自分が引っ越しするために、荷物を整理していた時、見たことのないアルバムが見つかった。
カバーはどこにでもあるような普通のものだったが、そもそもアルバムは全部実家においてあるはずだ。
ただ、なんとなく中身も気になったのでアルバムを開くとそこには
「湖……か?」
最初のページには、湖の写真が貼り付けてあった。
多分、そうとう大きい。
対岸が霞んで見える。
「なんでこんな写真撮るんだろ」
空は曇っているし、湖が特別澄んでるわけでもない。
およそ、写真を撮る価値のないような風景。
ページをめくる。
「あれ?」
そこにはまた湖の写真が貼ってあった。どうやら同じ湖、同じ場所から撮っている。景色が変わってない。
……いや、違う。湖の奥のほう、岸から100メートルくらいの場所に、なにか浮かんでいる。
ただ、なんだか黒ずんでいてよく見えない。
ページをめくる。
また湖の写真だ。そしてやはり、なにか浮かんでいる。しかし、一つ前の写真より、その「なにか」はこっちの方へ近づいてきている。
よく見ると……
「これって、人か?」
人が浮かんでいるように見える。
手足をバタバタ動かしてるような感じで。
溺れているのか?
ページをめくる。
また近づいてくる。
……溺れかけてる人間の写真を取り続けてるって、やばいな。
ページをめくる。
どんどん近づいてくる。
だんだんはっきりしてくる。
……人であることは間違いない。
しかし、なんだか変だ。
ベージをめくる。
ギョッ とした。その溺れていた人は、すでに岸にあがっていた。男だ。やっぱりだ。こいつはおかしい、たしかに人の形をしているが、全身がくろずんでいて、グズグズに腐ったみたいな皮膚だ。それに、腹が異様に出っ張っている、というか体がパンパンに膨らんでいるような。
まるで溺死体のように……
ページをめくる。
その男は歩いて近づいてくる。
なんだか写真の向こうから睨まれているような気がする。
ページをめくる。
近づいてくる。
なんで俺はページをめくっているんだ?
ページをめくる。
近づいてくる。その男には目玉がなかった。
明らかにやばい。異常だ。
ページをめくる。
近づいてくる。
本能でわかっている。
ダメだ、めくっちゃダメだ。
手が勝手に動いていく。
ページをめくる。
「ヒィッ」と声を出してしまった。
写真のほとんどはその男の顔で埋まっている。皮膚もズルズルになって剥がれていて、肉がグジュグジュになっている。なんだか臭いまで漂ってくるようだ。目玉もないのに、その真っ黒な眼窩が自分を睨みつけてるような……
アルバムはそこで終わりだった。
どうしよう。すぐに捨ててしまおうか。それともお寺にでも持っていくか。
とにかくもうこんなもの見たくない。
アルバムを閉じる。
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そこでは、男が真っ黒な目で俺を睨みつけていた。
作者田中康夫
記憶の片隅に残ってた話。