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去年の夏
彼氏と付き合い始めて1ヶ月頃のこと。ある事件に遭った際に起きた出来事です。
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花火大会を観に行こうと買ったばかりの浴衣を着て支度をしていた時、彼氏の携帯に昔の知り合いから連絡があり彼は話をしていた。が、会話の途中で怒鳴り始め、携帯を放り投げた。彼氏を見ると顔面蒼白、冷や汗をかき、呼吸が乱れていた。慌てて症状の処置にあたり、休ませたばかりである。
花火大会は諦め、彼が休まるまで待ち、早急に帰ろうかと考えていた。
ところが彼が二階から降りてきて、花火大会に行くのは無理になったことに対して詫びを入れられ、飲みに行くことになってしまった。
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さっきまで顔が真っ青な人が、飲みに行こうと誘ってくるとは思わず、休ませようとした。けれど、もう大丈夫、行こうと言って聞かない。結局、私が折れてしまった。
だが流石というべきか、顔色は元に戻っており、見事なまでに元気なのだ。さっきの発作が出ていたのは本当だが治まるのが早い。一応、大事をとって、車の運転は止めさせ、歩いて飲み屋に行った。
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飲み屋に着くとすでに沢山の人が来ていた。
そのせいか、顔見知りの人以外にも、人が来ていた。
毎回来る時に座る席とは違うが、たまにはいいだろうと思い、空いてる席に腰掛けた。
飲み物を頼むとすぐに隣の男性が絡んできた。
30代後半から40代の男性と女性で、カップルだと分かる。そのカップルの男性が絡んできていた。
ちなみに席の順番は、左隣の人・H・私・男性・女性とこんな感じで座っていた。
(※30代後半〜40代の男性と女性=男、女とします。)
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男:「あれー?何〜?花火大会、行かないの〜?」
H:「はい、ちょっと、人が多いとこは苦手で…」
男:「そうなんだー。彼女、可愛いねー、浴衣着てるの?」
私:「はい(^^)この前、彼が買ってくれたんです。」
男:「いいなー。カップル揃って浴衣だって。なぁ、俺にも買ったくれよぉ。」
女:「えー」
男:「いいだろー?」
女:「また今度ねー」
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ウザい。の一言に尽きる。相当飲んでいるのか、ベロベロだ。しかも、男性は、図体がデカく、全身入れ墨を入れており、見るからにチンピラだ。女性は、私、昔やんちゃしてました、という感じである。
お店の人が声をかける。
店員:「あんた、その辺にしときな!昼間から大分飲んでんだから。ごめんねー、牡丹ちゃんとH。この人達、お昼頃から来て、ずっと飲んでるもんだからさぁ」
H:「あー、いいよ、気にしないで。牡丹、平気?」
私:「……うん(苦笑)」
H:「別のとこ行く?」
私:「ううん、大丈夫…。」
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嘘です。全然大丈夫じゃないです。嫌です、この人達、嫌です。ウザいです。早く何処かに行ってくれないかな、と内心荒ぶれている間に、何やら太ももに嫌な感触がする。
…お決まりの痴漢です。前の職場の影響か、声は出さず、冷静に対応出来る。男性の彼女に表情と目線で訴えると気付いてくれた。
女:「ちょっと、何やってるの⁉︎」
男:「いや〜、何もー…」
女:「ったく!ごめんね、嫌だったでしょ?」
私:「あー、まぁ、彼女さんが気付いてくれて、対応してくれたので、良かったです(苦笑)」
謝っている割には、目が怒っている。恐らく女性は嫉妬しているのだろう。
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しばらくは店員さんとも話をし、焼き鳥などのおつまみやお代わりのお酒も頼み、彼氏と話していた。彼氏は、左隣の人(※左隣の人=左隣とします。)とも話をしていた。
左隣:「彼女、大丈夫?」
H:「無理してますね…」
左隣:「…気をつけてあげな」
H:「はい、すいません、気にかけてもらって…」
左隣:「いや、いいんだよ。あいつの絡みがちょっとなー…」
H:「ですよね…」
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その頃、30代後半から40代のカップルは、飲みの場で◯スをし始めた。
場違いなことするなよと思っていると、また絡んでくる。
平日で、しかも午後の5時くらいにこんな場末の飲み屋に来る若いカップルは、他にいないからなのだろうか?
絡みがしつこい。
まぁ、彼氏も適当に対応しているし、上手いこと楽しんでる。
何やら私の彼氏と女性の彼氏は、日本酒を出してもらい、盃を交わそうとしている。
男:「おい、兄ちゃん、男と男の盃交せ。」
H:「…いいですよ。」
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あーぁ、交わしちゃったかー…、ニッコリ笑ってるなー…。それ、後々面倒なことになるの、この人は知らないんだろうなー。私の彼氏、そういうのに凄い煩いからなー、と思いながら見ていた。が、彼氏は全て飲まず、店員さんも分かっているのか、男がトイレに行っている間にお酒を捨てた。下らない奴と男と男の盃を交わす気は毛頭なく、全部飲む必要がないと判断したんだろう。
彼氏の携帯電話が鳴り、外で電話をしているとお母様からだった。内容は、彼氏のお母様も一緒に飲んでいいか?ということだ。勿論、ok。来るまで待つことにした。
男性がトイレから戻って来ると、また話し始めた。彼氏は彼氏で楽しそうである。店員さんと男性で今は少なくとも、楽しくしていそうだ。女性は、男性と入れ違いにトイレに行く。
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すると突然、夜の営みの話になり、根掘り葉掘り聞いてきた。
彼氏は、なんなくかわしていたが、それが癪に障ったのか、いきなり私に振ってきた。
男:「ねー、彼女」
私:「はい。」
男:「彼氏は、夜、頑張ってくれてるのぉ〜?てか、彼氏の、大きいのぉー?」
私:「………。」
店員:「あんた、何聞いてんだい⁈」
男:「うるせぇ、あんたは黙れ。なぁ、どうなんだ?」
女:「……。」
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いつの間にかトイレから戻ってきた女性は、自分の彼氏が自分より若い女に触り、痴漢したことが気に食わないのか、黙っている。聞いていいことと悪いことがあるのに、止めもしない。
店員は言う。
店員:「牡丹ちゃん、そんな質問に答えなくていいよ。」
いや…ここで応えてないと、彼氏は彼氏で恥をかく。あと、私は応えられないと思って、こんなことを聞かれている。応えない訳にはいかない。
私は、笑って応えた。
私:「…彼氏は、夜のこともとても頑張ってくれてますし、<心>も大事なところも、大きいです(^^)」
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一番最初に話したのが、店員さんだった。
店員:「牡丹ちゃん、あんた、涼しい顔して言うね〜‼︎(^^)」
H:「いや〜、あははは!(*^^*)びっくりした!まさかこの場で褒めてくれるとは!」
左隣:「兄ちゃん、良かったねー(^^)彼女も言うね〜」
30代後半から40代のカップルは無言になった。
もう絡んでこなくなり、いずらくなったのか、女性が帰ろうとしている。
女:「すいません、お会計を…」
店員:「はいよー」
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男性はまだ飲んでいる。
お会計が見えていた為、目に映る。七千円を越えていた。安い飲み屋で七千円を越えるとなると、結構長い時間飲んでいたことが分かる。
割り勘をすると思いきや、男性は、まだ飲むと言い始め、席を離れようとしない。そればかりか、まだ飲もうぜと言う始末。
会計は、女性が殆ど出していたが、男性は千円少ししか出していない。もう千円出したと思うと「これでもう一杯」と言い出す。
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女:「ほーらー!帰るよ‼︎」
男:「帰らない。まだ俺は飲める。」
女:「飲める訳ないでしょ⁉︎早く帰るよ‼︎」
男:「うるせぇなー、飲ませろ。お前も飲め。」
店員:「ほら、お金戻しな!あんたの彼女が帰りたがってるじゃないか。」
男:「うるせぇ。ほら、この金で酒出せ。」
女:「これ以上いても、意味ないから!飲みたいなら、あたしの家で飲めるじゃん!あたし、聞き分けのない人、嫌いだよ⁉︎」
店員:「あんた、本当にいい加減にしな!タクシー呼ぶよ!」
男:「んだよ、まだいいだろー、金出してんだから。」
女:「いい訳ないでしょ!ほら、タクシー来たよ!」
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お金を出して、カッコつけているのだろうか?と思うくらい情けない有り様である。今度は、出したお金のことで揉めている。追い出すのに手こずっているのを見ていられないのか、一番の古株である店長のおばあさんが出て来て怒鳴った。
店長:「いい加減にしな‼︎あんたに飲ます酒はないよ‼︎」
さっきまで笑って他のお客さんと話していたが、凄い切り替わりである。流石、一番の古株の店長。迫力が違う。お酒が入ったコップを取り上げ、男性の元に向かう。
男はその勢いに負け、目が点になり、動かない。
おばあさんは、あのデカい図体の男の首根っこを掴み、席を立たせ、外へ歩かせる。
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出入り口に差し掛かったところで、男性は何故かしがみつく。
男:「離せ!俺はまだ飲める‼︎」
女:「いい加減にして!飲める訳ないんだから!ほら帰るよ‼︎」
店長:「ほら、帰りな!」
しがみ付いた男を外へ連れ出し、タクシーに乗せようとしたのか男は抵抗する。
丁度その時、彼氏のお母様が来た。
店員と久しぶりに会話するのか、ニコニコ笑ってる。さっき出て行ったカップルの席を詰めて座り、注文をした。座った席の順番は、左隣の人・彼氏のお母様・彼氏・私の順になった。お酒が出て来ると一気に飲み干し、また次を頼む。2杯目を飲み終わり、お代わりを頼む。流石はお母様。良い飲みっぷりで…。
外では、怒鳴り声が聞こえ、何かを蹴る音がする。
そして男はとぐろを巻いて、戻ってきた。
次の瞬間、けたたましい音とともに、窓ガラスを割った。
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窓ガラスを割り、破片は飛び散り、左隣の人は、一旦逃げる。彼氏のお母様は驚きはしたが、お酒を飲んでいる。近所にいた人は、何事かと飛び出して飲み屋に来る。彼氏は私を庇い、私は音に驚き怯える。
男は、店に入り「酒を出せって、言ってんだろうが‼︎」と吠えた後、血まみれの手で私の頭上に拳を振り落とす。振り落とした瞬間、左隣の人が駆け付け、拳を手で受け止め、タオルで止血する。
私の頭上に血まみれの左手の拳を振り落とそうとした為、私は当然血まみれになり、彼氏と共に外へ出たのはいいが泣き出してしまった。
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修羅場となった飲み屋。お客さんは皆、外へ。左隣の人は手当てをし終わったが、唖然としている。男は手当てを受けてまた暴れ始めていた。男の彼女は泣いて呆然とし、店員は怖がり、男の彼女と泣く。近所の人が交番に知らせたのだろうか?警察が駆け付け、男を取り押えようとするが、押さえるには人手が足らず、応援を要請する。
彼氏に連れられ外へ出た私は暴れている男を見て、更に泣いた。
泣いている私を見て、彼氏のお母様は慌ててタクシーを呼び、彼氏は私を支え、タクシーに乗せる。
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振り上げられた拳と血
それらが目に焼き付いて離れない。
ずっと名前を呼ばれていた気がするが、返事をしていいのか、その判断さえ出来なかった。
彼氏の家に着いても泣き止むことはなく、浴衣から私服に着替えさせられる。その際、血がついた浴衣を見てしまい、また泣き崩れてしまった。生まれて初めて、恋人に買ってもらった浴衣を「血」で汚されていた事実にショックを受けた…。
浴衣に抱き付き「ごめんね」を連呼してしまう私の姿を見て、彼は後ろから私を抱き締めた。
その状態のまま、私は頭に浮かんだ怨みごとを言った。
「この浴衣の汚れが落ちても私の心には、消えない汚れがついた。袖を通しても、もう買って貰った時の浴衣とは違う。一生、ユルサナイ」
そう言って、力尽き倒れた。
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気が付くと布団に寝かされていた。
身体は重く、目は腫れているのか開きずらい。
浴衣は何処に行ったのだろう…
一階に下に降りると彼がいた。
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H:「起きたか…。」
私:「……(頷く)。」
H:「……おいで」
思い切り強く抱き締めてくれた。子供の様に泣いたのを覚えてる。
この日は、泣き疲れてそのまま寝てしまった。
傍で「ごめん」と苦しそうな声が聞こえていたけれど、何も答えられなかった。
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翌日、起きるとお昼になっていた。
下に降りると、彼と彼のお母様が起きていた。
私:「おはようございます。昨日は、ご心配かけてすいませんでした。」
彼とお母様:「おはよう。」
お母様:「そんなことないわ。牡丹ちゃんが悪いんじゃないんだよ。」
彼:「…牡丹。キツいかもしれないけど、聞いてくれ。さっき母さんからの情報で聞いたんだけど、アイツは散々暴れ回って、周りの店のものを壊した後、10人以上の警察官に取り押えられたんだ。」
お母様:「大暴れした挙句、留置所に入ってるみたい。」
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起きてからそんな情報、聞きたくなかった。
けど、被害を被ったのはこちらだから、話を聞かなければならないのだろう…。
私:「そうなんですか…。今は、留置所ですか。」
お母様:「うん。そこにいるみたい。」
彼:「…浴衣のことだけど、お店に持ってって、血を落として貰おう。クリーニングも出来るって、説明受けてたから。」
私:「……うん。」
浴衣を買ったお店に持って行き、事情を説明して、お店の人は私を気にかけてくれて、浴衣と帯の汚れを早急にクリーニング出来るよう手配してくれた。
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彼の家に帰ると、4匹の猫ちゃんが迎えいれてくれた。
「おかえりー。」「どうしたのー?」「大丈夫ー?」「お姉ちゃん、なんかいつもと違う。」と言うように周りをウロウロされ、「大丈夫よー(^^)心配かけてごめんねー」と皆の頭を撫でた。
二階に行き、布団に寝転ぶと浴衣を思い出してしまい、一人で泣いた。今は、空元気でやり過ごすしかないと考えていた。
しばらくすると彼が来て「ごめん」と謝られた。
私:「大丈夫。そんなに謝らないで?」
H:「…牡丹を守れなかったから。」
私:「Hさんが悪い訳じゃないよ」
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しばらく話した後、気分転換に一緒に散歩に行くことになった。
家を出て、ゆっくり歩いて昨日のことを振り返るとあの大暴れした男のことが頭に浮かんだ。
その途端に肩、背中、首が重くなった。
H:「どうした?」.
私:「…い。」
H:「ん?」
私:「…重い。」
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H:「…ちょっと待ってて。」
私の背中を見て、おもむろに背中を叩く。
私:「っ…!痛い。」
H:「我慢して。牡丹が自分で連れてきちゃったみたいだから、時間かかるよ。」
数分後、ようやく離れたらしい。
私:「ねぇ」
H:「ん?」
私:「連れて来たって?」
H:「それは後でね。今は、散歩しよう?」
気になるが、手を繋いでゆっくりと散歩をした。
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帰って来て、説明してもらった。
H:「なぁ…。牡丹は、アイツが許せなかったんだよね?」
私:「…うん。」
H:「その想いが強すぎて、牡丹がアイツに生霊を飛ばして、アイツの生霊ごと、持って帰って来たんだよ。」
私:「なんか、知らない間に飛ばしちゃったのね…。」
H:「…無理もないよ。あんなことされたんだから。アイツのしたことがよっぽど許せなくて、そうなったんだから、牡丹は悪くない。俺は、ついでにアイツの生霊を別のところに飛ばした。戻るには、時間がかかるから。」
彼氏にとって、アイツへの仕返しなんだろう…
不謹慎だが、少しだけ嬉しかった。
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実は、飛ばしたのには心当たりがある。
それは怨みごとを言った時のことで、何かが私の中から抜け出たように感じたのだ。
きっとその時に「私」はアイツのとこに行ったのだろう。本当に、許せなかったから。
許せないと想っていたから、連れて来た程度で済んだ。けれど、もし、殺してやりたいと想っていたら?
私は、自分でも知らない間にアイツを殺していたのかもしれない…。
作者退会会員
こんにちは。
今回は、飛ばして連れてきちゃったお話です。
でも、そうなったことには訳があります。
良かったら、読んで下さい。
誤字脱字は、ご指摘をお願いします。