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中編7
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ストップウォッチ

ストップウォッチを拾った。

就職試験を落ちまくり、すでに30社目の不採用通知を受け、不貞腐れて近くのコンビニに酒を買いに出掛けた帰り道だった。

そのストップウォッチは、薄暗い街頭の下でも妖しく金色に光っていた。

ストップウォッチに金色って。いったい、どこの国で作られたんだよ。

無視して通り過ぎようとしたが、よく見ればデジタルは動いている。

ふむ、カップ麺作る時くらいには使えるか。

俺は地面についていた面をはいていたジーンズで拭き、ポケットに忍ばせた。

さて、貧乏学生の侘しい食事だ。酒はもちろん発泡酒一缶のみ。

飲まなけりゃ、やってられるか。貧乏だけど、これくらいの憂さ晴らしはいいだろう。

リモコンでリビングのテレビをつける。

「さて、次はお天気です。気象予報士の斉藤さーん。」

お、斉藤日名子だ。俺、すげータイプなんだよね、この子。

かわいいうえに、気象予報士の資格まで取れる才女。理想の女の子だなあ、まさに。

キッチンに立ち、小さな電器ポットに水を入れ、スイッチを入れる。

その間に、カップ麺のパッケージを破り、スープの粉を投入。

お湯が沸いた音を聞いてから、ストップウォッチのスタートボタンを押し、カップ麺にお湯を注いだ。

あとは、ストップウォッチが3分を指すのを待つのみ。

俺はストップウォッチを止めた。

俺は違和感を感じた。

いつの間にかリビングのテレビは消えていた。

あれ?俺、テレビつけなかったっけ?もう一度、リモコンでテレビをつける。

「さて、次はお天気です。気象予報士の斉藤さーん。」

え?さっきも同じこと言わなかったっけ?

そしてテーブルを見ると、まだ未開封のカップ麺が。

確かに、カップ麺のパッケージを開けて、スープとお湯を投入したよな?

俺は電器ポットを触る。温かくない。しかも、水すら入ってない。

なんだこれ。

夢でも見てるんだろうか?俺は思いなおし、またカップ麺を開封し、お湯を沸かし注ぐ。

ストップウオッチで計り、3分を待つ。

俺はまた違和感を感じる。

またテレビが消えてるのだ。

なんなんだ、壊れたのか?参ったな。

もう一度リモコンの電源を押す。

「さて、次はお天気です。気象予報士の斉藤さーん。」

まただ。ということは、俺の目の前にはまた・・・。

やはり未開封のそれは鎮座していて、お湯も沸いていない。

なんだよこれ。

俺は、そこで初めてある可能性き気付く。

もしかして、ストップウオッチか?

確実に確認する方法がある。

俺はベッドわきのサイドテーブルに置いた目覚まし時計を目の前に置いた。

そして、ストップウオッチを押す。

「あっ!」

目覚まし時計は、反対回りに秒針を刻み始めた。

間違いない。時間が巻き戻っている。

このストップウォッチは、時間を巻き戻すことができるみたいだ。

3分で計れば、その時点から3分前に戻る。

ということは。

俺は試しに、またストップウォッチを押した。

すると、逆再生のように俺の周りの景色が動き出した。

ストップウオッチを止めると、俺はコンビニ袋を提げて、アパートの前に立っていた。

時計は15分前を指していた。

ストップウォッチも15分を指している。なんだこれ。すげえ。

いろいろ試した結果、どうやら、ストップウォッチ自体は普通の物と同じらしく、100時間計。

つまり、100時間は時間を遡れる。つまり4日と4時間は一度に時間を戻せるということだ。

不思議なことに、時間を遡っている間は、空腹も感じないし、排泄もしない。

どういう原理かは俺にもさっぱりわからない。

ちなみに、就職試験前に戻ってもう一度面接をしてみたが、やはり落ちた。

俺の人生は、ちょっとやそっとじゃ修正が効かないみたいだ。

これって、連続して押し続ければ、人生やり直せるんじゃないかな?

俺はそう思った。俺が就職できないのは、やはり大学がFランだからだ。

そう思い、根性でストップウォッチを押し続け、ついに今の大学の4年間をフイにして、もう一度本命の大学受験にチャレンジし、受かった。試験問題がすでにわかっているので当然である。

そこからの俺の人生はばら色だった。

本命の大学に受かる。試験もあらかじめ巻き戻せば問題は知っているので楽勝。

大学を優秀な成績で卒業。もちろん優良企業への内定も決まった。

しかし、このストップウォッチの動力ってなんだろう?

見れば見るほど不思議なストップウォッチだった。

電池を入れるところも無く、かといってソーラーが動力でもなさそうだ。

この4年間、まったく電池が切れることなく動き続けている。

もうこいつも必要ないかもな。俺は人生をやり直すことができた。

いや、やはりこいつは人生の保険として持っておこう。

俺の人生、向かうところ敵なし!

俺は浮かれていた。内定も決まり、友人と旅行に出かけることにしたのだ。

そこで、俺を悲劇が襲った。

居眠り運転の友人の車が、車線をはみ出し、対向車と正面衝突。

寸前、俺はとっさにポケットのストップウォッチを握った。

助かった!事故を回避できた。俺は時間を1日戻し、友人との旅行をドタキャンした。

友人からはさんざん文句を言われたが、本来なら感謝してほしい。

お前は俺のおかげで死なずに済んだのだから。

もうこのストップウォッチを手放せなくなった。

俺は、旅行をドタキャンした代わりに、一人で釣りに出かけた。

釣りなんてどれくらいぶりだろう。たまには一人でのんびりするのもいいものだ。

俺は岩場で竿を出し、釣り糸を垂らしていた。

すると、突然、俺を高波が襲った。足元をすくわれ、海に落ちた。

ヤバイ、溺れる。俺は藁をも掴む思いで、ストップウォッチのボタンを押す。

すると俺の体はいつの間にか、岩場の上に居た。

た、助かった。俺は時間を遡り、釣りにでかける前にまで時間を戻す。

かれこれ、1時間前。

そういえば、事故に遭いかけたのもこの時間ではなかったか?

友人との旅行で事故に遭いかけたのも、朝の8時ごろ。

遠出だったので、早朝に出かけたのだ。

釣りに出たのも同じ頃。

いや、偶然だ。こうなったらもう家で大人しくしているしかない。

俺はそう思って、布団を頭から被った。

く、苦しい。俺は突然の胸苦しさに目が冷めた。

胸が締め付けられる。今までにないような感覚。

ヤバイ。このままでは死んでしまう。

俺は慌てて枕もとのストップウォッチに手を伸ばす。

時が戻り始めた。俺の体はすっと楽になった。

た、助かった。時計を見る。おれは愕然とした。午前8時。

事故も、溺れたのも、胸が苦しくなったのも今日の午前8時。

これって、死亡フラグ?

嘘だろう?俺、まだ22歳だぜ?

俺の人生、22年で閉じることになってるの?

俺は絶望的な気分になった。

だって、人生、これから楽しくなるって時に。

就職し、恋愛をし、結婚し、家庭を持って、幸せになる。

人生設計はこれからだっていうのに。

ストップウォッチを押しながら、俺は悩み続けた。

どうやらあの日の午前8時に死ぬことだけは、変えられないらしい。

大学の時は、あんなにうまく行ったのに。死亡フラグだけは、変わらないようだ。

悩み続けた結果、俺は考えを改めた。

だいいち、就職すれば、人間関係に悩むだろうし、恋愛だってうまくいかないかもしれない。

結婚だって人生の墓場だって言ってる人間もいるし。家庭を持てば、家族のために働き、家のローンに追われ、老後だって子供に邪魔扱いされて、肩身の狭い思いをするかもしれないじゃないか。

そう考えれば、お気楽な学生生活を延々と続けられる今は、最高なんじゃないか?

俺は、ストップウォッチを押し続ける。そして、永遠に学生としてエンジョイする覚悟を決めた。

「おい、田中か?これから俺んち、来ないか?飲み明かそうぜ!」

こうなったら徹底的に楽しんでやる。

その夜は、朝まで飲み明かした。

俺は浮かれていた。

そして、そのあくる日が2015年12月2日だということをすっかり失念していたのだ。

「うぅっ!」

突然の胸の痛み。

し、しまった。す、ストップウォッチ、ど、どこだ。

俺は痛む胸を掻き毟りながら、ストップウォッチを探した。

あ、あった!ヤバイ、時計が7時59分を指している。

は、早く、押さなきゃ!

「うーん。」

隣で寝返りを打った田中の手が当たって、ストップウォッチが弾き飛ばされた。

嘘だろう!

無情にも時計は8時を刻む。

は、早く!止めなきゃ。

だが、胸の痛みで、ストップウォッチまでたどりつけない。

カチッ。目覚まし時計が8時1分を指した。

そ、そんな・・・。神様。

*****************************

「クッソー、マジか!あり得ねえ、こんな結末。」

「へへっ、今回の掛け金、俺いただきw」

「まさかのドジっ子かよ。」

「ストップウォッチをずっと使って生き続けるか、それとも、人生に絶望して死を選ぶか、二択だと思ってたのに。」

三人の死神が、大騒ぎしていた。

二人の死神がもう一人の死神に金を渡す。

俺の死は、こいつらの賭けに利用されていたのか。

俺の目の前に、ストップウォッチを置いたのもこいつらの仕業だった。

「人の死を弄ぶとは何事ぞ。」

天が割れんばかりの声がした。

「ヒッ、神だ。」

三人の死神は震え上がった。

「お、お許しを。」

ひれ伏す三人の死神を眩い光が包んだかと思うと、三人を稲光が打ち据えた。

すると、そこには三人の死神の姿は無かった。

三人が目を開けると、そこは地上だった。

お互いの姿を確認しあった。

三人は人間の青年の姿になっていた。

そして、三人の目の前には、3つの金のストップウォッチが落ちていた。

三人はそれを拾うしか選択肢が無いことを、十分すぎるほど知っていた。

ただし、今度は時間を巻き戻す機能とは限らないことも。

Concrete
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鏡水花様
この時期になると必ず風邪を引いて、職場から大ヒンシュクのよもつです。
いったん店に出たものの声が使い物にならず、あえなく早退。セカンドオピニオンで行った病院から紹介状持って来いと言われ、慌てて一回目の病院に紹介状を求めたら、医師にヒステリックに何故か怒られ、散々な一日でした。
この時期、体調を崩しやすいのでお気をつけを。
特に脳梗塞は注意です。なるべく温度差のない生活とサラサラ血液を目指しましょう。
玉ねぎがいいみたいですよ。

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鏡水花様
ご心配いただき、ありがとうございます。
まだ人工透析までは至っておりません。その前の段階なので、これ以上食生活などで機能を落としてしまったらヤバイという段階です。なので、食生活を気をつけて今の機能を温存しなければなりません。

30代の時に腎をやりまして、その時に初めて片方しか腎臓が機能してないことが判明。
それまでは全く健康で入院なんてしたこともなかったので、腎臓病は本当にサイレントキラーと呼ばれることがよくわかりました。
この前、水素水のことをテレビでやってたので、買ってきましたw
何か成果が出たらお知らせしますねw

脳梗塞は、大事にいたらない箇所だったのでしょうか?私も知らないうちにやっていたようで、幸い、大事にいたらない場所で良かったです。
腰も、お大事に。無理せずご養生くださいね。

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鏡水花様
コメントありがとうございます。
腰をやってしまいましたか。腰は辛いですね。
体の真ん中だし、何せ動けないのは、辛い。ゆっくり養生してくださいね。
最近ネタ切れでして。風邪気味もあり、少しずつ読んでは怖いをつけるにとどまっています。
皆さん、やはり年末はお忙しいようで、短編が多いような気がします。
実は私もこんな時間に背中の痛みで目がさめてしまいました。
慢性腎不全なので、ちょっとの背中の痛みでも不安で目が冴えてしまって。
普段の生活には全く支障はないのですが、やはり持病があると不安です。
腰の痛み、早く良くなることをお祈りしています。

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名無しの権ちゃん様
コメントありがとうございます。
銀行強盗ですか。過激ですねw

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宝くじ・・・は面白く無いから銀行強盗等の予行演習に使うかな(。-∀-)

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来道様
コメント、怖い、ありがとうございます。
次は、怖い!と言われるよう頑張りますw

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吉井様
コメント、怖い、ありがとうございます。
そうですねえ。銭風呂には浸からなくていいので、オシャレなおうちに住んで、家具をすべて統一して、お風呂はジャグジーにしたいです。丸いヤツです、丸いヤツ!w
年末ジャンボ買いに行こう。
なんか、話が逸れました。

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光道 進様
コメント、怖い、ありがとうございます。
なるほど、リモコンのほうが便利ですね!それ、なんという映画ですか?
面白そうなので、見てみたいです。

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コメント、怖い、ありがとうございます。
ロビンM太郎.com様
そんなに遡らなければダメなんですかw
まりか様
いいですねえ、キャリーオーバーのロト6。人生の悩みは全て解決しますね!
欲求不満様
もとい、気分爽快様w欲をかけば、思わぬ不幸に見舞われそうというのはありますね。
私もドジっこ属性なので、きっと上手く使えないでしょう。
mami様
同感です。きっと使うのが怖くなると思います。
でも、ロトは試したい(強欲)
マガツヒ様
すばらしいです。きっと充実した人生を送られてきたからこそのお言葉だと思います。
私は願わくば、学生時代に戻って、もう少し頑張って勉強しておけばと常々思っていたので、そのあたりに戻りたいです。
あんみつ姫様
安心してください。人の煩悩は百八つw
皆、持ってますよ。あれもこれもと欲張っては、し損じそう。
でも、人生を変えることによって、出会える人が変わるのは嫌だなあ。
今の主人と子供でないとダメです。こればかりは譲れません。家族愛!

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