よく通学路とかに正体不明の潰れた虫が死んでるよね。
絶対触っちゃダメだよ。
もし触ったならすぐに洗った方がいい。
…危ないから。
〜〜〜
「うえ、またいるよ。
最近よく死んでるよね」
「ねー」
私とAちゃんの視線の先には潰れて内臓の飛び出た、カミキリムシ。
見た目があれということも手伝って、さすがに気持ちが悪い。
「なんだよお前ら。こんなのも触れねーのかよ」
そう言って虫に近づいていったのは同じクラスのSくん。
やめなよって止める私とAちゃんを無視して、ひょいと虫を持ち上げる。
「うーん、さすがにこれはキモイかも」
苦笑いしながらも後に引けないという様子のSくんはそのまま虫の足を引っ張り、プチリと千切った。
「ひっどー」
批判するAちゃん。
私もAちゃんと同じことを言おうとした。
そしたら、虫の足がピクリと動いた。びっくりして二人を見る。
「ちゃんと隅に避けときなさいよね」
「なんだよー、触れるようになってから言えよな」
SくんはAちゃんに虫を近づけて見せてじゃれていた。
どうやら見えてなかったらしい。
私には確かに動いたように見えた。あの気持ち悪い胴体が、内臓の飛び出たままの虫の足が、触角が。
「今、動かなかった?」
「は?何言ってんの?俺触ってたけどなんもなかったぜ」
「そーだよ。怖いこと言わないでよ」
そう言いながらSくんはポイと草むらにカミキリムシを捨てた。
〜〜〜
その日の夜、夢を見た。当たり前だけど。
今朝Sくんが捨てた虫。
その虫が大量に沸いている中私が座っていて、目隠しをされていた。
夢じゃない方の私はただ呆然と見つめていた。どうすることもできないから。
そしたら、口、耳、鼻の回りを異様に動き回り出した。
嫌な予感。
そんな私の予感は当たっていて、だんだんと入ってくる。
黒くて足がいっぱいあって、白い斑点模様が私の中に入ってくる。
もちろん、夢の中の私もそうでない私も絶叫。
部屋か何かもわからない空間で、助かるはずもないのに必死に叫んだ。
〜〜〜
目を覚ますと見慣れた暗い私の部屋の天井。
ああ夢でよかったな。
じっとりと汗をかいたまま体を起こす。
私の部屋に白い斑点模様の黒い、カミキリムシが数十匹潰れていた。
朝から絶叫。お母さんが慌てて私の部屋に入ってきて、お母さんも口を押さえて絶叫。
見かねたお父さんとお兄ちゃんは部屋に入るなり
「うおっ」と短い悲鳴。
学校に行けと促されて、後ろ髪を引かれながらも私は学校へ行った。
〜〜〜
もしかしたらAちゃんとSくんにも同じことが起きたのかも。
そう思い、一人のAちゃんに話しかける
「おはようAちゃん」
「あ、おはよ」
Aちゃんは青ざめた顔で話していた。
私はどうしたのかと尋ねる。
そしたら急に涙を流しだすAちゃん。
困惑しながら話を聞く。
「Sくんが…亡くなったって」
嗚咽交じりに言葉を紡ぐAちゃんに驚く。
…Sくんが死んだ?
慰めながら話を聞く。
Aちゃんの話によればこうだ。
〜〜〜
昨日寝る前にAちゃんの携帯が鳴った。
出てみるととても動揺した様子のSくんの声が聞こえた。
「やばいやばいやばい!あいつが!
黒いんだよ!黒くて白いんだ!」
「え?どういう意味?落ち着きなよ」
訳のわからないSくんを落ち着かせようと話すが、Sくんはやばいしか言わなくなった。
「なんなの?意味わかんない。じゃあ切るからね」
そう言って、通話終了ボタンを押そうとした時、
「うああああああああ」
ってSくんの絶叫が聞こえた。いや断末魔に近いかもしれない。
そんな声が聞こえて電話に取りすがる。
Sくん?と何度呼びかけてもプツリと切れた電話からはプーップーッという音しか聞こえなかったそうだ。
その日の夜、Aちゃんは布団にくるまって震えていた。
ブルブル震えてとても眠れる様子じゃなかった。
それでもいつの間にか眠ってしまっていた。
その日の夢は私と同じ内容。
カミキリムシが口、鼻、耳から入ってくるのを泣き叫びながら見ていたらしい。
〜〜〜
「Sくん、どうしてかな。何があったのかな」
「わかんないよ。私がもっとちゃんと話を聞いていれば助かったかもしれないよね」
〜〜〜
次の日、学校に行くとAちゃんもいなかった。
どうしたのかとクラスメイトに問うと、Aちゃんまでもが亡くなったという。
次はきっと私の番だ。
〜〜〜
あの日いた私たちが狙われているんだ。
そんなことを考えてお風呂に入っていた。
湯船に入浴剤を入れて浸かっていると、ぶくぶくと目の前に気泡ができだした。
なんだと思って身構えていると、ぷかっと浮かんでくる目玉。
私の姿を捉えて、次に髪の毛が浮かんできた。どうやら頭部につながっている。
自分でも驚くほど冷静に。
だんだんと頭が浮かんでくる。
女の人。髪の毛がすごく長い。きっとお尻くらいまでの長さだ。
女の人はだんだん上に上がっていく。
女の人の腹部が私の目の前に来た時、心臓が凍りついた。
内臓が飛び出ていて、腐敗している。
こんな状態で人が生きられるはずがない。
そう思いながら女の人の顔を見上げた。にまっと満面の笑みが、不気味だった。
「…あ」
声を出した瞬間、髪の毛が上に引っ張られる。
ぶちぶちと千切れる私の髪の毛。痛かったけど、それ以前に怖かった。
私もAちゃんたちのように、死ぬのか。
遊びであんなことしなければよかった。
きっとカミキリムシが私たちを恨んでたんだ。
覚悟をして目を閉じる。
だけど、いくら経っても何も起きない。
不思議に思って目を開けた。
私との距離は10センチもないほどのところに女の人の目があって。
いや、正確には目はなかった。眼窩にあの蠢くカミキリムシがいた。
どうしようもないまま、私は女の人から目が離せなかった。
ああ、私死ぬんだ。
女の人の私の髪の毛をつかんでいる逆の手が伸びてきて、目玉に近づいてくる。
いや、いやだ。
頭の中で叫ぶが、体は動かなかった。
ぐりぐりと奥に入り込んでくる爪の長い指。まず爪が眼球に当たって激痛が走る。
痛い。これは形容のし難い痛さ。きっと経験しないとわからない。
目が見えなくなってぐちゅぐちゅという気味の悪い音が聞こえるだけ。
痛さも通り越して感じなくなった。
きっと、両目ともされるんだろうな。
私は意識を手放した。
〜〜〜
「知ってる?『虫女』」
「なに?知んない」
「虫を残酷に殺しちゃったところに来て、その殺した人を残酷に殺しに来るんだって」
「うっそだー」
「いやいや、本当だよ。最近も出たらしいよ。ほら○○高校。三人もだって」
「やば、気をつけよ」
「だねー」
作者あすか-3
最近、虫がよく出てくるようになりました。
気持ちの悪いことですが、あまり害もないので私は放っています。
皆さんもお気をつけください。