人魚の涙
朝玄関を出る一人の初老が独り言をつぶやいた。
「さあー今日はオークション.いいものを仕入れるぞ。」 玄関で活を入れて
車に乗り込んだ。そして。。。。。。。。。。。。。
オークションの会場であるビルに到着した。
宝石商が30人ほど集まった。オークション会場では今日の目玉である
ゴールデンパール直径30mmの買い付けを行うべく30人はひそひそ話をしていた。
買い付けに来ていた社長の永井は、目玉商品が出てくるのを今か今かと待ち構えていた。
オークションの司会が話し始めた。
「今日のメイン、ゴールデンパール人魚の涙の競を始めます。
それにあたり、売主である藤堂さんから挨拶があります。」
紋付はかまの老人がマイクの前に立った。それを横から支える紫のワンピースの娘が居た。
「この人魚の涙は、藤堂家に来る前に色々な人の手に渡り、災難を振りまいてきました。
まず最初に、この真珠を獲った漁師が自分の船の網に絡まり窒息死しました。
その後、それを買い付けた、網もとの家が火事になり、‘家族5人が逃げ送れて死にました。
その後、金庫に保管してあった真珠や現金が火事場のドサクサで盗まれ、行方不明になり、
10年後男爵である私の父が真珠を買い取りました。その買い取った真珠がまた盗まれ賊の手に渡り、
どういうわけかその賊も真珠を抱いたまま自殺しました。その真珠が家にまた戻ってきたのです。
その真珠が戻ると藤堂家でも、不吉な事が起き始めました。
私の父が何者かに撃たれ死にました。
その後を追うように私の母が、服毒自殺、その後に兄がこの真珠を売ろうとして
持ちかけた富豪の家で心筋梗塞で病死。私が引き継いだが、私の妻もこの真珠を磨いている
最中に脳梗塞で死去。私の長男も崖から落ちて死去。
次男は真珠を運んでる最中、交通事故で死去。
後は残された私と一人娘のこの子だけになってしまった。
この子に不幸が来ないように私はこの真珠を売る事にした。
私の命ももう長い事はない,がんであと3ヶ月と診断されている。
そう告げると、老人は娘に手を引かれ、会場を後にした。
ここは宝石商の家。
主人が宝石を買いつけ戻ってきた。
あなた、今日の収穫はどうでした。
「おー良い物を仕入れてきた。しかし売れるかわからない。
何せいわくつきの宝石で誰も手を出さない物を俺は競って安値で落とした。」
そう言うと書斎に真っ直ぐ向かい妻にも収穫した宝石を見せずにしまった。
妻は今言われたことを忘れて食事の支度をした。
PM11時、社長はおもむろに金庫から宝石を取り出し、ルーペで見始めた。
「この真珠が人魚の涙ねー。何処にでもあるゴールデンパールじゃないか?
何でみんな競をためらったのか?おかげで、半値で買い付けた。良い買い物だ。」
そういうと真珠を袋につめ金庫に戻した。
翌朝。
昨日買い付けたもの全てをアタッシュケースに詰め、店に向かった。
店に着くと、早々店員を呼び出し朝の朝礼を開き昨日の買い付けの話や
これから売りさばかなくてはいけな宝石をみんなに見せた。
その中で、やはり「人魚の涙」と言われる真珠を見せると店員から
ドヨメキガ起きた。
支店長の川田が言った。「社長、この真珠「ゴールデンパール」売れるんですかね?」
と投げかけた。社長は「仕入れた以上はお前たちが売らねばならん。
その為に雇っているんだ」少し怒った口調でつぶやくと、奥に引き上げて行った。
セールスや店員に向かい店長の川田は小声でささやいた。
「親父焼きが回ったのかもしれない。物好きにもほどがある。
俺はあの親父の下で10年働いてきてるが、この買い付けは大きな間違いだ。
誰も手をつけないこの真珠を売る事は難しい。だから半値で買えたのだ。」
そう言うと川田はセールスに売りさばくように施策を与えた。
そして、20日後。
セールスが店に駆け込んできた。
「店長、あの真珠いや人魚の涙売れそうですよ。後は店長の後押しが必要ですが?」と言うと
川田とセールスは、社長室に向かった。
二人は意気揚々と社長の前で話した。
「人魚の涙売れそうなので、私とセールスの松井君が組んで売りさばきに行きます。
値引きの交渉の歩合を教えてください。」
社長は上機嫌になり、
「よし、いわくつきの物だ、安く売って来い。しかし利益は40%以上乗せだ。判ったか?」
それを聞くと川田は少し曇った顔をしたが、また居直り二つ返事で引き受けた。
社長室を出ると川田がささやいた。
「相変わらず、強欲なやつだ。40%上乗せだって。この真珠にそんな価値があるものか?」そう言うと
松井が探してきた客先に出向くべく、車に乗った。
「おい松井お前よくこの真珠買うところ見つけたな?その物好きは何処のどいつだ。」
松井は誇らしく答えた「やくざの姉御です。」川田はそれを聞くと驚いた。
「お前何処で探してきた。この真珠はただの真珠じゃないんだぞ。
呪いが掛けられていて買った者全てが死んでるんだ。
生き残りは誰も居ない。お前知っててやくざの姉御に売るつもりなのか?」
そう言うと松井は顔を強張らせて答えた。
「店長初めて聞きました。俺はチンピラの友達に真珠の良い物を仕入れたから誰か知らないか?」
と聞いたら「組の姉御が真珠が好きで集めている」と言ったので「今回会いに行くつもりでした。」
そう答えると、
運転に集中するふりをして逃れた。
町をはずれ、田舎道を行くと大きな門の家が見えてきた。
川田は緊張してか、ネクタイや身の回りを整えた。
門の前に着くと子分であろう門番が車の中やトランク、車の底を鏡で見て通した。
二人はスーツケースを持つと車から降りた。
玄関に着くと、背広やズボンまで手探りを入れた。
後はスーツケースの中身も確かめられた。
手下が言った「ちょっとここで待っておれ」5分ほど土間の先で待っていると
姉御らしき着物姿の女性が現れた。
「さ、遠慮なく上がって。話は奥で聞きましょう物は持ってきたわね。」
そう言うと奥座敷に通された。
松井や私は緊張のあまり歩くのもぎこちなくなる始末だった。
座敷に通されると、早々スーツケースの宝石を取り出した。
ダイヤモンドやサファイヤ、ルビー、出したものには目もくれず、
「真珠はどうしたの?私はそれが目的なの。余計な物は出すんじゃないよ。」と
声を荒立てた。
私はびびり、恐る恐る真っ赤な袋に入った真珠を取り出し見せた。
松井はいつの間にか、座席を外して一歩下がった上体で
姉御との交渉は私一人になった。
姉御は手に取ると「これこれ、人魚の涙」と言うと、
独り言のようにつぶやいた。
いとおしそうに眺め目を細めて、指や首にあてがい見とれていた。
「私は長年この日を待ってたんだよ。私のところに戻るのを」 と言うと,
私に向かい目を吊り上げて
「幾らだい」 と言うと姉御は私の目を見た。
私は一言、間を開けると「1500万円です。」ともう一度姉御の目を見て話した。
姉御は「このひと粒が1500万円だって」と身を乗り出した。
すかさず、「ディスカウントがあります。」と言うと身を引いた。
川田は「この真珠曰くつきなのはご存知ですよね。持っているものが必ず死ぬと言う事。」
姉御は川田の目を見てうなずいた。
「ですから、お買いになるのでしたら、今日は現金で1000万円でいいですよ」と言うと
松井が後ろで、私の背広の裾を少し引いた。
姉御は少し考えると「いい値段だ。」と言うと奥に引き上げて行った。
松井は後ろで、「すごい店長」と言うと、若い主に睨まれた。
5分ほどして、奥の座敷より戻ってきた。
姉御は現金をテーブルの上に並べた。
私は100万円の束を10束数えると、領収書、品質保証書、保険書、それと
細工をほどこす時のサービス保障書を渡しその他にケース等を渡すと
変わりに1000万の現金をスーツケースに詰めた。
そして、姉御をもう一度見て、目を合わせると、私は呟いた。
「どうぞご無事で。」そう言うと姉御はニヤリと笑みを浮かべて奥に下がって行った。
そして、松井が運転する車に乗ると意気揚々と引き上げた。
一方、姉御は。
「1000万で買ったが、この真珠安い買い物だった。これから思う存分復習してやる。」
そう呟くと、真珠を金庫の奥にしまった。
私と松井は店に着くと、社長に900万の現金を渡した。
社長は意外と早く売れたのと目標額を達成したのとで上機嫌だった。松井と私は顔を見合わせて笑った。
100万は七、三で、私が70万、松井が30万ですでに分配した。
領収書も新しい物に書き換えた。
一方、やくざの家では、あの人魚の涙を買ってから、不吉な事が起き始めた。
まず、幹部の一人が銃殺され組の玄関に届けられた。組は大騒ぎとなった。
その後に、警察が乗り込み家宅捜索で、銃刀法違反や麻薬取締法違反で幹部や手下が捕まった。
しかし、これだけでは収まらなかった。
組長の息子が川に浮いた。組はこの事で殺伐とした雰囲気に追い込まれていった。
跡目を殺された報復が始まった。
一方姉御は、奥の部屋で真珠をさすり一心に拝んでいた。
「ふふふふ。この真珠が来てから、悪い事が続く。嘘じゃなかった。18年我慢したかいがあった。」
そうつぶやくと、また真珠を見つめて拝み始めた。
「今度はあの男を呪い殺してやる。」 そうつぶやいた。
一方売った宝石屋にも噂が広がった。
警察も大忙しである。たった、15日で、組の者や組織関係のやくざが20人も死んだからである。
ここは県警本部。
「イヤーあの組の自滅と組の縮小が早まり、私たちは喜んでます。」本部長は警視への電話で話していた。
一方。姉御は「よしよし、この調子だよ」と言うと、
「次はうちのだんなの番だ。判ったね」微笑み真珠を磨く手にも力が入った。
姉御は思い出し、真珠に話しかけていた。「18年前。私はまだ高校1年生だった。
家は網本で裕福で幸せだった。しかし、お前が着てから父の様子や母の様子が変わった。
誰かまわず憎み始めた。私や弟や妹はまさかお前のせいとは知らず現因が
判らなくて困っていた。その弱みに漬け込みチンピラのあいつがやってきた。
2重3重の苦しみがあった。まさか、真珠のお前が祟ってる事など夢にも思わなかった。
あのチンピラが、内の父に甘い言葉で近寄り真珠を売れば儲かると持ち掛けた。
それに釣られた父は売る事を決意した。しかし、その前に弟が狂ったように
家に火をつけた。あのチンピラはドサクサに紛れ、真珠を奪い逃げた。
弟、妹父母は逃げ遅れて焼け死んだ。私は町に行っていて難を逃れた。
1年後性懲りも無く、私の前にあのチンピラが現れた。
チンピラはどこかの組の親分になっていた。真珠は売り渡されて居た。
その金で、親分になったと言った。そして身寄りの無い私を手篭めにすると
無理やり自分の女にした。私はあいつの事を一度も愛したことは無い。
何時も私を抱くたびに、私は復習の憎悪を燃やしていった。
しかし、私にはこの組や全てを葬る力が無い。だから真珠が私の基に来るのを待っていた。
長い、長い苦しみの日々だった。そう思うとよりいっそう復習の憎悪が沸いて来た。
だが今は。組長はおろか、組全体いや、やくざ全体を葬る事ができる。」
そして、、、、、、、、、
姉御は、また真珠を握ると拝み始めた。この組の破滅を念じて、真珠をこする手にも力が入った。
一方、川田はあの真珠の影響であろう事をうすうす感じて、姉御の所在が気になりだした。
川田には1000万円と言う法外な額にもかかわらず、
払ってくれた姉御に心の中でやましさを感じていたからだ。
そして、10日後。。。。。。。。
次々に組の周りや組内部での抗争が置き始め、崩壊の危機を迎えていた。
その折、親分が倒れたとの噂が、川田の耳にも入ってきた。
川田は、とうとう姉御の呪いが最後まで行ったと悟った。
その崩壊の噂に川田は姉御にいっそう引かれる物を感じていた、川田は在る夜、
あの姉御が居る屋敷の前に向かった。
屋敷の近くまで来ると、騒がしく消防車や救急車が川田を追い越して行った。
お屋敷の100mほど手前まで来ると、屋敷に火の粉が発つのが見えた。
川田は急ぎ足で、屋敷の前に行くと燃え盛る炎の中、必死に救助されている
子分たちが居た。子分の一人が「姉御が、姉御が家の中でまだ、仏壇に向かい拝んでいる。」
と言う叫び声が聞こえた。消防士は「火の回りが速くもう遅い。」そう言うと,
門の周りの野次馬をどけ始めた。
川田は消防士の腕の脇をすり抜けると、無心で家の中に飛び込んでいった。
玄関に入ると脇にあった、池に川田は身を沈めると一気に起き上がり、
炎に包まれ、がれ木が落ちる中、以前の記憶をたどり居間にたどり着いた。
居間は、通路を挟み崩れかけていた。
なおも進むと、姉御が白装束で一心に拝み真珠をさする姿が、
炎に包まれて崩れ落ちる天井と床の間に浮かび上がった。
川田は後ろから覆いかぶさるように、姉御を包んだ。そして姉御の耳元でささやいた。
「あねさん。もう復習は終わった。この組の最後だ。こんな人間のクズどもとあねさんが心中する事はない。」
そう言うと姉御の顔を見た。
我に返った姉御は「あんたも死ぬんだよ。早く私にかまわずお逃げ。」そう言うと
川田を払いのけようとした。しかし川田は強引に姉御を自分の体にひきよせると暴れる姉御に渇を入れた。
そして抱え上げると姉御の手から人魚の涙が転げ落ちた。
川田はその真珠にかまうことなく姉御を抱え、裏口から抜け闇の中に消えて行った。
後には、転げ落ちた人魚の涙が畳の片隅に落ちていた。
その真珠はもはやあの黄金色に輝く真珠では無かった。
深海の闇のように、真黒になり、ひび割れていた。
その隙間には今までの恨みを全て吸い寄せたように見える傷跡と割れ目だけが残った。
人魚の涙は炎に包まれた、ガレ木の間に埋もれて行った。
完
作者退会会員
完全創作話です。
リレーの最中申し訳ありません。
載せたくなったので。
あまり面白くないのは、御勘弁ください。
これから、よもつサンを超えるべく
書き始めました。
めざせ、よもつ。
鏡水花さんイメージ写真使わせてください。
お願いします。