wallpaper:1882
オレがガキの頃、近所にAと言う幼なじみがいた。学年も同じで、毎朝一緒に学校に行った。
Aは何故か未来のことをよく知ってて、その頃夢中だったマンガとか、アニメとかについて、来週どうなるかを教えてくれた。
なんで知ってるのか気になって、一体どこから聞いてきたんだ?と聞いたら、Aは「夢で見た」と言っていた。おそらく予知夢みたいなものだったんだろうけど、その頃のオレはアホだったので、「いいなー、オレも夢で見たいなー」としか思ってなかった。
そんなAが、五年生になったときに死んだ。トラックにひき逃げされて即死だったらしい。
Aの葬式は身内だけで行われ、遺体を前に最後の挨拶も出来なかった。オレはしばらくAが居なくなったことを自覚できなかったけど、Aの妹が寂しそうにしているのを見て、少しずつAの死を認識していった。
separator
wallpaper:909
んで最近の話。先月のGWの時、田舎に帰省した。Aの家の前を歩いてたら、Aのおばさんに会った。
「おひさしぶりです」
「あら、○○君、すっかり大人になったねー」
なんて軽く立ち話をして、Aに線香でも…とA宅にお邪魔した。
Aに線香を上げてからまたおばさんと世間話をしていると、ふとぱたぱたと歩く音が聞こえてきた。
「○○にいちゃん!」
Aの妹だった。
Aが亡くなってから、オレはAの妹が寂しそうにしているのが見ていられなくなって、毎朝A妹と色んな話をしながら学校に行った。その内、自然とオレのことをお兄ちゃんと呼ぶようになってた。
そのままA妹と二人で「彼氏は出来たか?」とか「大学はどうだ?」とか、まぁ色々と世間話。そのうちAの話題になって、ふと聞いてみた。
「ひき逃げ犯は捕まった?」
「あ、うん、大丈夫…」
何か触れちゃいけないことに触れてしまったらしい。それ以上は聞かなかった。
separator
家に帰って夕食の時、おふくろに聞いてみた。
「Aってトラックにひき逃げされたんだよね?」
「あぁ、A君?そう言ってたんだっけ…」
「そう言ってたってどういう意味?」
「確か…詳しく知らないけど、変死とかなんとか」
「変死?脳卒中とか?」
「知らないけど、子供達にショックを与えないためとか、通勤途中の車に気をつけるように、トラックに轢かれたって話になったんじゃなかったかな」
「んじゃ、ひき逃げじゃないのか」
「うん。そうだけど、詳しいことは知らないねぇ」
…謎が深まってしまった。
wallpaper:1444
その夜Aのことが気になって、卒業アルバムとか文集とかを引っ張り出して、片っ端から読んでみた。Aの文章は至って普通だったけど「同じクラスの人を書いてみよう」ってやつで、Aのことを書いている文章があった。
「A君は未来を知っててすごい、火事とかも知っててすごい」みたいなアホな文章だったが、それで思い出した。
オレはAとの通学途中、毎朝のように未来の話を聞いた。オレの動機は至って自己満で、好きな漫画やアニメの来週の話が知りたくて知りたくてどーしようもなくて、アホみたいに毎日Aに教えて君をしていたんだが、たまに全く関係ない話をすることがあった。
separator
ある朝Aが家から出てくると、腕に包帯をしていた。
例によって、オレはアホな語り口で話しかけた(と思う)
「どうしたそれ?」
「昨日の夜火事があって、やけどした」
「え、火事?どこ?痛くない?」
「ガッコー行く道の途中に茶色いいるじゃん?あそこんち」
「マジで?見に行くぞ!!」
「おう!!」
そう言って、二人でその家に駆けてったんだけど、家は火事にはなっていなかった。茶色い雑種の中型犬が、いつもと変わらずオレ達に向かって吠えるだけだった。
「何だよ-、嘘かよー」
「いや、嘘じゃないもん、ホントに見たし」
その何日か後、その家は全焼した。
ちなみに、その火事で人とか死んでなかったと思う。怪我がなくて何よりみたいな話を聞いたし。あとから新しい家が建って、あの犬も戻ってきてたと思う。
その件でオレとAは「Aが夢で未来を見てる」っていう結論に達した。
その頃「1999年7月にノストラダムスの大王が~」みたいな「世界の終わりがやってくるぞー」的な話が流行ってて、オレはAに「1999年7月に地球がどうなってくるか見てきて」と言った。
何日かしてAはオレに言った。
「何にもなってなかった」
「何だよ、つまんねー」
「でもすごいゲーム機とか見たぞ」
「え、マジ?教えてよ!」
予知夢を自己満にしか使えなかった、アホなオレ達だった…
Aはその後、どんどん未来のことを…と言うか、未来のゲーム機について教えてくれるようになった。今で言う、Wiiとか任天堂DSみたいな話も聞いた。
最後の方は、
「でかいテレビで恐竜とか飛行機がテレビから飛び出してきた」
みたいなこと言ってたから、3Dのゲームなのかな。もしかしたら、今よりもっと未来を見てたのかもしれない。
それから程なくしてAは亡くなった。
文集を持ったまま色々思い出してるうちに、やはり死因がどうしても気になって、A妹に電話した。
wallpaper:979
「明日ヒマか?」
「昼間なら大丈夫だけど」
「んじゃ兄貴だからメシでもおごってやろう」
と言って、半ば強引にA妹と約束を取り付けた。
separator
翌日、A妹と郊外のアウトレットに行き、メシを食って、午後3時前にはそこを出た。帰りの車の中で、A妹とAの思い出話をする。どう切り出すか迷ったが、A妹がAの予知夢の話をしたので「ここぞ!」と思い、こう切り出した。
「予知夢が見られるなら、トラックの件も先に気づければよかったんだけどな…」
「うん…、あのね」
「うん?」
「これ本当は言っちゃいけないって言うか、言うなって言われてるし、あまり話したくないんだけど」
「うん」
「お兄ちゃん(Aのこと)トラックじゃないの」
「…どういうこと?」
少し間をおいて、A妹は話し始めた。
「あの日のことだけど…」
「お兄ちゃんと私は一緒の部屋に寝てたんだけど、 朝起きたらお兄ちゃんはまだ寝てて、私は一人で居間に行ったの」
shake
「ちょっとしたら突然子供部屋から、お兄ちゃんの叫び声が聞こえて。ぎゃーーって」
「お母さんが慌てて子供部屋に行ったら、お母さんも悲鳴あげちゃって」
「びっくりして私も部屋に行ったんだけど…そしたらお兄ちゃんが…」
オレは黙って、A妹の次の言葉を待っていた。
「…焼けて、死んでた…」
「焼けて?」
「黒こげって言うか、真っ黒って言うか…」
shake
A妹の手が震えていた。オレも少し震えてた。
「私が子供部屋を出て、ほんのちょっとの間に、そうなって…」
オレは正直言葉を無くしてしまって、ただ頷くことしか出来なかった。
「ごめんなさい、変な話で…」
「いや、いいよ。オレもAの最後のこと、知りたかったから」
wallpaper:657
オレはその時、頭の中でぐるぐる色々と考えてて「もしかして人体発火現象ってやつか?」と思い、更に一つだけ聞いた。
「ごめん、一つだけ聞きたい。人体発火現象って知ってるか?」
「うん、前に調べたことあるけど、あれじゃない。まるで炭のようになったって後から聞いた」
僅かな時間で炭に?…そんなことあるのだろうか。
オレとA妹は、そのまま言葉を交わすこともなく車を走らせ、「またね」の挨拶で別れた。
separator
ここからはオレの予想でしかないんだけど、Aは「予知夢で見た火事」で「やけど」を負っていたから、もしかしたら「予知夢」ですごい火力に遭遇したとか…。
でも、人体が瞬間的に炭になるようなことってあるんだろうか?オレにはわからんけども。
Aは最後に何を見たのかなぁ。
作者@@@
引用元:
http://anchorage.2ch.net/test/read.cgi/occult/1272600403/