足が見える。艶々していて、色っぽい。しゃぶりつきたくなるような――厭な足だ。
男の癖にあんな足なんて許せない。私より美しいなんて許さない。そんなことはありえない。
いっそのことこの足を喰ってやろうか。そうしたら、少しは気が晴れるかもしれない。
足を切り取って、浴槽に入れたところで私の満足は得られなかった。私の愛した男――そして世界で一番憎んだ男。
今も憎い。憎くて憎くて憎くて憎くて。
許せない。
でも、私が憎かったのは足であって男じゃない。だから正確に言えば世界で一番憎んだのは男の足だ。
この艶かしい足は人々の目を引き付ける。だって、怖い程に美しいから。
足を切り取るにはまず、男を殺す必要があった。だって、生きてる状態で足を切ったら痛いに決まっている。医者でないから、麻酔なんてできるはずもないし。
愛していない男だったら、そのまま切り取っていただろうけど、この人は私が愛した男だ。今も愛している。
もう喋らないけれど、呼吸なんてしないけど、目は開かないけど、それでいい。愛に言葉なんて要らない。
足がない男はもう完璧だ。私の高校時代から好きな――素晴らしい素晴らしい人だ。私が描いた理想の人を具現化した人だ。
好きで好きで好きで好きで好きで好きで仕方が無い。
でもこの人の足は昔から気に入らなかった。私より美しい。私の顔より美しい。
確かにこの人のことは好きだったけど、その足で歩いて、その足で行動して、その足のまま私と夜を共にして――許せなかった。気持ちが悪い。私の最愛の男を動かしている足が憎くて、いや、別に嫉妬してるわけじゃない。所詮、足だ。でも、私より美しいのだけは許せない。
付け根から爪先まで男の足とは思えないぐらいに美しい。先程見たら、『中身』も美しかった。
そんなところが。この人のそんな足が。
憎い憎い憎い憎い憎い。気が狂いそうな程に。
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犯した。死体の彼を何度も。足がないから、少しやり難かったけど、足があるよりはマシだ。ただやり難いだけ。
彼は動きはしない。でも、気持ちが良かった。今迄やったなかでも最高だった。
ただ擦るだけで、私は満足だ。自己満足でしかないけど、それで十分だ。
「好き」
私はそう言って、彼にキスをした。
嗚呼、冷たい。とてもつめたい。死んだ人の冷たさだ。また興奮してきた。
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自分より美しいものは憎い。嫉妬してしまう。身近な人なら尚更である。
でも人生は私に甘かったようで、両親は醜かったし、同級生も到底、私の美しさに届かなかった。
でも、この人の足だけは違う。私の全てを全否定して、覆した。この人には一目惚れだった。運命の人だって、直ぐに分かった。勇気を奮って、告白した。
両想いだった。
だけど。でも、それでも。なのに。
足は。私をあざ笑ったのよ。許せない。
許せなかった。
だから切った。
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ああ、浴槽の足はまだ生きている。まだ艶を失っていない。あの人は死んだというのに。
そんなの理不尽じゃないか。
ああ、何処までも何処までも。あの足は。
憎い。
作者なりそこない