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私は中学三年生で修学旅行と恋愛に夢中なごく平凡な女の子でした。
その頃の私は修学旅行でS君という男の子に告白をする気でいました。
私は楽しい修学旅行を大好きな人と過ごせる思いで胸がいっぱいで前日なんて一睡もできず、当日を迎えても寝不足のせいか頭痛が止まらず、あまり楽しめずにいたところ、「大丈夫か?」とS君は気遣ってくれました。
「好きなんだS君のこと。」
衝動に駆られた一言だったので自分でも驚いていたのを覚えています。「俺でよければ、俺も君のこと好きなんだ、この旅行中に言おうとしてた。」私たちはこの時から付き合うことになったはずでした。
でも、彼は学校生活に戻っても無視ばかり、周りの友達は気にしなくていいよって気遣って、気晴らしにカラオケでも行く?って誘ってくれますが、S君にいつも邪魔をされます。一体私たちはどこで違ってしまったのか…
「私のこと嫌いならはっきり言って。なんで何もわからないままS君に友達との約束を邪魔されなきゃならないの?」
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「君は違う。」
「何が?意味がわかるように説明してよ!」
「周りは気遣ってくれてるけど本当は君のことなんてこれっぽっちも想っていない」
…ショックだった。周りの友達でさえ私のことを忌み嫌っていたのか、表面上は仲良くしてくれてただけなのか…
「何してんの?痴話喧嘩?」
後ろから声がして振り返るとクラスみんながからかうようにニヤニヤしてる。
そこに感じるのは違和感のある平凡だった。
shake
…S君は私が嫌いで仕方ないんだ。だから全てを私から切り離そうとする…
でも何か、何かが引っかかる。S君の言葉と裏腹な哀しげな表情、彼の言う違うの意味。でもその時はS君に対する嫌悪感だけが勝り、「もう別れたから。」その一言しか発せない。
「……」
「なんでみんな黙るの?これからは一緒に遊べるじゃん!」
「…本当?ここにいてくれるの?」
皆は涙を流してる。…大袈裟なんだから。
「それは正解じゃないんだよ!」
S君は怒鳴って私の腕を引っ張り、皆から遠ざけるように走った。
「なんなの⁈本当にいい加減にして!」
「君は災難だ。ここにいるなんて。」
「なに言って…」
…唐突に思い出した。
「僕たちは修学旅行最終日、乗っていたバスが飲酒運転をしていたトラックとぶつかり、生徒が死んだんだ。」
…燃え盛る炎のなか私の名を叫ぶS君の声。
ー君は違うんだー。ーここにいてくれるの?ー
全て悟った。
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「僕を許してくれ。僕は君が好きだから、その想いがかろうじて正常を保ってくれる。」
「そっかその事故で私、死んだんだ。みんな気遣ってくれたんだね、ここにいさせようと。」
彼は泣いているのか。手にはバットが握られていた。
「君を帰すにはこれしかない。この世界と決別するには」
「最後に一つ聞いていい?私の思いは届いてたかな?」
「…つながってたよ。僕も思いは変わってない」
「未練はもうないよ。やって。」
なんて言ったのだろう。彼は一言残して一思いに私を葬った。
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…先生、意識がっ…
ゆっくりと瞼を開く。天井は白く腕には点滴が着いていた。アルコールの匂いが漂っている。ここは、病院?
「良かった、本当に良かった」
両親が泣きながら私を抱きしめた。
頭が混乱している。私は死んでない?あの時の違和感、そういえばなぜあの場にクラス全員がいた?ましては先生までもが。偶然にしては不自然すぎる…彼らの表情は別の喜び…あと一人でクラスが完成し、みんなで仲良く暮らすために私をあそこにとどまらせようとしたんだ。だからしきりに遊びに誘ってきた。よくよく考えたらそれもおかしい、だって私たちは受験生なのだから。
「あの事故でね、あなた以外亡くなったのよ。あなたもここ一週間意識不明で…」
寒気がした。S君の言葉を思い巡らす。ー君のことなんてこれっぽっちも想ってないーみんなは生と死の狭間にいる私を死者に導こうとしたんだ…
そして両親は言った。
「バス外に出てたからあなただけはなんとか助かったって…」
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ーー熱い熱い、周りが燃えている。クラスメイトの悲鳴。吸えば吸うほど焼けるような喉の痛み。私はもうダメだった。
「おいっ、しっかりしろよ!」
…S君だ、でももう私は…
「絶対守るからっ、少し痛むけど我慢してくれ。」
彼は窓から私を放り出した。私は彼を見た。恐怖に震えながら口を動かしている。
「好きだよ」
その動作の意味を理解する間も無く、バスは爆発した。ーー
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もう直ぐで私は高校生になる。みんなとは違う生者の世界で時を進めている。
事故の時もその後も私を助けてくれたのはS君だった。彼は亡き者の世界から未練を断ち切るために私を決別させようとしてくれた。彼がいなければ今の私はいない。私はこの先彼を忘れることは決してないだろう。
作者terror