渡し船
昔、橋がない時代渡し船が盛んでした。
最上川は特に、酒田との商工のやり取りで
重要な位置にありました。
酒田と庄内をつなぐ橋がなく、最上川渡しが盛んに
行われていました。
私の先祖も庄屋として川を利用して、商いを行っておりました。
先祖と言っても私からさかのぼると3代目ひい爺さんの時代です。
その時代から渡しにまつわる怖い話が
伝えられていました。
最上川を渡るには、庄内側の渡しを使い
米や野菜果物等を運んでおりました。
私はおじいさんと一緒に、最後の渡しになるであろう
船に乗り込み、最後の荷を運んでいるときのことです。
その日は天候が悪く最上川は水かさが上昇して危ない状態でした。
しかし、おじいさんは「この荷を今日中に届けないと利益が無くなる」と、
船頭に言うと何時もの2倍の渡し代を払い船に積み荷を載せました。
荷は重く、船に乗せると船が少し沈みかけるほどでした。
2倍の渡し代を貰った船頭は、船をゆっくりと川岸から放しました。
私におじいさんは「良かった、もう少しで儲けが無くなるところだった。」と
呟くと、ホッとしたように庄内側を離れる船のへりを眺めていました。
おじいさんは、ここから上流に20kmほど行き、酒田の渡しに行く
コースを私に詳しく教えてくれました。
3時間かけて、船は上流に向かう予定という事も教えてくれた。
しかし候は悪くなり途中で、風と雨が強まり、船の揺れが酷くなり
川岸に一時避難することになりました。
川岸の近くにイカリを落としたときです。
船は、横に揺れるのではなく、縦に揺れてバウンドするように
私には感じました。
船頭は揺れを感じると慌てて船底に駆け込みました。
しばらくすると大きな声で「船底に穴が開いてる」と叫び声が
上がりました。
おじいさんは、「積み荷が危ない」と叫ぶと
船底に向いました。
私は船の甲板でおびえて座ってました。
船頭の居なくなった、甲板には雨と風と波が入り乱れて
当たり、ひどい状況でした。
私は、舟底に通じる門を見て、拝むように眺めておりました。
すると、舟底から上がってくる女性の姿が見えました。
真っ白な着物姿で、髪の毛は後ろに束ねてあり
頭にはしめ縄の様な鉢巻をした姿です。
私は驚きました。
船がでるときは、私とおじいさんと船頭が二人
女など乗っていなかった。
しかし、私の前には女性が居る。
私が雨の中、寄って来る女性を見ると、「お前は私が見えるのか」と私に言った。
私は怯えながら、無言で首を縦に振った。
「この船はもうじき沈む。その前に舟底の二人を連れ出しなさい。
そうしないと二人は死ぬ」そう告げると
女性は、消えました。消えた女性の行方を捜したが、雨と風の中外に出る事も出来ず
その場は女性の言う通りに船頭に伝えることにした。
私は舵を取る船頭に、舟底の二人を連れ戻すように頼みましたが
舵を取るのに精一杯の様子で、私の言葉などききいれてくれませんでした。
仕方なく、私は揺れる船の中、舟底に向いました。
おじいさんと船頭は二人で、船端の大きな穴を何とか
ふさごうと必死でした。
水はもうヒザまで来てます。
私は、「もう直、船が沈む早く逃げて」と叫びました。
すると二人は、我に返り、私と一緒に甲板に戻り、
舵を取る船頭に、「川岸に寄せろ」と二人係で言いました。
風と雨と波の揺れの中、必死で舵を切り
川岸の草むらに船を寄せ、イカリと縄を川岸めがけて
投げて、船頭二人は船を飛び降り
船を岸に縛りつけました。
私が先に岸に降りて、おじいさんが来るのを
待ちました。
おじいさんは積み荷がどうなっているか、舟底に
戻り確かめて戻ってきました。
そして、甲板から岸に移る時、大きな波が来て、
おじいさんを押し流そうとおじいさんの体に大波がかぶさりました。
私は必死でおじいさんの体を掴み、岸に寄せました。
おじいさんは、私と二人岸の波打ちぎわで、船の行方を伺ってました。
船は30度以上傾き、かろうじて固定されてます。
船頭も二人私たちの横にきて話しました。
私たち皆運が良かった。積荷も無事だ。
そして、私は我に返り、先ほどの女性の話を3人にしました。
3人は驚き、川の神様が助けてくれたのだというと
川に向い拝みました。
3時間するうちに雨が小降りになり、波が収まると船の底の穴を埋めて
酒田に向かいました。
船頭たちは、竜神様が助けてくれたと、酒田に着くと話してました。
おじいさんの顔を見ると、私の肩を抱き寄せて
「もうこの商売は終わりじゃ。私も歳をとった。」
そう言うと最上川を見つめていました。
作者退会会員