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これは、ほんの数日前にあったことです。
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その日は朝から雨が降っていました。
私は高校生で、高校までは電車で通っていたのですが、雨のせいかいつもより少し乗客が多かったように思います。
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そのため、いつもならギリギリ座れるのですが、その日は座ることができず、仕方なくドアの近くに立っていました。
しばらく、電車に揺られながら、ぼんやりと窓の外を見ていました。
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あの〜
その声とともに、肩を叩かれました。
私はぼーっとしていましたから、突然話しかけられて、思わずピクッとなってしまいました。
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その人はOL風の綺麗な女の人でした。
私は少しホッとして、「何ですか?」と聞きました。
すると、その人は「どうぞ」と言って、ちょうど一人座れるスペースの空いている座席を指差しています。
ああ、席を譲られてるんだなって思いました。
ですが、私は高校生で、席を譲られるほど体調の悪い状態でもありません。
だから、すごく不思議に思ったし、なんだかからかわれているような気がして少し腹も立ちました。
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だから、私は「ありがとうございます。でも、大丈夫です。」と答えました。
すると、その女の人はまた「どうぞ」と言うんです。
なんとなくその顔が少し歪んでいるように見えました。
私はなんだか気味が悪くなって、「大丈夫ですから」とだけ言って、その車両から急ぎ足で離れました。
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隣の車両に移った私はちょうど空いている席を見つけたので、そこに座りました。
そして、さっきいた車両の方を見ると、女の人が指差した空いていたはずの席に誰かが座っています。
車両の間の窓越しなので、はっきりとは見えませんが、男の人のように見えます。
私が隣の車両に移るまでの間に駅には止まっていませんが、立っていた人のうちの誰かが座ったのだろうと思いました。
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私は隣の車両の座席で、寝てしまっていました。
ハッと目が覚めると、ちょうど目的の駅でした。
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私は慌ててホームに降りました。
そして、改札口まで歩いていた時です。
ふと、さっきのことを思い出して、電車の中に目を向けました。
ちょうど女の人が譲ろうとした席のあたりです。
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私はハッとしました。
そこに座っていたのは、確かに男の人でした。
が、その人の体の左半分が削ぎ落とされていたんです。
まるで電車で轢かれたかのように左半分がなくなり、内臓が断面から飛び出していました。
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私は急に怖くなり、急いで改札口に向かいました。
早く逃げなきゃ。
私の本能がそう言っています。
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雨のせいでしょうか。
改札口が混んでいます。
なかなか進まないことに苛立ち始めていました。
それに、電車もなかなか発車しません。
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早く
早く…
お願い、早く
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その時、背後からハイヒールの音が近づいていることに気付きました。
コツ、コツ、コツ…
嫌な予感がします。
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お願い、やめて…
私は必死でそうお願いしていました。
それでも、ハイヒールの音は近づいてきます。
コツ、コツ、コツ、コツ、コツ…
背後に嫌な気配がしました。
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私は覚悟しました。
あの男の人のように私もなるのかもしれない。
ふと、そんな気がしました。
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ですが、ハイヒールの音は私の横を通り過ぎていきました。
ハイヒールの音は、やはりあのOL風の女の人でした。
ただ、私の横を通り過ぎる時に、その人は私の耳元で囁きました。
次は座ってね。
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私はゾワッとしました。
それは体を貫くような寒気でした。
けれど、それ以上何もされず、私はいつものように高校に行きました。
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学校が終わり、その日の帰りも、私はその駅に行きました。
少し怖かったけれど、仕方のないことです。
電車でないと家に帰れませんから。
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ちょうど電車が来るところでした。
遮断機は下りていますが、ギリギリ走れば間に合うかもしれない、そう思いました。
ですが、私が遮断機をくぐって踏切に入ろうとした一瞬先に、男の人が踏切に入っていきました。
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思わず、私は「あっ」と声を出してしまいました。
踏切に入っていったその後ろ姿に見覚えがあったからです。
その人は今朝の左半分のない男の人でした。
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その時、電車が来ました。
それは瞬きする間もないほどに短い間でした。
ガシャ
グチャ
キーーーーー
何かがぶつかる音と電車が止まる音の後に、悲鳴が聞こえてきました。
いえ、叫んでいたのは、私でした。
その男の人の血だらけの体が、私の目の前に飛んできたからです。
そして、その体は右半分だけでした。
ピクピク痙攣している男の人の目は、大きく見開かれ、こちらを見ているようでした。
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それから1週間が経ちました。
私はあれから電車に乗っていません。
いえ、乗れないのです。
だって、次に電車に乗った時には、あの席に座ることになるでしょうから。
作者x hiroko
読んでいただきありがとうございます。
日常よく使う電車ですが、そんな電車にまつわる怖い話です。
#gp2015