※此れから書くことは全てフィクションであり、実在の人物・地名・団体とは一切と関係無い物としてして御受取り願いたい。
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1.薬局前の自販機
暑さに負けてジュースを買おうとしたら、硬貨の投入口から何かが此方を見ている。
此処で買わないのも自意識過剰かと思い、硬貨を押し込みジュースを買った。ピッタリの金額で買った筈なのに、何故かお釣りの落ちる音がした。
見ると、釣り受けに数枚の五百円玉が落ちている。黒くてドロリとした液体にまみれていた。
怪しく思って手を出さずに立ち去ろうとすると、後ろからガタゴトと大きな音が聞こえた。
振り向くと、さっきの自販機が、僅かに自販機達の列から飛び出していた。
急いで逃げた。
買ったジュースは別に可笑しな物ではなかった。
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2.団地の前の砂場
夕方、友人と団地の前を通ると、一人の少女が話し掛けて来た。
「ねぇ、火を付けて。」
差し出された手には蝋燭が握られている。もう片方の手には家庭用花火の袋。
火種を持っていないことを伝えようとすると、友人に肩を捕まれた。
「駄目だ。」
「分かってるって。」
軽く頷き、其の場を離れる。
少女は僕の後ろ辺りに居た女性にターゲットを変更したらしく、また頻りに「火を付けて。火を付けて。」と話し掛けていた。
別れ際に友人は
「火を渡したら、其処ら中に火を付けて燃やし出すから。」
そう言って何だか嫌そうな顔をしていた。
家に帰って暫くすると、母が帰って来た。
「さっきね、其処の団地のゴミ捨て場でね、ボヤ騒ぎだって!!・・・若い女の人が犯人だって捕まえられたみたいよ。」
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3.スーパーの駐車場
買い物をしている母を車で待っていると、可笑しな音が聞こえた。
キィー、キィー、という甲高い金属質の音だ。
古びたブランコに少しだけ似ていた。
気になって窓から覗いて見ると、ペラペラとした女の人が駐車場内を練り歩いている。
キィー、キィー、という音は、其の女性の鳴き声だった。
三歩程歩いては鳴き、また三歩程歩いては鳴き、というのを繰り返している。
駐車場なので、当然車が通るのだが、そんなこと全く気にしていないようだった。
髪を金に近い茶色に染めた、疲れたような顔をした中年女性が軽自動車で女性に近付く。
あっ、と声を上げる間も無く、女性は軽自動車に押し潰された。軽自動車が通り過ぎた後、押し潰された彼女は、グシャグシャにされた新聞紙のような見た目になっていた。身長は半分以下になっていた。
其れでも、彼女は何を気にした風でもなく、ただひたすらにキィー、キィー、と鳴きながら駐車場を練り歩いていた。
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4.デパートの洋服売り場。
男性服売り場の試着室から、何故か女性らしき足が覗いていた。
其れから一時間程他の所で遊んでからもう一度行ってみたが、まだ足は試着室の中に居た。
することも無かったので、何となく其の試着室を見詰めていると、不意に一人の男性が数着の服を持ち、試着室の扉に手を掛けた。
開かれたドアの中には、誰も居なかった。
然し、閉められた途端に足はまた姿を現した。
男の足を挟んで一本ずつ両端に別れて立っていた。
其の内、少しずつ内側にずれて来る。そして、軈て、あの男性にピッタリ重なって、彼女は消えた。
消えたまま男性は試着室から出て来て、何処かへ行ってしまった。
足はもう見えなくなっていた。
彼は《試着》され、気に入られてしまったんだろう。
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5.近所の空き地
朝、近所の空き地の前を通った時、池で魚に餌をやっているお婆さんを見た。
麩だか食パンだかを、千切っては投げ千切っては投げ・・・。派手な水飛沫も上がっていたし、大きな鯉でも居るのかも知れない。
あんな池、有ったかな・・・と疑問に思いながらも其の場は一端通り過ぎた。
帰り道、どうにも気になって其の空き地へ行くと、地面はまっさらで、池も魚も消えていた。
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お婆さんは居た。
朝と何も変わらず、雑草の生えた地面に向かい、麩だか食パンだかを千切っては投げを繰り返していた。
作者紺野-2
本編には出来ないけれど、個人的に気味の悪かった話です。