ある昼下がりのトイレの中で

中編6
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ある昼下がりのトイレの中で

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ある昼下がりのこと。

授業中、クラスの大人しめの男の子が教室で吐いた。

私は保健委員だから、その子を保健室に連れて行った。

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その途中で、その子は「気持ち悪い、トイレに行く」と言った。

だから、私は男子トイレの前で待っていた。

その子は個室に入っていった。

普段なら男子トイレを覗くような真似はしないが、心配だったからずっと様子を見ていた。

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だが、その子は5分経っても10分経っても出てくる気配がない。

私は心配になり、意を決して男子トイレに入っていった。

その子が入っていったドアをノックした。

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だが、返答はない。

斎藤君、大丈夫?

音一つしない。

さすがに本気で倒れているんじゃないかと心配になってきた。

それでら先生を呼びに行こうと教室へ向かった。

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教室では授業が行われており、少し入りづらかったが、仕方がない。

私は先生に事情を説明した。

先生は自習をしておくようにと皆に伝え、すぐに私と共にトイレに向かった。

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ドアはまだ閉まったままだった。

先生は「斎藤君、大丈夫?返事して」と言いながら、激しくドアを叩いている。

それでも返事がない。

先生は私に保健室に行って保健の先生を呼んでくるよう言った。

私は急いで保健室に向かった。

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私は、勢いよく保健室のドアを開けた。

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すると、そこに嘔吐した男の子がいた。

私は一瞬その状況が理解できなかった。

だってトイレにいるはずの、トイレでおそらく倒れているはずの男の子が目の前にいたんだから。

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私は混乱する頭でなんとか、今さっき起きたことを保健の先生に伝えた。

そこにいた男の子もそれを聞いていた。

そして、その子は不思議そうに言った。

僕は確かに、加藤さん(私のこと)に保健室に連れて行ってもらった。

だけど、途中でトイレに行ったりしてないし、加藤さんすぐ教室に戻っていったよ。

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正直、その状況は理解できなかったし、その男の子が嘘を付いたんだと私は思った。

どうやってトイレから出たのかは分からないけど、何かトリックを使ったんだろうと。

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それでも、保健の先生は念のためにそのトイレに行こうと言った。

だから、私と保健の先生、そして大分調子がよくなったその男の子はトイレに向かった。

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トイレに担任の先生の姿はなかった。

他の先生でも呼びにいったのだろうか。

ドアはやはり閉まったままだった。

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保健の先生は声をかけたり、ドアをノックしたりしている。

だが、全く物音はしない。

私も声をかけてみたが、やはり反応はない。

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他の先生を呼んで、ドアをこじ開けよう。

保健の先生は男の子に、職員室に他の先生を呼びに行くように頼んだ。

その間も私と保健の先生はドアの向こうに呼びかけ続けた。

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少しして、男の子と共に数人の先生たちがやってきた。

その中には担任の先生もいた。

男の先生を中心にドアを力尽くでこじ開けた。

なかなか開かず苦戦したが、どうにか鍵の部分を壊すことに成功した。

ついにドアは開けられた。

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そこには首を吊った死体があった。

顔は鬱血してパンパンに腫れている。

そして、口からは舌が飛び出て、耳からも血が出ている。

わずかに嫌な匂いもする。

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もう助からないってことは誰の目から見ても明らかだった。

それでも先生たちは必死で、死体を降ろそうとしていた。

私は何もできず、ただその光景をぼんやりと見ていた。

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私は、ふと顔を上げた。

そこには鏡があった。

鏡には私が写っているはずだ。

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だが、そこに写っていたのは赤黒く腫れた顔であった。

そして、苦痛で歪み、涙を浮かべていた。

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えっ?

私は思わず言っていた。

この人誰?

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担任の先生と目があった。

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それはね、お前だよ。

担任はにやりと笑って、そう私の耳元で囁いた。

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目の前が真っ暗になっていった。

なんで?

どうして?

私は死んだの?

嫌だ…

死にたくないよ

もっと生きたかった…

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そこは教室だった。

夕日が教室をオレンジ色に染めている。

教室には先生と私だけ。

いつもなら騒がしいはずの教室がしんとしている。

先生は静かに私に近づいてくる。

柔らかい笑顔を向ける先生に、私も自然と笑みがこぼれる。

大好きな先生は、一歩、また一歩と近づいてくる。

だが、その手にはロープが握られていた。

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6年2組の担任の先生はかっこいいし優しいから、みんなからも人気があった。

私もそんな先生に憧れている一人だった。

そんな先生に、私は、ある日の放課後、誰もいない教室で好きって言われた。

最初は、私をからかっているんだって思ってた。

だけど、すぐにそれが本気なんだって分かった。

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私たちは放課後の教室で段々と仲良くなっていった。

手も繋いだ。

キスもした。

それも舌を使う方。

私は幸せだった。

クラスの担任だけど、私だけの先生のような気がしていた。

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だけど、そんな幸せな日々はほんの些細なことで崩れ去った。

私はある時、クラスの男の子に告白された。

その男の子は大人しくてちょっと体が弱い子だった。

私はその子の告白を断った。

そうしたら、その子に言われた。

僕、見たんだ。

先生と君が教室で放課後してたこと。

加藤は利用されてるだけだよ。

もうそんなことはやめて。

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私は血の気が引く思いだった。

だって、先生とのことはバレちゃいけないことなのに…

どうしよう、そう思った。

そして、私はそのことを先生に伝えた。

すると、先生は「俺に任せてくれ。大丈夫だから。」そう言った。

やっぱり頼もしい、私はさらに先生のことが好きになった。

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だけど、その日の放課後、私は先生に殺された。

その日は夕日が綺麗だった。

私は涙で滲む世界がオレンジ色から真っ黒に変わる様を、絶望と恐怖で眺めていた。

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ある学校のトイレで、生徒が首を吊っているという通報があった。

駆けつけた警察官たちは、自殺として処理しようとした。

だが、遺族の強い希望により解剖をして、他殺の可能性が高いということで、捜査がされることとなった。

そして、捜査が進み、一人の容疑者が逮捕された。

それは被害者の子の担任の先生であった。

被害者と容疑者は恋愛関係にあったという。

そして、その関係が一部の生徒にバレた。

そのため、関係の発覚を恐れての犯行だった。

万が一そのことを追及されてもシラを切り通せるように殺したと、供述したそうだ。

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それから、これは事件とは直接的には関係ないが、死体発見時の状況を説明する上では必要であろう。

事件のあった次の日も、容疑者はいつも通り平然と授業を行っていたという。

そして、その日昼過ぎの授業中、一人の男子生徒が体調を崩し、保健室へと向かった。

その男子生徒は保健室へと向かう途中で、ふとトイレで声が聞こえた気がしたという。

近くまで行ってみると、女子トイレの一つのドアが閉まっている。

そして、そのドアから苦しそうな声が聞こえてきたという。

男子生徒は意を決して、女子トイレに入り、ドアをノックし、呼びかけた。

だが、返答がなかったため、とりあえずそのまま保健室へ行ったという。

そして、男子生徒は保健の教諭に事情を説明した。

それを聞いた保健室の先生は念のため、他の先生たちに連絡して、他の先生たちがトイレまで様子を見に行ったという。

そして、死体が発見された。

それから、のちに解剖を担当した医師は、「発見がもう少し遅ければ他殺であると判断できなかっただろう」と言った。

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この事件は被害者生徒のことを考え、報道規制をかけた事件でもある。

そしてまた、警察官たちの間では被害者の無念が事件を解決したんじゃないかと噂されている事件でもある。

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※この話はフィクションであり、実在の人物・団体などとは関係がありません。

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