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さて、結論から言うと、脳裏を走馬灯のように駆け巡っていた不安や疑念とは裏腹に、俺達は実にあっさりと旅館に泊まれてしまった。
小学生二人組。しかも保護者無し。
そう簡単に泊まれる筈が無い。可笑しい。明らかに可笑しい。道理に合っていない。
「木葉、お前、一体どんな手使ったの?」
案内された部屋で木葉に尋ねると、彼はテレビのチャンネルをくるくると変えながら
「言った所で、真白君には無理ですよ。」
と言う。どういうことだ。
「無理って・・・本当に何やったんだよ。」
「さて、何やったんでしょうね?」
俺の言葉を繰り返してクスクスと笑った後、木葉はポソリと呟いた。
「夕御飯が終わったら、海に行きましょう。」
《やっぱり止めよう》そう言おうとした。
「真白君が行かなくとも、僕は行きますからね。止めても無駄ですよ。」
「いや、あの・・・」
「嫌なことを言いますけど、此処の代金払ったの僕なんですからね。」
「うぐっ・・・!!」
言えない。言えないです。ハイ。
それにしても・・・
「・・・代金、何時の間に払ったんだよ。」
「秘密。」
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何となく二人でテレビを見ているうちに、夕食の時間になってしまった。
結局、木葉の説得は出来ず・・・。
然し、その所為で食欲が減退するなんてことは、全く無い。それと此れとは別問題だ。
運ばれて来た夕食は、鍋物や刺身などが少量ずつ乗せられた大層贅沢な膳だった。
量は多いが、旅館に有りがちな、食べきれない程の量ではない。
「大人の量は到底食べきれないし、子供用の食事を出す訳にもいかないからでしょう。」
俺の皿に煮物の人参を移しながら木葉は言った。
「何さりげなく俺に押し付けてんの。」
「・・・駄目ですか。」
「・・・この酢の物、食ってくれるなら。」
人参が皿に二つ増え、揚げ物の更に置いてあった酢の物が消える。
木葉が酢の物を口にしながら、不思議そうに言う。
「美味しいですけどねぇ。酢の物。」
・・・お前が言うか。
「人参も甘くて旨いけど?」
「・・・んー。」
少しだけ困ったような顔で、俺の発言は黙殺された。
「宿泊学習も、こんな感じだったら良いのに。」
「そうだな。」
この食事が終わらなければ良いのに、と思った。
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部屋の鍵を持ったまま、外へ出る。
木葉が言う。
「・・・いよいよですね。」
「だな。」
すっかり暗くなった道を歩きながら、俺は改めて覚悟を決めた。
作者紺野-2
どうも。紺野です。
前回は何やらひねくれたことを言ってしまい、申し訳ありませんでした。皆様の温かいコメント、胸に染み入りました。
今回も怖い話と言えないよう内容でしたが、やっと次の話からホラーになります。
猛暑や豪雨が各地で勃発しているようです。皆さん、どうぞお身体には気を付けて。