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短編2
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壁の中

  あれは結構昔――記憶が曖昧でよく思い出せないのだけれど――確か僕はお婆ちゃん家に居たのだっけ。

 夏休みだったから、だと思う。その時、初めて一人でお婆ちゃん家に行ったのだった気がする。お婆ちゃんはとても親切に迎えてくれた。いや、その時だけじゃなくて、お婆ちゃんは何時も僕に親切だ。

 お爺ちゃんが僕が生まれた数ヵ月後に死んで、それからお婆ちゃんはずっと一人暮らしだった。だから僕が来るとき相当、嬉しかったのだろう。もう、大人にになった今はそれ程頻繁にいかないけれど、偶に顔を覗かせる。それでも、お婆ちゃんもそろそろ九十歳だから、もうそろそろ死ぬのかな。

 人が死ぬときの悲しみはよく知っている。お爺ちゃんの時なんかは、まだ零歳児だったから、悲しみなんて知らないけど、小学五年生の時ぐらいにお母さんが癌で死んでしまった。

 ああ、確か、そんな時、僕は自立するとか何とかで、一人で始めてお婆ちゃんの家に行ったのだった。

 僕には小さい頃からのお気に入りの部屋があった。

 お爺ちゃんの仏壇が置いてある部屋だ。お父さんにはあまり入るな、と注意された。でも、僕がその部屋を気に入っていることをお婆ちゃんは気に入っているようだった。

 爺さんはそれはそれは頑固で、笑顔を見せなかった。でもねえ、あんたが生まれたときは、これでもかってぐらいに満面に笑みを浮かべていたんだよぉ――僕がその部屋でごろごろしていると、決まってお婆ちゃんはそんな話をした。

 あの部屋はどうしてか分からないけど、好きだった。顔すら覚えてないはずのお爺ちゃんの匂いに包まれるのが心地よかった。夏に入るとなんだか涼しくて、お婆ちゃんがカキ氷を持ってきてくれた。

 そうだ。穴があった。部屋の壁にぽっかりと、野球ボールぐらいの穴が。

 中を覗きはしなかった。別に興味もなかったし、特に気になりもしなかった。

 でも、その穴に何かあったのだ。何だっけな。そうだ。

 顔だ。穴の中から、老けた顔の男の人がしかめっ面で此方を睨んでいたんだ。そこにはお母さんも居た。

 矢鱈、蒼白した顔で、蒼い目をぎらぎらと光らせて、此方を睨んでいた。

 でも、僕は気にならなかったから、気にせず漫画を読んでいたのだっけ。

 唐突に電話が鳴った。

 電話に出ると、お婆ちゃんが亡くなったという父からの電話だった。

 お坊さんがお経を唱えている。不思議と涙が出てこない。

 お婆ちゃんは土に還ったのだ。安らかに眠るのだ。

 ふと、壁に目が留まる。

 そこには老人と、お母さんとお婆ちゃんがぎゅうぎゅうに押し合って、僕を見ようとしていた。全員、真っ白い顔で僕を睨んでいる。

 嗚呼、僕も死んだらあそこへ行くのかな。

 それは何だか――厭だ。

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成仏されてるんですよね?
睨んでいるのではなくて、見守っているのではないですか?愛しい孫を、息子を見守っていたいけど、この穴狭いわって押し合いへし合い…で睨んでいるように見えるのかな?

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