中編4
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ある日の電車から

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これは、ほんの数日前にあったことです。

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その日は朝から雨が降っていました。

私は高校生で、高校までは電車で通っていたのですが、雨のせいかいつもより少し乗客が多かったように思います。

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そのため、いつもならギリギリ座れるのですが、その日は座ることができず、仕方なくドアの近くに立っていました。

しばらく、電車に揺られながら、ぼんやりと窓の外を見ていました。

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あの〜

その声とともに、肩を叩かれました。

私はぼーっとしていましたから、突然話しかけられて、思わずピクッとなってしまいました。

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その人はOL風の綺麗な女の人でした。

私は少しホッとして、「何ですか?」と聞きました。

すると、その人は「どうぞ」と言って、ちょうど一人座れるスペースの空いている座席を指差しています。

ああ、席を譲られてるんだなって思いました。

ですが、私は高校生で、席を譲られるほど体調の悪い状態でもありません。

だから、すごく不思議に思ったし、なんだかからかわれているような気がして少し腹も立ちました。

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だから、私は「ありがとうございます。でも、大丈夫です。」と答えました。

すると、その女の人はまた「どうぞ」と言うんです。

なんとなくその顔が少し歪んでいるように見えました。

私はなんだか気味が悪くなって、「大丈夫ですから」とだけ言って、その車両から急ぎ足で離れました。

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隣の車両に移った私はちょうど空いている席を見つけたので、そこに座りました。

そして、さっきいた車両の方を見ると、女の人が指差した空いていたはずの席に誰かが座っています。

車両の間の窓越しなので、はっきりとは見えませんが、男の人のように見えます。

私が隣の車両に移るまでの間に駅には止まっていませんが、立っていた人のうちの誰かが座ったのだろうと思いました。

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私は隣の車両の座席で、寝てしまっていました。

ハッと目が覚めると、ちょうど目的の駅でした。

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私は慌ててホームに降りました。

そして、改札口まで歩いていた時です。

ふと、さっきのことを思い出して、電車の中に目を向けました。

ちょうど女の人が譲ろうとした席のあたりです。

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私はハッとしました。

そこに座っていたのは、確かに男の人でした。

が、その人の体の左半分が削ぎ落とされていたんです。

まるで電車で轢かれたかのように左半分がなくなり、内臓が断面から飛び出していました。

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私は急に怖くなり、急いで改札口に向かいました。

早く逃げなきゃ。

私の本能がそう言っています。

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雨のせいでしょうか。

改札口が混んでいます。

なかなか進まないことに苛立ち始めていました。

それに、電車もなかなか発車しません。

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早く

早く…

お願い、早く

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その時、背後からハイヒールの音が近づいていることに気付きました。

コツ、コツ、コツ…

嫌な予感がします。

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お願い、やめて…

私は必死でそうお願いしていました。

それでも、ハイヒールの音は近づいてきます。

コツ、コツ、コツ、コツ、コツ…

背後に嫌な気配がしました。

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私は覚悟しました。

あの男の人のように私もなるのかもしれない。

ふと、そんな気がしました。

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ですが、ハイヒールの音は私の横を通り過ぎていきました。

ハイヒールの音は、やはりあのOL風の女の人でした。

ただ、私の横を通り過ぎる時に、その人は私の耳元で囁きました。

次は座ってね。

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私はゾワッとしました。

それは体を貫くような寒気でした。

けれど、それ以上何もされず、私はいつものように高校に行きました。

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学校が終わり、その日の帰りも、私はその駅に行きました。

少し怖かったけれど、仕方のないことです。

電車でないと家に帰れませんから。

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ちょうど電車が来るところでした。

遮断機は下りていますが、ギリギリ走れば間に合うかもしれない、そう思いました。

ですが、私が遮断機をくぐって踏切に入ろうとした一瞬先に、男の人が踏切に入っていきました。

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思わず、私は「あっ」と声を出してしまいました。

踏切に入っていったその後ろ姿に見覚えがあったからです。

その人は今朝の左半分のない男の人でした。

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その時、電車が来ました。

それは瞬きする間もないほどに短い間でした。

ガシャ

グチャ

キーーーーー

何かがぶつかる音と電車が止まる音の後に、悲鳴が聞こえてきました。

いえ、叫んでいたのは、私でした。

その男の人の血だらけの体が、私の目の前に飛んできたからです。

そして、その体は右半分だけでした。

ピクピク痙攣している男の人の目は、大きく見開かれ、こちらを見ているようでした。

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それから1週間が経ちました。

私はあれから電車に乗っていません。

いえ、乗れないのです。

だって、次に電車に乗った時には、あの席に座ることになるでしょうから。

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