な青空に黒い影が落ちていく。
最初は鳥かなって思っていたけど、すぐに聞こえた、ドシャッという落下音。
落ちていく何かと目が合ってしまった気がした。
先生と他の子もその音に気がついて、窓の外に身を乗り出す。僕もそこに紛れ込んで一緒に身を乗り出した。
落下したのは鳥なんかじゃなく、血が地面に飛び散った死体だった。
きゃぁ!って言う女の子の悲鳴とともに、先生が教室を飛び出す。僕も先生についていった。
なんとなくね。
〜〜〜
死体が落ちたはずの場所へ行き、確認。
今日休んでいたはずの神山くんだった。
5階という高さから落ちて、顔半分はぐちゃぐちゃに潰れていた。
首だってあらぬ方向に向いていて、手も足も普通の人なら絶対に向かないような向き。
まるで壊れた人形のようだった。
ぐしゃぐしゃに潰されたマリオネット。
僕は神山くんの死体をどこか達観的に見つめていて、先生は慌てて救急車を呼んでいた。
〜〜〜
次の日、僕たち1年生は全員呼び出されて、先生に神山くんが死んだことを告げられた。
遺書も見つかったらしい。
ただ一言、『僕の親も、僕も人なんて殺していない。それを証明する』と書いてあったらしい。
〜〜〜
その日、僕たちのウワサは人を殺した。
〜〜〜
そんな神山くんのことを思い出しながら、屋上で風に当たる。
高校2年生。ウワサもあれ以来なくなった。
それでも僕は神山くんが少しだけ羨ましかった。
神山くんの死は綺麗だったから。
できるなら僕も神山くんのように死にたい。
そう思い5年間生きていた。
とても長かったけど、遺書も書いたし思い残すことなんてさらさらない。
遺書に書いた言葉も異様なほどの、本当に一言。
『死にたい』
とだけ書いておいた。
1歩、また1歩とフェンスに近づいていく。
ガシャン。
フェンスを乗り越え、校庭を見下ろす。
いつかのようにプールの水しぶきが見えた。
死ぬ時、神山くんはどんな気持ちだったかな?
晴れ晴れしていただろうか。
生暖かいような風に吹かれて、ついにまた1歩、踏み出した。
さよならウワサ。
初めまして地面。
落ちる途中、教室にいる誰かと目が合った。
そんなこととは関係なく、僕の体はどんどん地面に近づく。
〜〜〜
最後に聞いたのは、グシャッていう鈍い音と、首の骨が折れた、鮮やかなものだった。
そんな中でも、最後まで思い続けていた。
僕の死に方は本当に綺麗なんだろうか。
誰かが綺麗と思える死に方だろうか。
そんなことは誰も知らない。知らなくていい。
僕は
死んだ。
作者あすか-3
1日に2話も、すいません。
またまた衝動的です。
書いていてすごく楽しかったです。
こんな風に感じる私も…狂っているのでしょうか?