自分のことを《木葉》と名乗った少年は、やっぱりわちゃわちゃとしながら言った。
「と、友達になってくれませんか・・・。」
珍しいと思って、驚いた。
友達というのは、何時の間にか何となく出来るものであって、態々相手の了承を得るものだとは思っていなかったからだ。
然し、断る理由も無い。
初めての同じ景色を見られる人間だ。
俺は頷き、右手を出した。
「・・・・・・えっと?」
困ったような顔になる木葉。不思議そうに俺が差し出した手を見ている。
「んー・・・?」
どうやら、意味が分かっていないらしい。
「握手。此れからよろしくな。」
「・・・あ!は、はい!」
慌てて左手で俺の手を掴み、ゆらゆらと数回揺らす。
「此方こそ、宜しくお願い致します。」
こうして、俺に新たな友人が出来た。
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木葉は、何だかよく分からない奴だった。
道端の浮遊霊らしき人影には情けない悲鳴をあげるくせに、神社の境内で蠢いている目が沢山付いているスライムのような何かには、歓声を上げながら近寄って行ったりする。
頭が抉れた赤ん坊が居る地蔵の前はダッシュで通り過ぎるくせに、頭と足が妙に獣染みた化け物の祠にはペコリと頭を下げて挨拶をする。
臆病なのかと思っていたが、一概にそうとも言えないらしい。相手に依って、態度が随分と違うのだ。
おまけに、常識というものが何だか擦れている。
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コンビニに行った時は周りをキョロキョロと見回し、物珍しそうにドリンク類が入れられたガラスケースを覗いていた。そして戸を開けようとして転けていた。更に、からあげくんを買おうとして、店員さんに声を掛けられず不発に終わっていた。
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コロコロを読ませてみると、少し困ったような顔をされた。どうやらお気に召さなかったらしい。
ジャンプならどうだと、兄の物を借りて読ませてみたが、此れもまた気に入らなかったらしく、わちゃわちゃと困っていた。
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お弁当を持ち寄って遊んだ時、まさかの一面海苔弁だった。俺の弁当の唐揚げを分けてやると、喜んでいた。
どうやら唐揚げが好きなようだ。
因みに、人参の甘煮は拒否された。
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犬が怖いらしい。かといって猫が好きなのかと言うと、其れも怖いらしい。
我が家の猫を見せると、引っ掻かないかと何度も俺に確認を入れながら恐る恐る触っていた。
家の猫・・・餅太郎は後ろ足が潰れていて、嫌悪感を抱く人も多いのだが、其処は気にしていない様子だった。
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両親が居ないのだと言った。
クラスメイトが意地悪なのだとも言った。
俺も母親と別居していることを伝えると、少し嬉しそうにされた。
細くて小さいくせに、妙に体力があった。
他の学校の友達に紹介すると、またわちゃわちゃしていた。
夏休みにはキャンプもした。木葉の家に泊まったのだが、あまりの広さに唖然とした。お祖父さんの髭がモサモサだった。
毎日楽しかった。
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少しずつ少しずつ時間が流れて、何時の間にか季節は変わり、秋。
「ちょっと遊びに行きませんか?」
そう言った彼の提案に乗った俺はーーーーーー
作者紺野-2
まさか兄のことをこんなに沢山呼び捨てで書く日が来ようとは・・・。
わちゃわちゃという表現は実際に猿兄が言っていたものです。
変な所で切れたのは毎度の如く寝落ちたからです。本当に申し訳御座いません。