バイトで知り合ったTとEさん。
Tはガサツな黒髪に気取ったサングラスをかけているお兄さん。オカルトはあまり好きではなく、あくまで怖がる人たちを見るのが好きなTお兄さんである。
Eさんは、女性で怖いもの好き。怖いといったものに対してスポットへ行こうと誘ってくるやさしい人である。ボッチであった僕を連れ出してもらい、Tさんと知りえたきっかけにもなった。
そんなある日、Eさんから誘いを受けた。
「“壁アパート”へ行こうよ」
「壁アパート?」
「そう、壁アパート」
Eさんが持ち出されたスポットは東にある地方のアパートのようで、一室だけおかしな部屋があるという話だった。もちろん、ぼくは乗り気ではなかった。でも、せっかくEさんからの誘いでもあった。僕は了承した。Tは「怖いモンは見れるから楽しみだわ」と、ニヤニヤと笑っていた。あきらかに、ぼくらが怖がるのを楽しみにしていた様子だった。
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現地に到着した頃には午後11時を過ぎていた。Tの愛車に連れてもらった。
「毎度、運転ありがとう~♪」
「いやいや、俺の退屈を拵えてもらっているからな」
ククク…と小笑いをするT。あたりには誰もいない真っ暗闇なアパートの前でTの笑い声が不気味にも思えた。
そんな矢先に、懐中電灯を顔の下…顎の下から懐中電灯を灯らせるEさんの顔がぼくの前まで近づいてきていた。
「ぎゃあぁぁぁ!!」
さすがの僕でも悲鳴を上げてしまい、周囲の無音を僕の声で一瞬だけだがかき消された。
「いやいや、ククク…」
Tは笑っている。薄情な人だ。でも、そこがTのすごいところかもしれない。
こんな時でも笑い、Eさんも同じように笑いを打つ。
そんな2人に誘われ、ボッチの世界から連れ出してくれた人たちでもあった。
「笑っていないで、さっさと行きましょう!」
「ええ、そうね」
Eさんは懐中電灯を地面に向けると、急に無表情に変わった。Eさんは不気味な場所が好きだ、どこからか情報を仕入れては僕らを連れていく。
そんなEも僕らはただついていく。
「ところで、俺はここで待機していていいか?」
毎度おなじみの屁理屈を言う。
Tは、自分にとって不利益なことに関しては興味がない。ただ、自分の欲を満たしてくれる人がいればいいと思う人だ。
「ダーメ!」
舌を半分だしながらTさんの要件を否定した。
「ッチ! さあないか」
舌打ちをし、しぶしぶ僕らの後ろからついてくる。Tさんは明かりもないこんなアパートの前まで来ているのにあくびをしながら眠たそうに「はあ~」と、ため息をする。
Tさんがそんな風に見れたのはあまりない事だった。
Tさんは見える人ではなく、感じることがあると以前に話してくれたことがある。何か嫌なことがあれば、それは自身に痛みを感じると話してくれた。痛みの感覚は毎度違って針のように鋭かったり、刃のようなもので切られたりと感じるといっていた。
Eさんは、霊感といったものはないらしく、今までいろんな場所にいったようだが、何も感じなかったといっていた。EさんはEさんなりにすごい人だと僕は思った。
何も感じないからと言って何度も怖い体験しにいくというのは僕の中でゾクっと鋭いなにかに摘まれたような感じがしたからだ。
「ここよ、ここの1階なの」
Eさんが指した方角は、外されたポスト、ドアはひしゃげ、窓はすべて釘で打ち付けられていた。
僕は一瞬ゾクっと感じた。背中からなにかとがったものに突き刺されたように感じたのだ。
「……」
「Tさん、暇があるからっといって無闇に怖がらせることはしないでください」
後ろにいたTさんにそう告げた。Tさんは何も言わず頷くだけだ。
僕は暗闇で、後ろについていたTさんの顔はまだ、闇に慣れていた目では見ることはできない。ただ、後ろにいる影はTさんそのものだったので、気にしないようにしていた。
「よいそっと!」
Eさんが扉を強引に開け、中に懐中電灯を照らしながら僕の腕を強引にも引っ張って見せた。
僕はゾクっとした。
なぜなら、
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本来なら玄関から入ったら台所か廊下に出くわすはずだ。だけど、そこにあるのは壁。分厚いコンクリートで覆われた壁だった。床を突きつけ、天井まで貫く大きな壁。
shake
玄関よりも一歩先に進んだところに壁があった。なぜ、こんな場所に壁が作られたのかわからないが、ぼくは不気味で歯をガチガチと震えながら見えていた。
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そこにEさんの解説が入った。
「ここの元住民は人を殺したの…」
「え!?」
「住民は怖くなって壁で玄関から窓から入れないように壁に埋めたの」
「……」
「その日以来、この住民は誰も見ていない」
「それって…」
Eさんはそこまで解説し終えるといつものように明るくふるまいながら僕の腕を引っ張ってTさんの車まで引っ張られる。僕は先ほどのことでEさんに聞きたいことがあったが、その時、僕はつばを飲み込みギュッと我慢した。
なぜなら、Eさんが引っ張る僕の腕とは別に、ぼくの開いたもう一方の腕につかむようにして別の手が握られていた。
僕はてっきりTだと思い、「やめてくださいよTさん」と、後ろを振り返った。そこには、誰もいなかった。
車の前まで来ると、あくびをしながら煙草を吸っているTの姿があった。
「おせーぞ! あれから1時間たってんぞ」
「え? そんなに立っていた?」
「まあ、いいぜ。この後コンビに行くから、お前らもそれでいいか」
「はーい!」
「うん」
僕は頷き、Tの車に乗ると同時に、アパートの方へもう一度見た。そこにはありえないものがいた。黒くてモヤモヤとしたものがひとつの人影をつくるかのように僕らのほうへ見つめているように見えた。真っ暗闇のはずなのに、その靄ははっきりと黒い靄の人影だと見えた。
僕は怖くなり、たまらず顔を手で隠しもう一方の手で右耳を覆いながら車に乗り込んだ。
コンビニ着くまでの間、ぼくはダンマリだった。黙っていた。それは、もはや人ではないなにかがついている気がしてならなかったからだ。
怯える僕をEさんは不思議そうに助手席から僕を見つめていた。
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小一時間ほど車を走らせたさきにはコンビニ【7】があった。そこに、TはEさんに買い物をしてきてほしいと頼み、ぼくとTだけはコンビニの外で待機した。喫煙所でタバコを嬉しそうに吸うTの隣でぼくは呟いた。
「あれは、なんだったんだ…」
「見ない方がよかったかもな…」
Tはそう告げると、ぼくにいちまいの紙を僕に見せた。紙はかなりボロボロで何度か水を吸ったようで紙が少し硬くなっていた。一部、折り返されたままで乾かしたのか張り付いてしまっている部分もある。誰かの字で殴り書きしたかのように少しわかりづらい部分もあった。その紙にはあの部屋について書かれていた。
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199×年 8月11日
一室のアパートで殺人事件があった。逮捕されたのは女性。ありがちな話で口論となり、男を殺し、女は男になりすまし(変装し)、壁であの部屋を覆った。目撃者により判明し、女を逮捕したが壁に覆われたあの部屋の壁を破壊することはできないとされた。大家がそれを断った。
あの部屋で本当に男が殺され、遺体も発見されていない今、どうするにもできない。
紙を読み上げた。そこにTがおもむろに口をだした。
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「そこは、俺の知人のアパートだった。俺は、何もできなかった。わかっていたのに!!」
Tは火が付いたままの煙草を握りしめ、そのまま地面に放り投げた。Tは、あの場所で何があったのか語ってくれなかったが、あの場所はもう近づきたくはないと僕なりに思った。
コンビニから出てきたEはきょとんとしていた。あの場所で何があったのか、Tがなぜ怒っているのかわからない様子だった。
あの後、Tの車で僕が住む家まで送ってもらった。あの日を境にぼくは何か不思議なものを感じるようになった。Tいわく、「深く考えない方がいい」と、そう告げた。
ぼくはバイトしながらも再び、2人が誘ってくれるのを待っている。
作者EXMXZ