中編3
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ある昼下がりの情事

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ある昼下がりのこと。

古いアパートの一室に、女がやってきた。

俺はドアを開け、その女を招き入れた。

女は結婚していたが、旦那に暴力を振るわれているという。

不憫に思った俺だったが、できることなんてほとんど何もなく、傷だらけのその体を抱くたびに自分の不甲斐なさに胸が痛くなった。

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そんな生活もすでに1年になろうとしていた。

さすがに、俺もどうにかしなくてはと考えていた。

どこか遠いところに連れて行ってほしい。

女が俺にそう言ったのは、ちょうどそんな頃であった。

だから、俺は女とともに遠くに消えることにした。

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海沿いの、夕日が美しい町であった。

そんな町でも女は旦那の陰に怯えていた。

俺はどうすることもできず、ただそっと女を抱いた。

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そして、それから数日が経ったある昼下がりのこと。

警察から俺の携帯に連絡がきた。

女の遺体を発見したから、確認してほしい、ということだった。

俺は女を守れなかった無力感に打ちひしがれていた。

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警察署で、持ち物や歯型からあの女であると確定したことを知らされた。

だから、俺はもう確認する必要はなくなった。

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それでも、俺は女と再び会った。

どうしても謝りたかったからだ。

だが、俺にはあの女なのかどうかよく分からなかった。

いや、恐らく誰にも分からないだろう。

なぜなら、その遺体は1年ほど経っていたからだった。

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それはおかしい。

俺はそう、警官に言った。

ちょうど1年前に俺と女は出会ったのだ。

そして、昼下がりに俺のぼろアパートに来ることだけが、女にとっては安らげる瞬間であった。

それから、数日前に俺たちは駆け落ち同然に遠くへ行った、と。

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すると、警官は、安っぽい腕時計を見せた。

それは俺の腕時計であった。

そして、駆け落ち前に俺が女にあげたものでもあった。

俺と同じ時間を過ごしたいからと、女はそれを身につけたのだった。

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警官は、俺に言った。

遺体には不自然に綺麗なこの腕時計がしてあったんですよ。

最初は我々も遺体を掘り起こして、付けたんだと思いました。

ですが、土は固く、そういう可能性はほぼないと判断しました。

これに心当たりがありますよね?

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はい。

重々しい空気が流れる中、時計の秒針を刻む音だけが不気味に部屋に響いている。

俺が、あいつにあげました

ほんの…数日前に

思わず嗚咽が漏れる。

警官は急に柔らかい表情となり、そうですか、と呟いた。

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それから数日後、女の夫は、殺人容疑で逮捕された。

1年前に女を殺したということを認めたという。

普段から女に暴力を振るっていたが、あの夜はじめて反抗されて、カッとなって殺したと供述した。

そして、その遺体は海沿いの町、つまり俺と駆け落ちしたあの町にある山に埋めたことも認めた。

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俺が1年間あのアパートで会っていたのは、何なのかは分からない。

ただ、それは俺にとって大切な人であることに変わりはない。

形見の腕時計は、今も大事に付けている。

その間は、女と同じ時間を過ごすことができるから。

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だけど、そろそろ俺は伝えるべきだろう。

たまには腕時計を外させてくれって。

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プロトコルさん、コメントありがとうございます!

感動できる話を、と思っていたので、そう言っていただけてうれしいです
ありがとうございます

応援ありがとうございます
これからも頑張って作っていこうと思います!

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怖さよりも切なさとか感動の方が大きいですね。
個人的にとても好きだなと感じることの出来る話でした。
これからも頑張ってください。

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