「…お母さん、なんであの人、みんなより影が薄いの?」
霊感が覚醒した当時は、まだ小学1年生でした。
ある時、母と出かけた先で前を歩いていた男性の影が、夏の強い陽射しにも関わらず、周囲の人達よりも薄いことに気付いて母に問いかけました。
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母も私ほどではないにしろ、視える人だったからです。
「…そういうの、お外で言っちゃダメよ。みんな、普通は視えてないものだから、あんたが変な子に思われちゃうのよ?」
そう母に言われても、なんだか納得しきれない自分がいました。
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「信じない人もいれば、怖がる人もいるんだから」
そんな母の言葉に、私はそれ以後は外で言わないようにしました。
(影が薄いと近い将来に死ぬ運命にある)と知ったのは、それからすぐのことでした。
学校の図書室で心霊関係の本を読んだからです。
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影が薄くなる他にオーラの色が黒くなる等、バリエーションがあることも知りました。
自分は他人の死期が視えることに、幼心に恐怖したのを今でも覚えています。
しかし、高校生になって、初めて他人に死期を忠告したことがありました。
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高校からの帰り道、駅前の繁華街を抜けてバスターミナルへ向かう途中、奇妙なことに気付きました。
私の前を歩く大学生くらいのお兄さんの影が、夕方にも関わらず短く伸び、かつ薄いのです。
お兄さんを見ると、特に病気をしてそうでもなく、元気な様子でした。
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「あの、すいません」
後ろから声をかけると、ちょっと驚いたようにお兄さんは振り向きました。
「あの、信じてもらえないかもしれませんが…」
「なに?逆ナン?俺、時間ならあるよ」
女子高生の私から声をかけたせいか、なんだか勘違いされてしまいました。
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「…いえ、そうではなくて…」
私は持病がないか等、いくつか質問しましたが、訝しみながらも病気はしてないと答えてくれました。
ただ、普段はバイクで大学へ通っているとのことでした。
「あの、バイク通学、気を付けてください」
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「へぇ、心配してくれるんだ?俺のこと好きになっちゃったの?」
ニヤニヤとそう言うので、
「そうじゃなくて、顔に死相が出てますんで」
私が答えるとお兄さんは一瞬固まり、私はお兄さんの脇をすり抜けると、
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「絶対、事故には気を付けてくださいね」
そう言ってバスターミナルへ走りました。
その時は、そう言うので精一杯でした。
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それから1週間が過ぎ、駅前でお兄さんに会うことはなく、バイク通学だから合わなくても当然かと思いながら過ごしていました。
ある日、帰りに駅前を抜け、バスターミナルの少し先にある町内会館に花輪が立て掛けてあるのがみえました。
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…なぜか胸騒ぎを覚えた私は、バスターミナルを通り過ぎて町内会館の方へ向かいました。
花輪は葬式のもので、町内会館の玄関が解放されていて祭壇と遺影が見えました。
「…!!」
遺影は、あのお兄さんのものでした。
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忙しなく出入りしているおばさんに、私は亡くなった理由を尋ねました。
「あら、コウ君の知り合いの子?…なんかね、大学からの帰りに信号無視してオートバイで事故したんですって。ダンプとぶつかって即死だったそうよ」
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おばさんの言葉に、「だから言ったのに」ではなく、「もっとあの時に、踏み込んで言っていれば良かった」と後悔しました。
気付くと私は、お兄さんの遺影に向かって頭を下げていました。
<…力になれなくて、ごめんなさい>
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霊感や不思議な力があったって、簡単に人の運命は変えられない。
それからしばらく、立ち直れず塞ぎ込んでいたのを今でも覚えています。
もう少しこうしていれば…。
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そんな思いは今でもある。
でも、あれ以来、私は他人の死期に干渉することをやめた。
生きている以上、死は必ずあるのだから。
[おわり]
作者ゼロ
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
最初で最後の他人への死期忠告になった、高校時代の苦い思い出です。
人間、生きている限りいつかは死ぬとは理解していても、何とかならんもんかと考えてしまうのは人間の傲慢なんでしょうかね?