公衆トイレの話【烏シリーズ】

中編3
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公衆トイレの話【烏シリーズ】

僕が中学1年の時の話。

昔から放浪癖のようなものがあり、よく色々な場所へ一人で出掛けていた僕は、その日もある散歩コースを歩いていた。

散歩中、突然尿意を催した僕は、近くにあった公衆トイレを見付け、その中に駆け込んだ。

外から見てもそこそこ汚れているトイレだったが、中に入ると想像を絶する光景が広がっていた。

まず、臭すぎる。床には排泄物がべったりと落ちており、便器はこれでもかという程汚れていた。

そして一番気持ち悪かったものが、壁に落書きがしてあったのだ。あまり使われない公衆トイレの落書きはときどき見掛けるが、まぁどんなものかは大体分かるだろう。

僕はあまりの気味悪さに、僕は用を足さずにその公衆トイレを出てしまった。

だからと言って小便を我慢することは出来ず、僕はその公衆トイレの裏で用を足した。

スッキリした僕は、そのまま帰ろうとしたが、不意に何かの視線を感じた。ふとその方向を振り向くと、そこには公衆トイレの汚れた窓があり、そこから男性の顔が覗いていた。そのあと、僕はそこから必死で逃げ帰った。

中学2年の夏、僕はオカルト好きで霊感の強い友人であるカラスにこの当時体験した公衆トイレの話をした。

カラスとは彼のあだ名で、私服は全身黒く、雰囲気も暗いため、皆からそう呼ばれていた。

一通り話終えると、カラスがその公衆トイレに行ってみたいと言い出した。

正直、僕はあまり乗り気ではなかったが、烏が居れば大丈夫なような気がして、あれの正体が何か分かればそれはそれで面白いなどという感情が生まれつつあった。所謂、好奇心というものであろうか。

しかし、たった1年前のことだと言うのに、その公衆トイレが何処にあったか思い出せない。

僕がカラスにそのことを告げると、さっき話を聞いたから場所くらい分かると言った。

カラスは、霊の居場所が分かる能力があるらしく、彼が「面白いものがいる」といえば、それは殆どの確率で霊のことだ。また、居場所だけでなく、その霊がどのようなものなのか、悪意は無いか、などのことまでわかってしまうらしいのだ。

だからまず最初に、僕が公衆トイレで見た霊に悪意は無さそうかどうかを訊いてみた。

すると、カラスは一瞬考えた後にこう言った。

「悪意は無いよ。ただの悪戯みたい。」

それなら良いやと、僕たちは例の公衆トイレへと向かった。

歩いていくごとに、その公衆トイレの場所を思い出してきていた。

そして、その公衆トイレへと辿り着いた。

相変わらず汚い小屋のようだが、おそらく中もそのままだろう。

僕が「中に入ってみる?」とカラスに訊くと彼は「やめておこう」と答えた。

そしてカラスは話始めた。

「このトイレ、やっぱり怖いね。君は窓越しに男の顔を見たと言っていたけど、それだけじゃないよ。もっと多い。そろそろ帰ろう。なんか吐きそう。 」

烏がこんなことを言うのは珍しかった。

何時もなら、もっと積極的に心霊現象に関わっていくカラスが、もう帰ると言うのだ。勿論、カラスが関わりたいものは悪意の無い霊だけだ。先ほど、ここの霊に悪意は無いと言っていたが、なぜ吐き気を催す程帰りたがるのだろうか。

それをカラスに訊くと、彼はこう答えた。

「一つ一つの霊魂が悪戯心を持っているんだ。それも、一つや二つならまだ良いけど、あまりにも数が多すぎて悪戯心が悪意に匹敵する程大きくなったのかもしれない。きっと君が見た男の霊が他のものを呼び集めたんだろうね。」

それなら、と言い、僕はカラスに質問した。

「僕が行ったときには、あの男一人だけだったのか?」

カラスは首を横に振った。

「いいや、他のものも1年以上前からここに居るようだよ。君は霊感があるのに、その霊感が鈍感だね。」

軽くディスられたようだが、それよりも当時幾つもの霊がこのトイレに居たことにゾッとした。

「カラス、帰るか。」

「うん、そうだね。」

散歩コースを引き返すため、振り向こうとしたそのとき、僕は見てしまった。

男子トイレと女子トイレの窓越しから怪しい笑みを浮かべながらこちらを見る、無数の人の顔を…

Concrete
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