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先ず、海辺の町を目指す。
そう木葉は言って、バスに乗り込んだ。
乗客はお年寄りが数人だけだった。
一番前の席に二人。その直ぐ後ろに一人。
「・・・何処、座りますか?」
「話し掛けられたら嫌だよな?後ろ行こう。」
最後尾の席に並んで座った。
窓際に木葉、その隣に俺。木葉は座ってからはずっと外を眺めている。
「車酔いする方なのか?」
「ううん。何となく見てただけ。」
「ふーん・・・。」
真似をして窓の外を覗いてみたが、そんなに面白くはない。
木葉が呟く。
「祖父は・・・」
ガタン
言葉に重なるようにして、バスが動き出した。
何を言ったか、よく分からなかった。
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バスが発車してから、木葉はずっと黙っている。
俺も何だか気不味くて何も言えず、ぼんやりとしながら、さっきの木葉とのやり取りを思い出していた。
死んだ両親の所へ行きたい、と言われたのだ。
祖父に迷惑を掛けても、俺との縁を切ってでも、どうしても行きたいと。
・・・・・・。
急に不安な気持ちになったので、これ以上考えてしまわぬよう、慌てて木葉に話し掛ける。
「・・・なぁ。」
「はい?」
「来年さ、俺達の学校、宿泊学習あってさ。」
何を話せば良いのか分からず、適当に口から出た言葉を言った。
木葉はいきなり話し掛けられて、面食らったような表情をしている。
俺は構わず続けた。
「山にある宿泊施設に、キャンプに行くんだと。」
「・・・あ、それなら僕の学校でもそうです。何処の学校もなんですね。」
「県が作った施設らしいからな。皆行くんだろ。」
すると、木葉は一言「ふーん。」と声を漏らすと、また窓の外を見始めてしまった。
其処で気付いた。
そう言えばこいつ、両親の所に行こうとしてるんだった。俺がちゃんと木葉を止めないと、こいつに来年は無いんだ。
例えようの無い不安が、また胸に込み上げた。
見透かしたような呟きが耳に飛び込んで来る。
「僕は、行けません。」
早く目的地に着けば良いのに、と思った。
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幾つかのバス停を通り過ぎた。
「次の次のバス停です。」
老人は何時の間にか、一人になっていた。
「海、見えないな。」
「建物が多いんですよ。」
ボタン音が鳴り、走っていたバスが停止する。
プシュー、と何処か間の抜けた感じでドアが開いた。
残っていた老人が降り、乗客は俺達だけになった。
「俺達も、此処で降りないか。」
「どうして?」
「どうしてって・・・。」
咄嗟に言ったことだったので、自分でも理由がよく分からなかった。
「ごめん。なんか言いたくなっただけ。」
「変なの。」
木葉は少しだけ可笑しそうに笑った。
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終点より二つ前のバス停。
バスから降りると潮の匂いが鼻を突いた。
「此処です。」
低い堤防の先にある浜辺を見ながら、木葉が僅かに微笑む。
「随分と、時間が掛かってしまいましたね。」
太陽が沈み始めていた。
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直ぐに目の前の海に行くのだろうか、だとしたら全力で止めなければ。
そんな事を考えていると、木葉はてくてくと歩き出した。
「何処に行くんだ?」
「旅館ですよ?」
「・・・旅館?」
「先に色々と手続きを済まさなくちゃなりません。海にはその後に行きます。」
ほら、と木葉が指を指した先には、こんもりとした林が見えた。
「彼処です。」
果たして小学生二人組が旅館に泊めて貰えるのだろうか。というか、これでは家出と言うより旅行なのではないか。
抑、木葉は此処に・・・。
いやいや、そんなこと無いに超したことはないのだが・・・。
「夕御飯、人参出てこないと良いんですけど。」
悶々と悩む俺を尻目に、木葉は呑気にパンフレットらしき紙を見ていた。
作者紺野-2
待ってくださっていた方が居るかは兎も角として
どうも。紺野です。
昨日は散々な目に遭っていて、書くことが出来ませんでした。
どうもすみませんでした。
夏休みに入り、少し余裕も出来ると思います。恐らく。
けれど、何時、何があるか分からないので、なるべく早く書きます。
どうぞ、宜しくお願い申し上げます。