ピンポーン
「またじゃ!」
テツジは苛立ちを覚えながら玄関ドアの前に立った。
「どちら様?!」
返事はなく、覗き穴の向こうにも人影はない。
ドアを開け、左右を確認しても誰の姿もない。
「ちっ、全くしょうがないの!」
テツジは度々の姿無き訪問者に腹を立てていた。
初めの内はどうせ近所のガキ共のイタズラじゃろと多めに見ていたのだが、こう昼夜問わず毎日続けてこられるとたまったものではない。
ドアの向こう側から、カラカラと小さな子供達の笑い声がした。
ピンポーン
「こやつら!いったい今何時だと思っとるんじゃ!」
玄関で待機していたテツジは、チャイムが鳴った瞬間に勢いよくドアを開けた。
「ったく!逃げ足の速いガキ共が!」
「お爺ちゃんどうしたの?」
奥のリビングから孫のカヨが顔を出してきて、テツジに言った。
途端、テツジの表情はクシャクシャにゆるみ、可愛い孫を優しく抱きかかえた。
「ああ、カヨやすまんすまん!しょうも無いイタズラには本当困ったもんじゃ。さあさあお爺ちゃんと一緒にテレビでも見ような」
ピンポーン
「ま、またじゃ!!」
テツジは抱いていたカヨを降ろすと、鬼の形相で玄関ドアを開けた。
「いったい誰の仕業じゃ!!出てこいこの卑怯者めが!!」
カヨはリビングに戻ると、台所で洗い物をしている母に聞いた。
「ねえねえママ、テツジお爺ちゃんて去年死んじゃったんだよね?」
「あら、カヨったらまたそんな事言ってるの?」
「だって、またお爺ちゃんが玄関に来てるんだもん」
「えっ、お父ちゃんが?」
母親は洗い物の手を止め、廊下の電気をつけて覗いてみたが、もちろんそこにテツジの姿はない。
「もう、カヨったら…」
母親はため息を吐くと、仏壇の上に飾ってある父の遺影に視線を向けた。
「お父ちゃん、死ぬ間際までずっとカヨ、カヨって言ってたもんね」
目の錯覚か、父の口元が僅かに動いた気がした。
ピンポーン
「あら、こんな時間に誰かしら?」
【了】
作者ロビンⓂ︎