1959年伊勢湾台風がおき、過去最悪の死者と大惨事を
日本各地にもたらした。
伊勢湾で3000人の死者が出ました。
山形県も通り道になり、農作物や家畜、稲作に影響を受けました。
死亡者もでました。
その時の不思議な話です。
当時、私は6歳でした。台風が伊勢湾を襲ったことは
ラジオでおじいさんと聞いてました。
まさか、私のところにまで影響があるとは
思いもしなかった事を覚えてます。
おじいさんはその当時私のお守り役でした
と言うか両親やおばあさんは、店に出て働いてました。
私はおじいさんに遊んでもらうのが日課でした。
私が学校に上がるまで「あと一年我慢すれば、私は楽なる」と
何もわからない私に向かいよくつぶやいてました。
そんなある日の事です。
何時ものように近くの広場でおじいさんと遊んでいると
半鐘が突然なり始めました。
最初は火事かとおじいさんと私は思ってましたが、
回りの様子から火事ではなく
何かの知らせである事がわかりました。
広場では多くの人が子供を連れて遊んでました。
みんな半鐘の鳴る方向を眺めてました。
そして、アナウンスが流れました。
「台風15号が伊勢湾から東北に向かっている」とのアナウンスでした。
みんな、家に帰り台風に備えなさいとの警告でした。
私とおじいさんは、家に戻り
両親やおばあさんが戻るのを待ってました。
そして2時間
風が強くなり家のガラスと言うガラスは音を立てて
鳴ってました。
私はおびえて、おじいさんにしがみ付いてました。
1時間経っても両親やおばあさんは帰宅しませんでした。
おじいさんは、「おびえるな、ただの風と雷と雨じゃないか?」と
私を励ましました。
おじいさんは、「家の外が心配になった。家の周りを見てくる」と言うと
カッパと陣笠をかぶり私を玄関に残し外へ出てゆきました。
残された私は大きな家の中、玄関でしゃがみ込み脅えてました。
10分が過ぎ風や雨がもすごい勢いになってきました。
そして玄関に残された私は、外の景色が見たくなり
ガタ、ガタ揺れる玄関の引き戸を10cmほど開けました。
そして外を覗くと、雨と風の中、玄関の前には、大きなカッパを着た
男が立ってました。
私は誰だかわからず、戸を閉めようとした時その男の大きな手が
戸の端しに取り付き、思い切り戸を開けました。
私は恐ろしくなり戸から離れました。
男は中に入るなり、私を下目でギロット見下しました。
私はこの男が誰だかわからないまま、
玄関に居座ってる様子をジーとして眺めてました。
男は背を曲げて下に居る私の顔に近づき、「お前俺が見えるのか?」と
たずねてきました。
私は男の顔の前で、うなずきました。
男は「そうか」と言うと「お前の家族はどこに行った。」と私に聞いてきました。
私は店の事や、おじいさんの事を話ました。
男はニヤ着いた顔で「お前は俺が誰だか知ってるのか?」と尋ねました。
私は「知らない」と言うと男は大きな声で笑いました。
男は横風と雨で濡れたガラス窓を眺めると、
「お前のおじいさんは、今風で崩れた木の下敷きになり足を折って動けない。
次期に別の木も倒れる。お前が助けないと死ぬ」と言うと大雨の降る中、
また戸をいきよいよく全開にすると出てゆきました。
男を目で追いましたが、暴風雨の中どこに言ったかわかりませんでした。
私はまだ6歳でしたので、男が言い残した言葉「死ぬ」という事が判らず、
とにかく怪我をしてるおじいさんを助けなくてはと思い
雨と風の中に飛び出しました。
そして、10分ずぶぬれになり家の周りを探し回りました。
すると、納屋の軒先の下に、木の下敷きになりうずくまっている
おじいさんを見つけました。
そのころには、あの教えてくれた男の事など忘れて、おじいさんを助ける事に
集中してました。
男が言うように、右足の骨が30cmはある木の幹に挟まれて折れてました。
しかし、6歳の子供に丸太を持ち上げることは出来ないと判り
おじいさんは痛みを堪えて風と雨の中、「早く人を呼んでくれ」と叫びました。
私は夢中で、人を呼びに走りました。その時には、
あの男が言ってた事を思い出してました。
「頬って置けばじいさんが死ぬ」その一言が私の耳の中で響きました。
15km先の親の居る店に向かい、走り出しました。
どこを、どう歩いたか走ったか判りませんが30分以上を歩きぬいて
店である旅館にたどり着きました。
玄関をくぐると、父が真っ先に出てきました。
「どうしんだ、家に居たはずじゃなかったのか?」父の声は私に響きました。
私は、「おじいさんが大変だ死んでしまう。早く家に戻り助けて」
と言うとその場で気を失いました。
気がつくと、もう台風は通り過ぎて、私の周りには
両親とおばあさんとおじいさんが心配そうに眺めてました。
「おじいさん生きてた」とおじいさんに飛びつくと、右足のギブスを見せて、
「お前のおかげで、このくらいの傷で済んだありがとう」と
抱き寄せてくれました。
そして、気を失ってからの状況を話してくれました。
親が駆けつけておじいさんのはさまれている木をどけ、
おじいさんを助け出すと、今,はさまれて居た木に
覆いかぶさるようにその周りの木が次々に倒れてきたそうです。
勘一発おじいさんは助け出されたと言う話をされました。
しかしどうしてあの台風の中で家に居てわかったのかと
質問されると、私は正直に「大きな男が着て教えてくれた」
と言うとみんな笑って、誰も信用してくれませんでした。
しかしあの時、あの人が来なかったら本当におじいさんは
木の下敷きで死んでしまっていたかもしれません
でも、当時6歳の私にとってはあの男が誰だったのか、
それを知る事は出来ませでした。
それから、あの男は私の前には二度と現れませでした。
作者退会会員