一九六七年六月
とある国の内地と外地で激しい戦争が起こった。
死者二万人、負傷者は四万人にのぼった。
国内は混乱し、周辺国への亡命が後をたたず、結果、難民の増加に拍車をかけた。
私は、記録係としてこの戦争に加わった。
友人達の多くが戦死してゆく中で、戦争というものの悲惨さ、残酷さを後世に伝えなければならない。
私にあるのは、その執念だけだった。
二年にも及ぶ戦争もやがて終戦を迎え、私は膨大な量の記録を整理する作業に追われた。
その中に、私の友人でもあったA(戦死 享年二十六才)の音声記録が残っていた。
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一九六八年八月
ザーザー…ザ…ザッ…
「…か?おい、A応答しろ‼」
「…だ。生きてるよ」
「そ…か、良か…た」
「今日な、娘…誕生日な…だ」
「そうか。娘さんの」
「早いなあ、も…七才だ」
「A、生きて帰…な?家族が待ってる」
「ああ、そ…だな…誰だ!?」
「どうした!?おい‼…おい‼」
「…大丈夫だ…子供だ」
「子供?」
「大方、親が死んじまっ…だろ」
――――以下、Aと子供のやり取りとなる。
「あっちいけ…食いもの…持ってねーよ」
「おじさ…外地の人?」
「…いいからあっち…け」
「みんな、しんだ。お父も、お母も…」
「…お前、いくつだ?」
「…ななさい」
「…俺の娘も、今日で七…だ」
「がっこうに行ってる?」
「…ああ、行ってるよ。お前は行っ…ないのか?」
「行ったことない…お父が…教えてくれてた」
「…そうか。それでいい…かもな」
「ど…して?」
「…内地は兵隊不足で、学校だと称して子…に思想教育を叩き込むそうだから」
「外地の人間を見…ら、刺し違えるくらいの…ひでぇ話…よ」
「お前のお父…は正解だよ。そんな所に、我が子を…たくなかったんだろ」
「…おじさん」
「あ?」
「おなじだよ」
「あ?」
「あたしも」
ザー…
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ここで通信は途絶えた。
作者M