一銭店
昔学校の近くに駄菓子屋と文房具を売る店があった。
そこは色々な子供たちが5円のくじや駄菓子を買いに
毎日のように来ていた。
お婆さんと奥さんが子供の相手をして
夏になるとところてんとかき氷も売り出した。
当時こずかいがもらえない私は
いつもその店の前を通るたびにうらやましくて
他の子を眺めていた。
それが毎日続くと顔を覚えられてしまい時々
駄菓子を分けてくれたりするようになった。
年がたち一銭店のお婆さんが亡くなった。
その事はうちのお婆さんから聞いた。
お婆さんはその店のおばあさんと友達で
よく遊びに行っていたが
孫がその店からお菓子をもらったり
している事には気がつかなかった。
私とお婆さんはその一銭店のお婆さんの葬式に行き
初めてそこの嫁が知ることになり、その嫁とも顔なじみに
なっている事に気がついた。
お婆さんは「つらい思いさせたね。家にお金がないわけじゃない
ただ、お金を使う年じゃないと思っていただけだ」と言うと
私に頭を下げた。
葬式も終わり1週間が過ぎたころ
お婆さんが生まれて初めて私にこずかいをくれました。
10円でした。私は喜び大事に両手で握り
一銭店に買いに出かけました。
店に着くと店の入り口の縁側に腰掛ける
お婆さんが居ました。
私は死んだことなど忘れて、みんなが買い物
するように、10円玉をお婆さんに出し10円で買えるだけの
お菓子をいっぱい買い、家に戻りました。
お婆さんのところに持って行きお菓子を見せて
一銭店のお婆さんの事を話すと
お婆さんの口調や態度が変わり、みるみる恐い顔になりました。
お婆さんは、あの店にもう行ってはいけないと言い出しました。
「一銭店のお婆さんが成仏してから行きなさい」と言われ
私はその日を境に行かなくなりました。
お婆さんは念のため私を拝みにお寺に連れて行き
拝んでもらうとその足で、一銭店に向いました。
店の前には嫁さんが居て水をまいてました。
お婆さんは、店の嫁さんに向い
「おかあさんは成仏してない。時々縁側に出てきている」
とつげました。
嫁は「きっと息子の病気を心配して成仏できないのです。」と答えた。
嫁は付け加え「主人は大工で足場を踏み外し転落して
下半身不随で働く事が出来ないので弟が働いてこの家を切り盛りしている。」と話しました。
お婆さんは「どうすれば納得して、成仏できるか一緒に考えましょう」と言うと
仏壇の位牌を拝み帰ってきた。
解決策がないまま10日が過ぎた。
お婆さんは私に「見えるのはお前だけだ。なんで成仏できないか聞いてほしいと」と
頼まれました。私は一銭店の縁側に行き待つことにしました。
待つこと15分私はお経を拝んでました。すると奥の座敷からお婆さんが現れました。
私に向い「今日は何を買いに来てくれたの」と私の心に言ってきました。
私は正直に「お婆さん。もう心配しないで息子さんは大丈夫。
弟さんが立派に後を継いで切り盛りしてます。お金の心配もいりません。」と言うと、
私は怖かったが作り笑いをしてその場はごまかした。
お婆さんはそれを聞くと私の前に座り、私の目を見てうなずいて消えていった。
私はお婆さんに出来事を報告しました。
お婆さんも「お前も人を助ける事が出来るようになったんだね」と言うと
目がシワデ見えなくなるほどの笑みを浮かべて喜びました。
しかし一銭店は時代の流れで自然に消えて行き、
今は普通の民家になっています。
嫁さんも年をとり私が20歳を過ぎる頃には、以前のお婆さんのように
縁側に座り、駄菓子を買う子を眺め笑顔を振りまいておりました。
作者退会会員