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短編2
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『藤原君はおかしい』

クラスメイトの藤原君はどうもおかしい。

と気付いたのは、半年前くらいに、たまたま席替えで隣りの席になったときのことだった。

どのクラスにもひとりはいる、地味で無口でネクラっぽいのに何故か意外と友達が多い奴、ってのが藤原君なのだが、

俺はあまり話したことはなかったし、隣り同士になっても微妙に気まずかった。

だが藤原君は特に気まずそうな様子も見せず、ひたすら机に消しゴムをかけていた。

内心『何してんだろ』と思ったが、消しゴムが千切れるまで机を消している藤原君の真剣さに圧倒され、何も聞けなかった。

しばらくして授業が始まったが、俺は藤原君の行動が気になってチラチラ見ていた。

藤原君は山盛りになった消しゴムのカスを、机の四隅に均等に盛り始めた。ますます意味がわからない。

俺はついに小声で藤原くんに尋ねた。

「藤原君、何してんの」

藤原くんの長い前髪から、にんまり弧を描いた目が見えた。

「即席の結界。キミは多分、うっすらとなら見えるんじゃない?」

と言うと、藤原君は目線を廊下に向けた。

俺も廊下に目線をやる。

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そこで俺は、見てしまった。廊下に立つ男子生徒を。

教室のドアのガラス窓を通してだから肩までしか見えなかったが、首は極端にうなだれていて気持ち悪かった。

「あれって、まさか…隣りのクラスの奴とか、だよね」

「授業中なのに廊下にあんなふうに立ってる生徒がいると思うかい」

「…先生に立たされてるとか」

「キミは死んだほうがいいね」

藤原君はそう言うと、ため息をついて突然立ち上がった。

「先生、便所」

先生の苦笑を背に受けながら、藤原君はドアを開けて廊下に出ていった。

そして、相変わらず立ち尽くしている男子生徒を、通り抜けた。

男子生徒の身体は確かに見えるのに、その身体を藤原君が通り抜けたのだ。

俺は喉が引きつって声も出なかった。

男子生徒をすり抜けたとき、藤原君はこちらを振り向き、『ホラね』とでも言うようにニヤリと笑った。

その表情の気味悪さを、俺は一生忘れない。

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藤原君が通り抜けたあとも男子生徒は立ち尽くしていた。うなだれたまま、ずっと立っていた。

あまり見ていると、そいつが顔をあげそうで怖かった。

俺は藤原君が戻ってくるのを待ちながら、ひたすら机に消しゴムをかけた。

無論、俺も藤原君を真似て消しゴムのカスを机の四隅に盛る為だ。

だが、消しゴムを掛けているうちに藤原君は戻ってきて、平然と教科書の肖像画に鼻毛を書き始め、

いつの間にか廊下の男子生徒も消えていた。

あの男子生徒の恐らく幽霊がどうなったかはわからないが、

取りあえずそれ以来、何故か藤原君と俺は仲良くなってしまった。

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