中編4
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ジュン

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「ジュンの事で相談があるんだ」

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私はマコに呼び出された。

相談内容は、容易に想像がついた。

ジュンは私の女友達で、二人は一年前から付き合っていた。

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「ジュンには、私と会うって報告してるんでしょうね?」

「当たり前だろ…言わなきゃまた手がつけられなくなる」

ふぅ…とマコは大きな溜息をついた。

顔色が悪い。

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ジュンは、とても嫉妬深かった。

マコが何時どこで何をしているか、誰と会うのか。

彼の全てを把握しなければ気が済まなかった。

少しでもマコが連絡を怠ろうものなら、ヒステリーを起こし、暴れた。

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「あいつが快く送り出してくれるのは、お前くらいだよ」

「…そうね。他の女と二人きりなんて、想像しただけでも怖いわ」

私に対するジュンの信頼は厚かった。

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「縁を切りたいなぁ…」

ポツリとマコがこぼす。

別れたいではなく、縁を切りたいと言った彼は、それ程までに追い詰められていたのだろう。

月並みな言葉でしか彼を慰められなかった自分を、今でも憎んでいる。

去り際、マコはこう言った。

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「俺、あいつに殺されるかもしれない」

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二週間後、マコは死んだ。

いや、殺された。

執拗に刃物で刺され、遺体はバラバラに切断されていた。

脚の一部は、無惨にも肉がえぐりとられていた。

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当然、私も警察署で事情を聞かれた。

マコは、大手の保険会社に就職が決まっていた。

周りから期待され、これから社会の一員として世に出るはずだったのに…

まるで霧の中にいるかの様にぼんやりし、涙が止まらなかった。

朦朧とした思考回路の中で、私は声を搾り出した。

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「…ジュンが…ジュンが殺したんじゃないんですか…‼」

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ジュンが逮捕されることはなかった。

マコの死亡推定時刻前後、ジュンとおぼしき女性が、マンションを出入りしてる姿を防犯カメラがとらえていた。

それは、彼女も認めている。

しかし、殺人については一貫して黙秘を続け、また彼女の犯行だと決定づけるだけの証拠も見つからなかった。

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私の中で、ジュンへの疑念が消えることはなかった。

マコは彼女と縁を切りたがっていた。

あれだけ執念深い女だ、別れ話をきり出され、逆上したとしてもおかしくないではないか。

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事件後、ジュンから何度も携帯に着信があった。

恋人を殺したかもしれない女と、何も話す事は無かった。

話したくもなかった。

私は彼女から、そして事件から逃げるように故郷を離れた。

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――――「…五年ぶりか…」

私は、帰ってきた。

また一段と、街並みが寂れたような気がする。

地方都市ならば、こんなものか。

大通りに沿いに、こ洒落たカフェができていた。

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「アキ?」

「え?」

ジュンだった。

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自分の表情が一気に曇るのがわかった。

「アキ、久しぶりだね。元気?」

逃げ出したかった。

できるなら、一生顔も見たくなかったのに…

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「俺、あいつに殺されるかもしれない」

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マコの最後の言葉が脳裏を過った。

彼は私と別れた後、何を思い、どのように過ごしていたのだろう。

なぜ、死ななければならなかったのだろう。

どれだけやりきれなくとも、マコの本当の最期を知っているのは、ジュンだけなのだ。

彼を殺していたとしても、そうではないとしても。

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外のオープンテラスに、向かい合って座る。

彼女の顔をまともに見たのは、何時ぶりだろうか。

料理が運ばれる。

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「アキは変わらないね」

「そうかな?ジュンだって」

「…」

「…」

沈黙が続いた。

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「…あのさ、マコの事なんだけど…」

「…うん」

「当時、彼すごく疲れてたみたいなんだけど、ジュンからみたマコはどうだった?」

「疲れてたよ。私のせい」

「…そう。一人になりたいような事言ってなかった?」

「…言ってた。私と別れたいって。私は、絶対離れたくないって言ったんだけど…でも、もう彼限界だったみたい」

「そう…」

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ふと遠くに目をやると、青年が一人、斜め向かいのオフィスビルへと入って行った。

営業マンだろうか。

どことなく雰囲気がマコに似ていた。

彼も生きていれば、今頃は…

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ジュンに視線を戻す。

知りたかった。マコの最期を。

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「…ねえ、ジュン。彼と最期に何を話したの?」

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びゅうっと秋風がテーブルをすり抜けた。

乱れた前髪を整える。

隣のテーブルの客が席を立った。

ウエイトレスが慣れた手つきで片付けはじめる。

カチャカチャと皿が音をたててトレーの上に重なっていく。

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「…ごちそうさまでした」

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私はその場で吐いた

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すけちゃんさん、まりかさん、ありがとうございます。
マコの遺体がどのような状態だったのか、そこからラストまで線で繋いでいくと、ジュンの言葉の本当の意味が解りますね。
まりかさん、何度も読み返して頂いて嬉しいです。

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話が深いですね。
想像しないとどういうものなのかわからないのが、深いです。

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