中編6
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闇市-2-

ーー拝見 ……へ

僕は相変わらず人と関わることなく過ごしています。寂しいなんて思ったりしないようにしてるけどこれが僕にできる精一杯の償いだから、君のためになら僕は何だってできます。でも今回は許して欲しい。彼を助けなきゃいけないんだ。

君みたいな人をもう二度と生み出さないためにも。

それじゃあ、またね

君の友人、高野将吾よりーー

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ーー僕は不安だっただけなのかもしれない。ただでさえ生きることが窮屈な高校生活を、ぼっちで過ごすことが。だからこそほっとけなかったんだーー

できる限りの罪の意識を抱え込まなきゃ、彼に話しかけられないほど僕は苛まれていた。

周りから見れば異質なのかもしれない。不気味がる人だっている。

でも本当のことなのだから仕方ないじゃないか…

高野将吾は悩んでいた。自分にしか気づくことのできない事実をそれも面識のない人に打ち明けるなんて、馬鹿げてるのではないかと。

悩んでる暇なんてないか…

「鈴木君、話があるんだけどちょっといいかな?」

僕は教室の重い沈黙を破ってしまった。いや、他のクラスメイトからしたら喜ばしいことなのかもしれない。

ここ最近の人気者である鈴木君の弟の件についてはもう皆に知れ渡っていた。それに当人が憔悴しきっているのだから、自分の利益のために彼の金魚の糞となった連中なんかには彼にかける言葉など考えもつかなかっただろう。

「いいよ。僕も君に聞きたいことがあったから。ここじゃあなんだし、食堂でも行こっか?」

無理に繕った笑顔は、僕には恐ろしく思えるほど彼はやつれていた。

食堂は思ったより空いていた。

「なぁ、高野って霊感あるの?」

「…弟さんのこと?」

彼が少しだけ動揺したせいか、話の核心がなんたるか、すぐに察することができた。

「…そうだ。昴のことで話がある。」

「僕もだ。」

言い方を間違えたかどうかはわからなかったけど、この言動で確実に彼が僕に対して疑惑と同時に期待を持ったのはすぐに感じ取れた。

「昴のこと⁈…お前、やっぱり…」

「とにかく、時間がないから僕の事は後だ。弟さん、昴くんのことならまだ間に合うかもしれない。彼、まだ無自覚だから。」

「無自覚ってどういうこと…」

「順を追って説明するから、まずは彼がなんで死んだか、それを聞きたい。放課後教室でまた落ち合おう。」

ーー

ーー

ーー

高野将吾にことの経緯を話した後、彼は黙って何かをつぶやき出した。

おそらく彼なりの考察が終わったのだろう。彼は僕の眼を見た。

「多分そこは闇市だよ。種、まだ返してないんだよね?」

ーーそういえば…僕はあれから一度も闇市に行っていない、それに俺は種を取っていないじゃないか⁈…ーー

「その様子だとまだ種を返していないようだね、よかった。

ところで種は今どこに?」

「実は種を取らずに、花粉だけしか吸っていないんだ。だから種は…」

ーー待てよ、ってことはーー

嫌な予感がしたのはお互いだったらしい。…多分花はもう弟の額にはない。

だからおそらく種を得ることは…

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「……僕が闇市に行く。」

「⁉︎」

「聖書では人間というものは霊体こそ本体で、肉体は器に過ぎないと綴られている。」

「いきなり何のことだ⁈」

「昴君が死んだって言ったのは悪魔で肉体のこと。彼の魂は残ってる、さっき言ったとおり自覚がないから。」

高野は淡々とルーティンワークをこなすように語り始める。

「本来は霊体は特異体質じゃなければ離れることは死以外ない。でも」

「でも?」

「…経験したものなら、離れられる。」

ーー悪寒がした。目の前にいるのはーー

「闇市は俺が探す。あれはまだこっち側にあるから。お前は………だ。」

ーー口調が変わって…こいつ、一体ーー

「高野…だよな…?」

彼は一言、

shake

「知ってるか?自ら死を選ぶことは大罪なんだよ。」

そう言い残した。

ーー

ーー

今の僕は僕ではない、君もこうなってしまう。どうか許して欲しい、君が本当に昴君を救いたいのであれば…

ーー

ーー

ーー

「俺はどうすればいい?」

急に響く大きな声、僕の意識の数分間の空白がその質問を生み出したのだろう。

迷わず手をさしのべた。

「握って。君が見た闇市を頭に浮かべて欲しい。出来るだけはっきりと。」

「それだけでいいのか?」

「うん。強いて言うなら僕が闇市を探している間、君は想像するのをやめないで欲しい。

ーー

ーー

何が起きてもだ。」

彼は目を閉ざした。

掌からイメージが伝わってくる。

段々と空間が歪んでいく。

気づいた時には僕は闇市の前にいた。

shake

「⁉︎」

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深淵から青白い腕が見えたと思えば、それはもう僕の首を絞めていた。

「…」

無表情かつ生気のない表情が僕を取り込む。

憎悪だけがひしひしと伝わる。

ーー彼は気づいていたのだ。兄の殺意を。ーー

「…昴君…だね…」

締める力が一瞬弱まった気がした。

遠のいていく意識の中ではっきりと分かったのは、彼にはまだ良心があること。それと…

「昴‼︎」

ーー鈴木君、来ると思ってたよーー

ーー

ーー

ーー

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ーー今見ているものはなんだ?

想像してただけのはずだ、なんで…闇市にいる高野の姿が頭に浮かぶんだよーー

高野は誰かに首を絞められている。

ーーあれは、そんな…

そうか、だから高野はあの時ーー

『闇市は俺が探す。あれはまだこっち側にあるから。お前は……

ーーー

ーーー

ーーー自らの器を与えろ、種無しでは昴君は肉体に帰れない。

闇市の種売りに代わるんだ。」

ーーー

ーーー

「昴‼︎」

心の中の声はなぜだが周りに響いていた。同時に理解する。

自分が闇市にいることに…

気づけば高野の姿は消えていて、昴は俺の前に立ち、ありったけの殺意を僕にぶつけた。

…ここにいてはいけない…

直感がざわつく。

「昴、すまなかった。

俺は臆病者だった。自分の不甲斐なさをお前にぶつけた。お前が俺を許してくれないのは分かってる…

だから俺と役目を交換しよう。」

ーー闇市の種売りは恐らく、僕と同じ者だ。

彼らもまた自分の起こしたことを悔やみ、肉体を捧げていたんだ。

初めは良心があった彼らも今の昴と同じように意識が悪意に取り込まれていく。

そして、種を求めるものに与え、自分の代わりを探すのだろうーー

「兄ちゃん…」

昴の声が聞こえた気がした。

そして、僕の肉体が現れる。

ーーそうか、今は霊体なのかーー

例え霊体こそ本体であったとしても肉体が滅びることは実際死を意味していることには変わりない。

そうして浮かんだ感情を否定できない。

ただ僕は僕の肉体へ去って行く弟の姿を見た。

ーー

ーー

ーー

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「やぁ、鈴木君。」

僕は目を覚ました鈴木亮太だった者に向かって声をかけた。

「あの時は、首を絞めて申し訳ありませんでした。」

「君が戻ってこれてよかった。お兄さんのことは残念だけど…」

「…そうですね…」

僕は彼に鈴木昴は社会的に死んだことを告げ、これからは鈴木亮太として生活しなければならないと告げた。

彼はその事に同意し、涙を拭き、

「ありがとう!高野さん。」

そう言ったんだ。

shake

ーーもうしかして僕はとんでもないことをしたのか、いやそんな…でも彼は今⁈ーー

夕暮れが僕の不安を募らせる。

教室から出ていったときの彼の表情を僕は多分この先忘れられないだろう。

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ーーこの世で一番怖いものは間違えなく、人間だーー

よく聞かれるこの言葉の真意を僕は身に沁みることになったんだ。

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