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こんにちは。
自作品の「白い毛」に登場していない、私の不注意で命を奪った仔猫のお話をします。
前回は「忘れないで」で書かせて頂きましたが、今回はもうひとつのお話です。
怖いというより、悲しいお話です。
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「元気」の命を奪ったのは、16歳の真冬の12月の末でした。
当時、マイケル、トントン、カンカンという3匹の家族が居ました。
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その年の初秋、高校から自転車で帰っている時、わりと大きな児童公園から、猫の鳴き声が聞こえてきました。
鳴き声から推測すると、仔猫だと感じて児童公園に向かいました。
自転車を公園の入り口に停めて、歩いて公園内を仔猫の鳴き声を頼りに探しました。
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すると、鳴き声は女子トイレの方から聞こえてきます。
女子トイレに入ると、鳴き声は和式トイレに備え付けてある、汚物入れの中から聞こえてきました。
汚物入れを開けると、小さな身体で必死に立ち上がろうと「ビィービィー」とカスレた声で仔猫が鳴いていました。
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私は汚物入れから仔猫を取り出し、身体を見ると臍の緒は付いてなかったので、生後2〜3週間という感じがしました。
多分、自宅で飼い猫が出産して、飼い主が捨てたんだと思います。
トイレの汚物入れに捨てるなんて、本当に身勝手な飼い主だと怒りが込み上げてきました。
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仔猫をこのまま置いて帰る事は出来ないので、子猫には悪いけど通学カバンの中に入れて帰宅しました。
帰宅後は、取り敢えず母親が帰ってくるまでは何も出来ないので、小さいを段ボールを物置から持ってきて、中にタオルを敷いて子猫を入れました。
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入れたのはいいんだけど、元気がいいのか立ち上がってジャンプするんですよね。
まだ段ボールから出ることは出来ないみたい。
トントンとカンカンは、興味津々で仔猫を覗き込みます。
仔猫は、覗き込むトントンとカンカンを親だと勘違いしてギャン鳴き(笑)
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それに驚いたトントンとカンカンは、自分の寝床に消えました。
マイケルはマイペースなのか優しいのか、手作りキャットタワーの一番高い場所から見下ろすだけ。
その光景に、笑みを浮かべながら仔猫を見てました。
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そうこうしている間に、時間も夕方6時前になり、母親が仕事から帰ってきました。
そして、居間の段ボールに気付きました。
「まぁ〜た拾ってきたんね…」
母親は、呆れた感じでぼやきました。
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「○○町の児童公園のトイレの汚物入れに入っとったんよ?ほっとけんかった…」
私は頭を掻きながら、母親に軽く頭を下げた。
「まだ仔猫やろ?病気とか持っとったら嫌やし、今から動物病院に連れてくけん。
そんで、病気持っとったら飼われんよ?」
母親に念を押された。
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「大丈夫!私も一緒に動物病院に行く!」
「なら、早う行くよ?」
母親の運転する車で、近くの動物病院に仔猫と一緒に行く事にした。
動物病院に着くと、待ち時間もなくすぐに診察が始まった。
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血液検査とか色々な検査をした結果、異常無しという事だった。
「で、どうするん?この仔、飼うん?」
動物病院で、母親から聞かれた。
「飼いたいな…」
可愛気に聞いてみた。
「世話出来るんか?」
「大丈夫!ちゃんとお世話するから!」
「その目は真剣やね?じゃあ必要なモン買わんとな…」
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保護した仔猫は、推定生後2週間位で母乳が必要だった。
動物病院で、仔猫用の粉ミルクと哺乳瓶を飼って帰宅した。
以前、育児放棄で子育てしなくなった親猫から仔猫を保護して、育てた事があった。
だから、多少の自信はあった。
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私は、仔猫を胸に抱き帰宅した。
それから、自室で仔猫を育てるのに必死だった。
まだ自分で用が足せないので、綿棒で下腹部を刺激して糞尿をさせる。
刺激して用を足すから、一緒にテイッシュ数枚も準備。
本当に楽しかった。
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一週間もすると、私の事を覚えてくれた。
朝は5時過ぎお腹が空いたと鳴かれ、寝ぼけ眼でミルクを準備。
部屋の電気を付けると、哺乳瓶を持つ私を見て、段ボールの縁に立ち両手を伸ばして、鳴きながら「ミルクちょうだい」とギャン鳴き。
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ミルクを飲ませる前に、糞尿を出させる。
出なくても出るまで刺激すると、雫のような可愛い尿を出すから、また可愛さ倍増(笑)
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仔猫の身体をハンドタオルで包んで、哺乳瓶の乳首を仔猫の口元に持っていくと、乳首の蓋を前脚でガシッと掴み、勢い良く飲んでくれる。
そこが、可愛らしくて笑みしか出なかった。
私は学生だから、朝から夕方までは家に帰れない。
本当は、昼間もミルクを与えないといけない。
それができなくて、可哀想な育て方をしていた。
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学校に行っている間は、小鳥用の鳥小屋に入ってもらっていた。
鳥小屋の下にはペットシーツを敷いて、糞尿をしても大丈夫な感じにしていた。
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季節も師走にかわり、そろそろ離乳食を始める頃になっていた。
トイレは、仔猫の身体でも簡単に糞尿が出来るように、大きなタッパを改造してトイレを作り、教え込んだら3日間で完璧に覚えてくれた。
トイレの心配もないので、自室に炬燵を設置して、仔猫は炬燵布団がお気に入りの場所になっていた。
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世の中はクリスマス一色。
彼氏などいない私は、雄猫の仔猫が彼氏でした♪
冬休みで、毎日一緒にいられる。
それが、楽しみで仕方なかった。
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大晦日の前日の昼間。
お昼ご飯のミルクを準備して、ミルクを飲ませた。
飲ませ終わった後、中学時代の友達から家電に電話があって、近所に出来たカラオケBOXに行こうという話になった。
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当時のカラオケとは、今のような通信カラオケ&カラオケ屋ではなく、レーザーディスクのカラオケで、今では信じられない1曲100円(笑)
貨車の中に部屋を作り、貨車自体がカラオケルームとなっていた。
約束の時間は、お昼過ぎの3時。
30分前から、準備に取り掛かり、居間と自室を行き来していた。
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その時だった。
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”ゴリッ”と、何かを踏んだ感触が、足裏に伝わった。
私が踏んだ場所は、自室に置いている炬燵布団の縁だった。
急いで炬燵布団をめくると、仔猫の頭が…。
私は、仔猫の頭を踏み潰したんです。
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思い出しながら書いてるので、文字にするのも辛いですが…。
仔猫を抱き上げると、身体は痙攣して糞尿垂れ流し。
頭が半分陥没。
顔は…表情は、口を大きく開けて、苦しそうに…してます。
私は、仔猫を抱えたまま、部屋を右往左往。
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動物病院に今連れて行けば助かるかな?
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でも、頭が半分陥没してるし…
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また安楽死?
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そんな事を考えている間、子猫の口からギューギューと聞いた事がない、苦しそうな息遣いに変わりました。
私は、友達との約束も忘れて、まだ両手に乗るほどの仔猫…。
そういえば、まだ名前も付けてなかった。
もう、100%亡くなる。
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そう感じた私は即座に「元気」と名付けました。
小学生の時に観た「がんばれ元気」というアニメから主人公の名前を貰った。
それから、数十分後、元気は私の両手の中で息を引き取った。
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友達とカラオケの約束さえしなければ…。
炬燵布団の縁を踏まなかったら…。
元気は死なず、大きく育っていた。
亡くした後で悔んでも仕方ないけど、悔やんでも悔やみきれない。
今でもこの光景は、鮮明に思い出す。
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炬燵布団は、踏まないように注意していたのに、この日はカラオケの事しか頭になく、元気の事を考えていなかった。
本当に、今でも悔しくて仕方ありません。
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友達との約束は、私がドタキャンした形になって、今のように携帯などない時代で、やっと業務用のポケベルが出回っていた時代。
友達には翌日、事後報告という形で事情を伝え、一人の友達は元気の事を知っている子だったので、その子とは今でも大親友です。
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亡骸は、小さ過ぎて火葬出来なかったので、家の庭の花壇に埋葬しました。
そして、小さな墓石を作り、実家に寄った時は手を合わせています。
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おわり
作者真砂鈴(まさりん)