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中編7
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闇市-1-

僕、鈴木亮太は弟の昴が嫌いだ。

弟は僕が欲する全ての才能を持っている。

両親は弟を褒めあげ、その度に僕を冷たい目で見つめてくる。

「あんたも少し昴を見習いなさい。あなたは勉強もスポーツもからきしダメ、おまけに身長まで超されちゃって・・」

「兄ちゃんは兄ちゃんで頑張ってんだよ。俺がバスケ始めたのも兄ちゃんのおかげだし、勉強頑張ろうと思ったのも兄ちゃんが受験必死に頑張っていたのを見て俺もやろうと思ったんだよ。」

弟はいつも僕を庇う。でももううんざりだ。

その優しさは、いつも僕を苦しめる。

いつしか弟への憧れや両親からの疎外感が重なって僕の中に明確な憎悪が生まれ始めた。

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スクールカーストというのはつくづく残酷だ。

顔立ちや体型、そして才能というカテゴリーで身分が定められる、小さな社会。

僕はこれといった才能は無いけれど、顔立ちはそこそこ良いとよく友達に言われる。

そのせいか僕は中間層に位置していた。

でも、僕のクラスにはどの階級制度にも位置しない少し変わった生徒がいる。

その生徒は高野将吾といって、半年ほど精神病棟に入院していた。なんでもその理由は彼自身の霊感による発狂だったなどという幼稚な、黒い噂が広がっていた。

そんな彼とは違って僕ら中間層はただひたすら息を潜め周りの空気を読み、時にはいじめを助長しなければならない。

「こんな場所があっていいいのか?」

涼太は自問自答することしかできない。そういった居心地の悪さもより一層彼の憎悪を増幅させていった。

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帰り道、

「寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」

なにやら景気の良い掛け声が聞こえてくる。

(こんな時間に、何を売ってんだろう・・・)

ちょっとした好奇心に駆られて僕は声のする方へ向いた。

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そこにあったのは一風変わった鳥居⁈のようなものだった。

奥へと続く道沿いには多くの出店が並んでいる。

財布を確認し、興味本位で足を運んでみた。

「寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」

またあの掛け声が聞こえる。

でも、聞こえるんじゃなくて、正確には脳に響いてくる感じ…

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急に視界に老人が入ってきた。

でも目があるはずのところは妙に窪んでいて黒い影を伴っている。

「お兄さん、あんたの探してるもんってこれじゃろ?…」

そう言って老人が僕に何かを差し出した。

「な、何ですかこれ?」

それは大きな錠剤のようなものだった。

「それは種じゃ。それを誰かに飲ませれば種がそやつの養分を吸い取り、丑三つ時になれば額に花が咲くじゃろう。そこから出る花粉をお前さんが吸えばそやつの力が手に入るだろう。」

唐突に現実味のない話をされたが、ようは誰かの才能を奪うことができる種らしい。

まさしくそれは僕が望んでいたものだった。

「でもどうやって相手に飲ませることができますか?こんな大きいものじゃあねえ・・・」

「それは液体に入れると一分ほど完全に溶け込む事が出来る、がそれを過ぎたら芽が出てしまう。そしたらもう手遅れじゃ。」

「・・・お爺さん、これいくらですか?」

老人は真顔で応える。

「咲いた花は種を産む。その種をもう一度ここに来てわしに渡して欲しい。」

僕の本能は種を貰うことを拒否していたが、結局欲望に勝てず了承してしまった。

「待っておるからな。」

先程のおおらかな声から一転、無機質な感情のこもっていないような声が聞こえて、恐ろしくなり返そうと思ったが、もう遅かった。

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僕はいつの間にか自宅の前にいた。

何が起こったか理解できず、幻覚でも見ていたんだと思い込みドアを開ける。

「ただいま。」

何も返って来ない。・・・毎度のことだけれど

僕は母のいるリビングに行くことなくそのまま自室へ向かった。

母は昴がいないと何かと僕にあたってくるのだ。だから僕は弟が帰宅するまでここで息を潜めなければならない。

今日はひどく疲れたのでそのままベッドに寝っ転がろうとすると、右腿に違和感を感じた。

そんな、まさか・・・

おもむろに右ポケットを漁ると、あの種が出てきた。

「幻覚じゃなかったのかよ!?」

内心怯えつつも頭の中に浮かんでいたのは老人の言葉だった。

『僕の欲しがってたもの・・・』

僕の中で何かが爆発しかけてた。

色んな思いが頭を駆け巡る・・・

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――あんたも少し昴を見習いなさい・・・僕を弟と比べるな。――

――僕は昴にはなれない・・・これを飲ませれば・・いやダメだ――

――でも、欲しい   あの才能が   名声が   ――

ちょうどドアの開く音と、「ただいま!」という元気な声が聞こえた。

母のやっと解放されたかのように、弟のもとへ駆け寄っていく足音が聞こえたとき僕はもう駄目だった。

時計を見るとちょうど七時を示している。

(夕飯の時間だ、そろそろリビングに行かなくちゃ。)

部屋を出ようとすると置いてある鏡に映る自分の姿が目に入った。

手はあれを握っていて、表情はもう僕ではなかった。

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欲望に駆られた獣のように瞳孔を開いている眼、獲物を待ちきれずに口からはヨダレが垂れている。

僕はそれを拭いて、いつものように表情を繕い平然を装ってリビングに向かった。

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――いつもと変わらない食事、テーブルには明らかに昴の好みに偏った食事が並べられている。

「今日の部活はどうだったの?」

母は喜々として昴に尋ねる。

「いつも通りだよ。兄ちゃんはどうだったの?もうすぐ期末でしょ?はかどってる?」

思はぬパスが来た。純粋な優しさ・・・果たしてそうだろうか?

コイツも裏では嘲笑してるんじゃないのか!?

「ああ。僕もいつもどおりだよ。」

母はすかさず釘を刺す。

「昴のいつも通りは信用できるけど、あんたのいつも通りじゃ困るんだよ。」

この時ようやく僕の覚悟は変更不可なものとなってしまった。

「今度はきっと上手くいくから、そしたら・・・」

「そしたら?」

「・・・いやなんでもない。あっ昴、麦茶いる?」

「うん!貰うわ。」

いつも食卓には飲み物がないことを僕は知っていた。まぁいつも僕が持っていってたからだけれども。

僕はコップを4つ用意しその中の一つ、昴が普段使用しているものに種を入れ麦茶を注いだ。

――一分・・・一分だ・・・――

落ち着け、自然に振舞え。

僕は普段通りにまず両親のコップを並べ麦茶を注いだ。

そして弟にはあらかじめ入っていたコップを渡す。

「サンキュー」

弟は必ず最初の一杯を一気飲みし、おかわりを求めることも知っていた。

飲み干すまで僕はこみ上げてくる笑いをじっとこらえた。

(やっと手に入る  お前も味わえ   俺の苦しみを)

その時なぜか内に秘めた言葉が重なった気がしたがもうどうでもいいことだった。

「僕もう部屋もどるね、勉強しなきゃ。」

食べ終えた皿を戻し、僕は自室へ戻り再び鏡の前に立った。

僕の顔はどこかあの老人のような忌々しい雰囲気を纏っている。

僕は目覚まし時計のアラームを朝の2時頃に設定し、それまでテスト勉強に励むことにした。

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「ピピーピピー」

アラームが脳内を覚醒させていく。

自室を出て暗い廊下を進んだ。普段なら当然恐怖を抱くものでも、獲物が眼前に迫っていると思うと笑が止まらない。ほほにはまた涎が垂れる。

「昴の部屋」

ドアに貼られているネームプレートを確認し、物音を立てないように部屋に入った。

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――花だ。本当に咲いている・・・――

昴の額にはしっかりと花が咲いていた。

暗い中でも淡い光を放っているのでよくわかった。

さらに近づいてみるそれは光ではなく粉だった。

「これが、花粉・・・」

僕はゆっくりと鼻を近づけて淡い光をすべて体内に取り込んだ。

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翌朝、すがすがしい気分でベッドから起き上がり、朝食も食べずに学校へ向かった。

効果はすぐに現れた。

授業が恐ろしい程頭に入ってくる。これまで解けなかったような発展問題も、なんなくこなせた。

部活の時なんてこれまで補欠以下の扱いを受けていた僕が、その日の活躍を監督が見て、レギュラー入の話を持ちかけてくるほどだった。

意気揚々と帰宅し、思い切って明るく「ただいま」と言ってみた。母は物珍しげに僕を見てきたが相変わらず返事はくれなかった。

(絶対に見返してやる!)

僕はひたすら前向きに、前向きに日々を過ごしていった。

―――

―――

―――昴の異変に気づくことなく・・・

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期末テストを難なく終え、部活に向かおうとしていたとき、僕は先生に呼び止められた。

「亮太、先生と一緒に今すぐ丸山病院に行くぞ。」

先生は息を荒げている。

「何かあったんですか?」

「落ち着いて聞け、お前の弟が・・・亡くなった。」

「えっ」

何がなんだかわからない。間違えなく原因はあの種だ。でもあれは人の才能を奪うんじゃないのか

病室にはいつも明るく振る舞い、活気のあった弟の姿はなかった。

ーー翌日あの老人も市場も消えていた。

取り返しのつかない後悔が積もっていくのと裏腹に、僕は変わっていった。

望んでいたものは確かに手に入ったかもしれない。

でも僕は失って初めて弟の大切さに気づいた。

何もかもがもう遅かったんだーー

続く

Concrete
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asuka satoさん
ご指摘ありがとうございます!
途中から亮太と昴ごっちゃごちゃごちゃになっていたので直しました!

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弟は昴じゃないんですか?
途中から弟の名前が亮太になってますが・・・。

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ネタバレ注意
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とても読みやすい文章だと思います
続編期待しています。

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