俺は暇を持て余していた。
今日は彼女との初デート。
かれこれもう、1時間は待っている。
何度かスマホを取り出して、連絡を試みてみたが、全く反応がない。
ようやく交際にまでこじつけた彼女。
合コンで、意気投合し、ようやく交際に至る。
メールや電話はマメにした。努力の甲斐あって、ようやくお付き合いするに至ったのだ。
はっきり言って、彼女のお目当てはたぶん、マサトだったのだろう。
マサトは、あの合コンで一番の美人の女の子と付き合いはじめて、そのあたりから、俺と彼女の距離がぐっと縮まったから、まず間違いない。俺は、二番目の男。
それでもいいのだ。俺は、これからに勝負をかける。きっとマサトと付き合うより俺を選んでよかったと思わせて見せる。
そう意気込んで、ファッションもばっちりキメてきたというのに。
まぁ、焦って何度も連絡すれば、ウザい男と思われる。
仕方なく俺は暇つぶしに、待ち合わせた駅でスマホをいじりはじめた。
あてもなく、アプリを検索していたら、何だか面白そうなアプリを見つけた。
「モンスターメーカー」
ふむふむ、モンスターを育成して戦わせるアプリか。
面白そうだな。自分でカスタマイズするわけではなく、条件によって、変わってくるのでどんなモンスターが出来るかわからないのか。俺はインストールをタップした。
結局、それから10分くらいして、ようやく彼女から連絡があった。
体調が悪くて行けないとのことだった。
俺はたぶん、嘘だと思った。
俺の意気込みとは、裏腹に、彼女との温度差は決定的だった。
たぶん、彼女はマサトが良かったのだろう。
これはもう、望み薄だな。
俺の1時間と数十分は徒労に終わり、この恋愛はたぶん始まらずに終わる。
俺は諦めの良い男だ。このまま彼女が、自然消滅させれば仕方の無いことだ。
去るものは追っても仕方が無い。今までの経験上、身にしみてわかっている。
やることのなくなった俺の休日は、先程インストールしたゲームに費やされることになる。
まずは設定。どんなモンスターが良い?うーん、重量級も良いが、飛行するタイプがいいな。
翼とかあったら、カッコよくね?俺はそう思い、飛行タイプを選ぶ。
次は色。飛行するタイプで、黒っぽいものから、極彩色のものまであるのか。
やはり、男は黒っぽい色でしょ。黒く、翼を持った魔物。かっこいいな。
あと、つやつやとした光沢があるほうが良いかも。
俺はそのモンスターの姿を想像しながら、条件を整えて行った。
棲家も暗い洞窟みたいなところで、狭い場所。
モンスターは柔軟性があり、どこにでも入り込めるような肢体を持ち、なおかつ飛行しながら攻撃。
条件をどんどん付加させていく。
どんなモンスターに育つか、楽しみだな。
俺はその日から、毎日、モンスターのお世話をした。
そして、数日後、ようやくモンスターが繭にこもったのだ。
いよいよ、俺のモンスターのお出ましだ。
カッコいいモンスターで、オンラインで徹底的に他のやつらを蹴散らしてやる。
ゲームの腕にはそこそこ自信がある。
元々俺は、インドア派だからな。
やはり、同じ類の趣味の合う女性の方が俺には合ってるのかも。
身の丈にあった女の子をまた捜せばいいさ。
俺は立ち直りの早い男。ちなみに、あれから彼女からの連絡は全くない。予想通り。
翌朝、俺は目覚めとともに、すぐにスマホの電源を入れ、ゲームアプリを起動した。
ついに、俺の愛しいモンスターが。
「なっ!」
俺はモンスターの姿を見て絶句した。
「なんじゃこりゃあああああああ!」
次は絶叫。
そこには見事な、大ゴキブリがうごめいていた。
ああ、確かに確かに。翼(?)あって飛ぶし、黒っぽいよね。
飛ぶ姿怖いし、最強かも。
俺はアプリを閉じ、アイコンを長押しした。
「このアプリを削除しますか?」
俺は迷わず、「はい」をタップした。
俺はゲームにまで馬鹿にされているのだ。
作者よもつひらさか