ここは羽黒山。苦境の地である。
山伏が修行の地としてこの山を開いた。
しかしそれ以前は大天狗がこの地を支配していた。
大天狗は鞍馬山、それに高尾山そしてその流れをくむ羽黒山にも及んだ。
大天狗は真っ赤な顔でカラス天狗に命令した。
「カラス良く聞け。羽黒に向かい不穏な動きをするやからを制圧して来い。
私の耳がうるさくてかなわん」そう言うと二人のカラス天狗に命令した。
「大天狗様承知いたしました。途中高尾により高尾のカラス天狗も連れてゆきます。」
そう言うとカラス天狗は、真っ黒な翼を広げ天空に飛び立った。
高尾によるともう二人のカラス天狗を連れ羽黒山に向かった。
二時間は飛んだころだろうか。出羽の山脈が左に見えてきた。
するとその下の平野が真っ赤に燃えているのが見えた。
四人は上空から見下ろすとただ事ではない事を悟り
急降下した。
大きな杉の木の梢に四人は止って下の様子を伺った。
逃げ惑う、子供や女、老人、それをたしなめるように追う、山伏の姿。
乱暴、狼藉を払う山伏。一人のカラス天狗が叫んだ。
「おかしい、修行僧の山伏がどうして村人を襲うのか?」これは何かある。
四人は里に降立った。逃げ惑う子供や老人を追う
山伏を見ると一人のカラス天狗が襲いかかり山伏を殺した。
殺した山伏を見たカラス天狗は「これは山伏ではない。野武士だ。」
そう叫ぶと、村人を救う為に四人は、野武士に立ち向かった。
羽ばたき、爪で襲い掛かり殺す、しかし次から次と四人に襲い掛かってきた。
火炎を吐くが、そう長くは続かない。
剣や如意棒でたたくがだんだん四人は追い詰められていった。
四人は寄ると、叫んだ。「ギー、ギー、ギー、ギー」すると何処からともなく
カラスの群れが集まってきた。村の上空はカラスで埋め尽くされた。
カラス天狗は「ギー,ギ、ギー」と叫ぶと
野武士に向かいカラスの群れが襲い掛かった。
野武士は一人ひとり、カラスの群れに覆い尽くされ、真っ黒になり地べたに伏した。
死ぬのを確認するとまた、次の野武士に襲い掛かった。
そうして、カラスの大群は野武士を追い払って行った。
夕日が真っ赤になり西の空に落ちてきた頃、野武士の死骸の山が出来た。
町の焼け跡には老人や子供が出て、カラス天狗のそばに集まってきた。
カラス天狗は言った「みなの衆、この村を襲ったのは山伏ではない。野武士だ。これから
山伏の修行地羽黒山に向かう。後に本当の山伏が助けに来る」そう言うと
四人のカラス天狗は飛び立った。
その四人を追うように、カラスの真っ黒な群れも跡を追い飛びたって行った。
跡には野武士のついばめられた死骸が残された。
後に本当の山伏が現れ農民や町人に身を守る、武芸を教えた。
そして、元の町に戻って行った。
それから、300年あまり経つ現代。
大天狗やカラス天狗は実在しない民話や宗教上の昔話になって言った。
ここは、現代の高尾山、杉や松の大木に覆われてひっそり静まり返る神社、仏閣.
その階段を駆け上る女が居た。
「助けて、助けて、」何度も叫びながら、神社に向かう階段を駆け足で登って行く。
後ろには、二人の男が迫る。
「雅、追い詰めたな。ようやくあの女を殺れる。」息切らしながら初老の男はつぶやいた。
「雅、早く女を始末するんだ。」と言うと初老の男は腰の後ろからドスをだした。
「松兄い、俺がこの女をヤルんですか?」震えるように言った。
「お前この女が警察にしゃべったら、お前も俺も死刑だぞ。やられるか、やるかだ。」
そう告げると、松はギラリとドスをかざして女にじりじりと近づいた。
女は、雅に後ろから羽交い絞めにされ動けない。
ファンデーションやアイシャドーが涙と汗で流れて、すごい形相を作り出していた。
松が刺そうとドスを振りかざした時だ。
雅が羽交い絞めにした、後ろの大木杉の枝にカラスが停まった。
そして、この様子を知らせるように泣き出した。「ギャー、ギャー、ギャー」と
松は振りかざしたドスを頭の上で停めた。見上げると足元に合った石をつかみ、カラスに向かい投げつけた。
カラスは石を避けるようにまた上の枝に移った。
また、松は女に向かいドスを振りカザし両手で握ると女の腹めがけて刺そうとしたとき、
大きな黒い影が、松や女、雅の上をまたぐように通り過ぎた。
松が斜め上を見上げると
松の真上の太い枝に、カラス天狗が居座っていた。、松は驚き、ひるんだ隙に
カラス天狗は、脇にあった枝を払い折ると枝を槍の様に松に向かい投げた。
枝は真っ直ぐ松の胸を貫通した。松はその場で絶命した。
女を羽交い絞めの雅は松が急に殺されたのを受け、女を放りだすと、逃げ出した。
「化け物だ。」そう叫ぶと女など見向きもしないで、一目散に杉林を走った。
カラス天狗はもうひとつ、今度は左端の真っ直ぐな枝を折ると逃げる雅に向かい
投げつけた。枝は弓矢のように雅に一直線に向かった。
雅に向かった枝は雅の頭に突き刺さって貫通した。雅はその場で倒れて即死した。
雅に押されてうつむけに倒れた女は、今自分を殺そうとしていた、松が倒れているのと
10mほど先にうつぶせに倒れている、雅を見た。
ほんの一瞬の出来事だった。そして後ろの杉の大木の上を女が仰いてうかがうと
一匹のカラスが枝に停まり、何も無かったかのように首を左右にかしげて
女を見下ろしていた。
女はカラスにお辞儀をして、追われてきた道を逆に去って行った。
高尾山のカラス天狗。カラスだけが知っている。
作者退会会員
3時間ほどで、書き上げた作品です。
カラス祭りに間に合いました。
よかった。