ここは有数のベッドタウンだ。
広い庭付きの家並みがならび公園やスーパーまで住宅街の中にある、
ちょっとした町である。
家は150軒ほどが並び、それぞれの個性をかもし出している。
その中に一軒だけ、平屋の家がポツンと周りの家並みから阻害されたように
建っていた。
そこには40過ぎの夫婦が暮らしていた。
平屋とは言え、二人暮らしの夫婦には十分な家だった。
しかし、周りを見ると2階建てや平屋でもすごく庭が広い家や車が2台、3台
所有している家が並んでいた。
その男(佐藤としておこう)は、この家を買うのに15年間貯めた貯金を全てはたいて購入した。
それでも15年以上の借金が残った。上さんも働いているが
食べるのが精一杯だった。
何時も休みになると、かみさんは周りの家を眺めてため息をついた。
ため息の後は、両隣の事や向かいの家の事を良くいやみ交じりで佐藤に話した。
そんな毎日を過ごすうちに佐藤はかみさんの不満と周りの家や車に対する
恨みが募って行った。
佐藤は心の中で思った。
「俺は、この家を買うのに25年のローンを組んだ。後15年の借金の返済で
精一杯で、車やバイクにまで金が回らない。
なのに周りのやつらは若いのに家は豪華な家に住み、おまけに車は高級車や2台、3台持っている。
おまけに高そうなバイクまで。おまけに子供も作っている。俺は自転車が関の山子供も作れない。」
そう思うと隣の車を憎憎しげに眺めていた。
佐藤は毎日、毎日会社から帰ると自分の家の周りの物が全て、掛離れていて
自分がこのベットタウンで、一番貧乏で、一番低い存在であることを考えるようになっていった。
ある日残業帰りの佐藤の自転車をぬかして行く隣のRVに気がついた。
コンビニに車を停め色々な物を購入していた。RVの横に自分の自転車を停め
雑誌を一冊購入して帰り際に,自転車のペダルがぶつかり、
車の左ドアに白い引っかき傷を作ってしまった。誤ろうと思ったが
思い直し、「金持ちなんだからこんなキズどうでも言いや」と思うと
すごすごと引き上げていった。
次の朝。
隣を何気なく眺めると、昨日の傷のところを必死にこすり磨く主人が居た。
私は何気なく近寄ると聞いた。「車磨き精が出ますね」すると
主人は「冗談じゃ在りません。昨日傷つけられて酷い眼にあいました。
コンビニのビデオも見せてもらったのですが、丁度死角で写ってなくて
傷を治すのにまたお金が掛かるので大変です。」と言うとまた磨き始めた。
佐藤は心の中で「こんな立派な家や車、綺麗な奥さんが居てあなん傷
ぐらいで、大騒ぎするなんてケチで心が小さなやつだ。」
と思うと家に引き上げ笑った。
なにやら佐藤の心が晴れたように感じた。
これから、周りの家も苦しめてやろうと思うようになった。
その日から、佐藤はベットタウンの車やバイクに傷をつけ始めた。
手始めは、向かいの外車。路上に停めて家に戻った隙を見て、
ポケットに在った、10円玉を指の間に挟み、路上を写している防犯カメラの
位置を確認すると、死角を狙い外車に近寄ると思い切り×字を10円玉で
描いた。思ってるより深く傷が着き、妙に晴れ晴れしている自分に気がつくと
家に戻りまた笑った。
このようにして150軒在る家のすべての家財道具やバイクや車に
傷をつけて行った。
佐藤にとって人の物に傷を着けることは、もはや快感に変わっていった。
そうこうしていると佐藤のかみさんが佐藤に嫌気が指して、家を出て行った。
佐藤は一人になると余計この現実を周りの家にぶつけるべく傷を着ける回数が
エキサイトしていった。
佐藤は会社が終わると直ぐ帰り寝て、夜中に起きると防犯カメラの位置や
家に着いているカメラの位置を確かめると見えないところから手や傘のような長い物で
傷をつけて行った。
佐藤は傷をつけるときに「苦しめ、悲しめ、」と言いながら傷をつけては
喜びを感じていた。
警察に届けたやつが居たが、佐藤にとっては警察のパトロールの目をくぐるのは
朝飯前で警察が次の日に来るのが楽しみでもあった。
そんなある日。
このベットタウンでは傷をつける家は無くなった。
集会も何度か開かれて自衛団も作ったがそれも効き目が無かった。
家の隣の板前の主催で集会所で会議が開かれていた。
佐藤は残業で時間が無く、会議には出席できなかった。
板前、それに弁護士、駅前の派出所の警官が主事になり、これからの対策を
立てた。内容は出席した人だけの秘密になった。
数日後。
佐藤には何も聞かされず、何時ものように夜中散歩のついでに、
車やバイクに傷をつけられそうな物を見て回った。
「あの快感は忘れられない。あくる日に見る金持ちの困った顔。
セックスの快感にも似た気持ちだ。」そう思いながら歩いた。
家の角を曲がり、夜中に月明かりに照らされる木陰を潜り右にカーブした
道を曲がると、丁度袋小路のあたりに、車が一台停められていた。
佐藤は「丁度よい獲物だ」と思うとズボンのポケットに手を入れ
ジャラジャラと小銭を鳴らすと、100円玉が指に停まった。
周りを周到に見回して、カメラの無い事を確かめると車に向かい
左サイドにキーと鈍い音を出して100円玉を走らせた。
左側の後部座席のドア、そして助手席のドア泥除け真っ直ぐ一文字に
傷が着いた。
その時だ!!右側面から人影が飛び出すと、佐藤の方に向かい何かを
ぶつけた。佐藤の右足に衝撃が走った。
思わず「いてー」と叫んでいた。
暗闇から聞きなれた声が響いた。
「佐藤さんやはりあんたでしたか?」その声を聞いて佐藤は「はっとした。」
隣の板前だ。そう思ったときはもう遅く周りには、大勢の黒い影が迫っていた。
「なぜ、このようなまねを」佐藤は右足に刺さっている出刃包丁を見て叫んだ。
板前(田中さん)は話した。「なぜというのは此方のセリフだ。」
「お前は何十台いや家やバイクを含んだら何百台と傷をつけてきた。
何の恨みで傷をつけてきたのか?そこが聞きたいんだよ」と言うと
佐藤に向けて車のライトが当てられた。
弁護士の吉田さんが話した。
「お前の制で、僕たちは要らぬ保険を掛け、夜も眠れない状態だった。」
佐藤は包丁の刺さった足をかばうように答えた。
「立派な家に住み、毎日綺麗な高級車に乗り、会社に向かう姿を見た。
それに綺麗な奥さんが居て手を振る。なんて理想の恵まれた家庭だ。
しかし俺はどうだ家は最低の家、車も買う事ができない。一生をローンで補う生活。
それにかみさんまで逃げ出した。その生活のギャップをどう埋めれば良いのだ。」
開き直ったように佐藤は言った。
すると警察官の鈴木が話し始めた。
「お前が思ってるほど、このタウンの人たちは楽で、裕福ではない。
お前より大変なローンや家庭を抱えている人が大勢居る。
しかし表向きには幸せそうにしてるんだけなんだ」と言うと
佐藤にみんながジワジワと迫ってきた。
出刃包丁が刺さったままの足を引きずり袋小路の奥へと逃げた。
住民はリーダーを先頭に詰め寄った。
佐藤は「助けてくれ、警察官の鈴木さん」と鳴きついた。
警官の鈴木さんは、
「お前を捕まえても軽犯罪だからせいぜい1年牟所にぶち込まれるのが関の山だ。そうですね吉田さん。」
「鈴木さんそれはちょっときつい。模範守だと減刑になり半年で、出てこれる。」
そういうと
板前の田中さんが「それでは、困るのですよ。
私たちがどれほど迷惑いや苦痛をこいつから味わったかそこが問題です。」と言うと
後ろの黒い影の何十人もがうなずいた。
吉田さんは「やはり、許しておけないですね。ここで裁きましょう」と言うと
リーダーの3人と他の大勢の影がうなずいた。
田中はつぶやいた。「さ、もう早くしないと明日も仕事です。
このようなおろかな、人間のくずにかまってはいられない。さ、やりましょう。」
「さ、並んでください。怨みは一人一刺しです。
死んだ後、皆さんに分配しますので埋めるなり、ごみに出すなりしてください。」
田中はそういうと、今まで佐藤に刺さっていた出刃包丁を抜くと
次々に並んでる住民に渡した。
朝になり、みんな平穏な生活にもどった。
しかし、佐藤の家が残り佐藤は消えた。
作者退会会員
よもつさんやM太郎やその他の人の真似をして
書いてみました。「風に書いてみ見ました。怖話風かな?」
ま、怖いはあまり無いと考えますが、私なりに怖さを出したつもりです。
読んで、感想を聞かせてください。
お願いします。