幼稚園の時。
お母さんに「用事があるからここで遊んでいて頂戴」と言われて、公園で一人遊んでいた。私の住んでいた町は人口が少なく、私と同い年くらいの子どもは全くと言っていい程居なかったので、遊び相手と言えば近所のお兄ちゃんくらいなものだった。しかし、ここいらで一番歳が近かったとは言えお兄ちゃんも高校生。進学して家を出てしまったので、一人で遊ぶのがデフォルトになってしまった。
いつも通り公園の砂場で一人遊んでいると、突然同い年くらいの男の子がやってきた。友達でもなければ、見たことも無い男の子。子どもながらに人見知りだった私は「誰だろう?」と思いながらも、無視して一人で遊んでいると男の子も私の隣で砂のお団子を作りだした。
人見知りが故に話はかけられないけど、隣で遊ぶ男の子が気になった私はチラッと横目で視線を向けると見事に目が合った。男の子は一瞬ビックリしたような顔をしたけど、すぐにニコッと笑顔を向けてくれた…にも関わらず、私はと言うと恥ずかしさからすぐに目を逸らして、またお山作りを再開した。
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「帰るわよー」
隣で遊ぶ男の子と何か話す訳でもなく、各々一つの小さな砂場で遊んでいるといつの間にかに日が暮れて、お母さんが迎えにきた。立ち上がり、恐る恐る男の子に視線を向けるとニコッと笑って「バイバイ」と手を振ってくれたので、私も小さく手を振り返し、お母さんの元へ駆けて行った。
「お母さん、この辺に私と同じくらいの歳の子いるんだね」
「あんたと同じ歳くらいの子なんていないわよ。あ、斉藤さんの娘の子どものミキちゃんかしら。丁度帰省してるし」
ミキちゃん?今日会った子は男の子なんだけど…
それに、お母さんは男の子を見なかったのかな?
そんな事を考えながらも、夕飯のカレーが楽しみだったのでルンルン気分でお母さんと手を繋いで帰った。
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次の日。
いつもの通り公園に行くと、砂場に昨日の男の子がいた。何となく後から行くのは嫌だったから、私は渋々ブランコで遊ぶことにしたのだけど、気づくと男の子が隣のブランコに乗って、こちらを見てニコッと笑っていた。少しだけ驚いて私はブランコから勢いよく飛び降りると、場所を砂場に移す。
「ねぇ。ユウコちゃん」
ブランコで遊んでいたと思っていた男の子が、いつの間にやら隣に移動してきており私は再び驚いて、ついでに尻もちをついた。いつの間にかに隣に移動してきたことは勿論、何で私の名前を知っているんだろう…?胸の鼓動が速度を上げる。
「僕ユウタっていうんだ。一緒に遊ばない?」
笑ってはいるけど、そこはかとなく男の子に対して怖さを感じた私は横に首を振って、そのまま砂場で遊んでいると急に腕を掴まれ無理矢理どこか連れて行かれそうになった。同年代の男の子の力とは思えない、物凄い力で引きづられて私は大泣き。大声で泣き叫ぶ私に気付いたお母さんが、家から飛び出してきた。
「どうしたの?!」
泣きじゃくって上手く話が出来ない私を、優しく抱きしめるお母さん。気付いたら、ユウタくんはいなくなっていた。
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公園の自動販売機でオレンジジュースを買ってもらい、ベンチで休憩すると少し落ち着いてきたので口を開く。
「ユウタくんが…」
「ユウタ?!」
男の子が名乗った”ユウタ”という名前を口に出すと、お母さんは驚いた様な声を上げる。それに私も驚きつつ、頷くとお母さんはゆっくり話し始めた。
「…ユウタはね、お母さんの小さい頃のお友達なの」
私は頭にはてなマークを浮かべながらも、黙ってお母さんの話を聞く。
「今のあんたと同い年、5歳の時に事故にあってお空に行っちゃってね」
(お空に行くとお星様になる、って聞いたことがある。
…でも何で、お星様になったユウタくんが公園にいたんだろう?)
「お母さんもユウタがお空に行っちゃってから、会った事あるのよ。遊ぼうって言ってね」
オレンジジュースを飲みながら、うんうんと頷く。
「凄い力でユウタに引っ張られたのよ。
何だか怖くなっちゃって、おばあちゃんを呼んだらユウタはどこかに行っちゃったんだけど…」
さっきの出来事とまるで同じだ!
と、私は目を丸くして夢中になっていたオレンジジュースから、視線をお母さんへと向けた。
「あんた、お母さんの小さい頃にそっくりだから、遊びたくなっちゃったのかしらね…って少し難しかったかしら」
お母さんは私の頭をクシャっと撫でると、立ち上がって”帰ろっか”と呟いた。少し切なそうな表情を浮かべるお母さんに、私は小さく”うん”と返事をして立ち上がった。
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それから数十年が経ち、私も結婚して子どもが生まれた。
今住んでいる所から実家まで片道3時間以上かかる事と、仕事で忙しい事から帰れるのは多くても夏と冬の2回。
滅多に会えないから、お母さんもお父さんももてなしてくれるのは嬉しいんだけど、家にいるとついグダグダしてしまう。旦那はすっかり酔い潰れて寝てしまったし、食後の散歩も兼ねて久しぶりに地元散策でもしよう!とゲームに夢中の息子を無理矢理連れ出した。
数十年前からは考えられないくらい町はキレイになって、少し歩けばコンビニもある。
「お母さんの小さい時は、ここ空き地だったんだよ」とか「ここなんて全部畑だったんだから!」なんて一人興奮する私と、帰ってゲームの続きをしたいのか先程から不機嫌丸出しの息子。
…あ、そういえば。
不意に”あの”公園の事を思い出した。
家から少し歩いたところにあった公園。今はどうなっているんだろう…と歩いてみると、すっかり新しい家が建っていた。…そりゃそうよね、もう数十年経ってるし。
「ここに昔公園があってね、よく遊んでた…」
手を繋いで歩いていた息子の足が止まった。かと思えば、元公園だったその場所をじーっと見つめている。
「どうしたの?」
問い掛けると、いきなりニコニコと笑って手を振り出した。
息子の視線の先に目をやるも、家の窓があり、そこから誰かが顔を出している訳でも無い。
「お母さん、あそこで男の子が手を振ってる」
作者@@@