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「ジュンの事で相談があるんだ」
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私はマコに呼び出された。
相談内容は、容易に想像がついた。
ジュンは私の女友達で、二人は一年前から付き合っていた。
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「ジュンには、私と会うって報告してるんでしょうね?」
「当たり前だろ…言わなきゃまた手がつけられなくなる」
ふぅ…とマコは大きな溜息をついた。
顔色が悪い。
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ジュンは、とても嫉妬深かった。
マコが何時どこで何をしているか、誰と会うのか。
彼の全てを把握しなければ気が済まなかった。
少しでもマコが連絡を怠ろうものなら、ヒステリーを起こし、暴れた。
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「あいつが快く送り出してくれるのは、お前くらいだよ」
「…そうね。他の女と二人きりなんて、想像しただけでも怖いわ」
私に対するジュンの信頼は厚かった。
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「縁を切りたいなぁ…」
ポツリとマコがこぼす。
別れたいではなく、縁を切りたいと言った彼は、それ程までに追い詰められていたのだろう。
月並みな言葉でしか彼を慰められなかった自分を、今でも憎んでいる。
去り際、マコはこう言った。
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「俺、あいつに殺されるかもしれない」
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二週間後、マコは死んだ。
いや、殺された。
執拗に刃物で刺され、遺体はバラバラに切断されていた。
脚の一部は、無惨にも肉がえぐりとられていた。
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当然、私も警察署で事情を聞かれた。
マコは、大手の保険会社に就職が決まっていた。
周りから期待され、これから社会の一員として世に出るはずだったのに…
まるで霧の中にいるかの様にぼんやりし、涙が止まらなかった。
朦朧とした思考回路の中で、私は声を搾り出した。
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「…ジュンが…ジュンが殺したんじゃないんですか…‼」
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ジュンが逮捕されることはなかった。
マコの死亡推定時刻前後、ジュンとおぼしき女性が、マンションを出入りしてる姿を防犯カメラがとらえていた。
それは、彼女も認めている。
しかし、殺人については一貫して黙秘を続け、また彼女の犯行だと決定づけるだけの証拠も見つからなかった。
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私の中で、ジュンへの疑念が消えることはなかった。
マコは彼女と縁を切りたがっていた。
あれだけ執念深い女だ、別れ話をきり出され、逆上したとしてもおかしくないではないか。
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事件後、ジュンから何度も携帯に着信があった。
恋人を殺したかもしれない女と、何も話す事は無かった。
話したくもなかった。
私は彼女から、そして事件から逃げるように故郷を離れた。
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――――「…五年ぶりか…」
私は、帰ってきた。
また一段と、街並みが寂れたような気がする。
地方都市ならば、こんなものか。
大通りに沿いに、こ洒落たカフェができていた。
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「アキ?」
「え?」
ジュンだった。
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自分の表情が一気に曇るのがわかった。
「アキ、久しぶりだね。元気?」
逃げ出したかった。
できるなら、一生顔も見たくなかったのに…
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「俺、あいつに殺されるかもしれない」
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マコの最後の言葉が脳裏を過った。
彼は私と別れた後、何を思い、どのように過ごしていたのだろう。
なぜ、死ななければならなかったのだろう。
どれだけやりきれなくとも、マコの本当の最期を知っているのは、ジュンだけなのだ。
彼を殺していたとしても、そうではないとしても。
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外のオープンテラスに、向かい合って座る。
彼女の顔をまともに見たのは、何時ぶりだろうか。
料理が運ばれる。
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「アキは変わらないね」
「そうかな?ジュンだって」
「…」
「…」
沈黙が続いた。
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「…あのさ、マコの事なんだけど…」
「…うん」
「当時、彼すごく疲れてたみたいなんだけど、ジュンからみたマコはどうだった?」
「疲れてたよ。私のせい」
「…そう。一人になりたいような事言ってなかった?」
「…言ってた。私と別れたいって。私は、絶対離れたくないって言ったんだけど…でも、もう彼限界だったみたい」
「そう…」
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ふと遠くに目をやると、青年が一人、斜め向かいのオフィスビルへと入って行った。
営業マンだろうか。
どことなく雰囲気がマコに似ていた。
彼も生きていれば、今頃は…
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ジュンに視線を戻す。
知りたかった。マコの最期を。
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「…ねえ、ジュン。彼と最期に何を話したの?」
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びゅうっと秋風がテーブルをすり抜けた。
乱れた前髪を整える。
隣のテーブルの客が席を立った。
ウエイトレスが慣れた手つきで片付けはじめる。
カチャカチャと皿が音をたててトレーの上に重なっていく。
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「…ごちそうさまでした」
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私はその場で吐いた
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作者M