長編10
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ストーカー擬き

圭太、竜二、俺の3人でT市にある廃アパートに肝試しに行った。

斗馬はバイトで来なかった。

アパートの2階、奥から2つ目の部屋に入ると足音や声が聞こえるとか噂がある所だ。

見た目ばボロボロ。

白かったであろう外壁も灰色に変わっていた。

中に入り居間、仏間、押し入れ、風呂など見て回った。

声もしなければ足音もしない。

部屋に幽霊がいるとパンと手を叩いても音が響かないと誰かが言ってたのを思い出してやってみた。

とてもよく響いた。

こりゃいねぇなって事で、俺達は廃アパートを出た。

時間はまだ0時過ぎ。

竜「暇潰せるとこないかな」

圭「カラオケかボーリング」

竜「じゃ、ボーリング」

廃アパートから5分ほどのショボい雰囲気のボーリング場に行った。

入れ違いで男女6人が出ていった。

俺「この時間から入ったら投げ放題なのに勿体ねー」

竜「合コン後とかじゃね?」

女の子の服装から考えるとそうかもしれない。

中はちょっとボロいけどまぁまぁ広かったし、貸し切り状態だった。

圭「好きなだけ騒げんじゃん!」

圭太は人がいてもいなくてもいつも好きなだけ騒いでいる。

受付を済ませて靴を借り、ボールを選び3人だけのボーリング大会が始まった。

ガコーン ガコーンとピンが倒れる音が響く。

接戦だった。

2ゲーム目を始めたあたりで、隣のレーンに人が来てたことに気付いた。

茶色いコートを着た20代半ばくらいの女の人が1人。

圭「1人で来るとかボーリング好きなんかな」

俺「見た目そんな感じしないけどな」

聞こえないよう小声で話した。

女の人は一瞬こっちを向きかけたが前を見直し、ボールを投げ始めた。

俺達もまだ2ゲーム目。

気にはなったが自分達のゲームに集中した。

多分負けたらジュース奢らされるだろうし。

コロ…ガ――――

  コロコロ…ガ――――

ゴンッ…ガ――――

俺「………下手すぎね?」

竜「才能無いな」

圭「好きなんじゃなくて下手すぎるからこっそり練習しに来たパターンか」

その女の人は投げる球全てをガーターへと流し込んでいった。

ピンは1つも倒れない。

ここまで下手だと気になって仕方ない。

2ゲーム目が終わった後、休憩しながら隣のレーンのガーター祭を見ていた。

コロコロ…ガ――――

コロコロ…ガ――――

ガーターまみれで1ゲームが終了した。

笑いを堪えるのが精一杯だった。

圭「勢いが足らんな」

竜「足らんのはセンスだろ」

圭「見本でも見せてやろうかね♪」

圭太がボールを持ち、1人ボーリングを開始した。

ガコッガコッとピンが倒れて行く。

その隣でガ―ガ―とガーターが続いている。

彼女はちっとも成長しなかった。

圭太が戻って来てまた3人でガーター祭を見ていた。

ゴンッ ガ―――

ガッ ガ――――

ゴッ ガ―――

彼女はボールを転がすのではなく上から投げるように投げ始めた。

投げるように投げるっていう日本語に違和感はあるがそこは我慢して欲しい。

竜「ボール割れそう」

俺「レーンも割れそう」

圭「肩壊しそう」

色々と心配になってきた。

彼女は3ゲーム目に突入した。

ボールを両手に持っている。

まさか…いや、そんなバカな。

不安とちょっとした期待を胸に、黙って見つめた。

ガッ!ゴッ! ガ――――

彼女はボールを2つ投げた。

期待通りだ。ありがとう。

そしてやはりガーター。

俺達は声は出してないだけで、顔は完全に笑ってしまっていた。

何度も何度もボールを2つ投げる。

下手な鉄砲数打ちゃ当たるっていうけど球同士がぶつかってガーターに向かって弾かれてる。

下手な鉄砲下手すぎて自滅。

そもそもボーリングのルールとしてアウトじゃなかろうか。

いや、1人だし好きにすりゃいいけどさ。

投げ方やボールの数を変えて何度も投げている。

しかし真っ直ぐ投げるのが下手なようですぐにガーター側へと曲がって行く。

4ゲーム目半ば、彼女の指からスポッと抜けたボールが俺達の方に転がってきた。

コロコロと横方向へ転がって行く。

拾ってやるか、と席を立ってボールの方へ。

ボールまであと少し。

がしっ!!!

圭太に掴まれた。

俺「は?なに?」

圭「やめろって」

俺「なんで?拾おうとしただけじゃん」

竜「すいません」

竜二が後ろに立ってた彼女に謝り、俺は席まで戻された。

圭「触んなって言われたんだからほっとけよ」

俺「そんなん言われた?」

竜「あの人『だめ 触らないで』って言ってただろ」

俺「まじ?聞いてなかったわ」

俺の親切心は通じなかったようだ。

彼女は再びガーター祭を始めた。

いつになったらピンは倒れるんだろう。

5ゲーム目。

なんだか時々こっちを気にしている素振りを見せるようになった。

あんだけ下手くそで夜中にこっそり練習しにくるくらいだから見られてたらやりにくいんじゃないか、という結論になり俺達は店を出た。

出る前に振り返ると、両手にボールを持った彼女がこっちを見て突っ立っていた。

車の中。

話し合いの末「マックでも行きますかー」となり、近くのマックへ。

2階の禁煙席に座った。

話題はもちろんボーリング。

圭「下手くそだったなー」

俺「腕曲がりすぎだもんそりゃガーター落ちるわ」

席に座ってまだ5分ほど。

俺達の席の2つ隣に、さっきの女の人が座った。

トレーの上にはポテト(L)が3つ。

竜「気付いてるよな?」

圭「わざと近く座ったんじゃね?」

俺「なんで?」

圭「バカにされてないかチェックとか?」

俺「ないな」

竜「てか喉渇きそうだな」

………確かに。

ちょっと気まずかったので急いで食べて店を出た。

朝まで居座ろうと思っていたのでちょっと残念。

本日3度目の車内会議で斗馬のバイト先に行くことになった。

竜二は不満そうだったけど。

斗馬のバイト先のダーツバーに着いた。

斗「お帰り下さいませー」

圭「いらっしゃいませでしょ!!」

斗馬の目の前のカウンター席に座った。

斗「何飲みます?」

圭「ジントニック」

俺「梅酒ロック」

竜「…ウーロン」

斗「ウーロンハイですか?」

竜「茶」

運転手はノンアルコールだ。

他に客も数名いたが、みんな店の知り合いらしく斗馬や他の従業員も普通に呑んでいた。

斗「肝試しどうでした?」

圭「果てしなく平和だった」

俺「床がミシッとすら言わないほどにな」

斗「不発多いですよね」

竜「そんなもんだろ」

話はすぐにボーリングのことになった。

斗「俺も下手ですよ」

竜「まじ?上手そうなのに」

俺「ダーツは上手いじゃん」

斗「ボーリング3回くらいしか行ったことないんで」

圭「じゃあ今度行くか。チーム戦だな。」

そういえば今日は勝負出来なかったな。

女がマックでも横に来たって話をしようとした時、店のドアが開いた。

俺達の席の2つ隣。

彼女はそこに座った。

斗「いらっしゃいませ」

わぁ営業スマイル…。

斗馬は普通に接客していた。

オススメなんかしちゃったりして。

彼女はカシオレをちびちび飲み始めた。

酒はグイッと飲めよ。

斗馬が戻って来た。

斗「ダーツします?俺に勝てたらチャージ料無料とか」

素晴らしい。実に素晴らしい。

ダーツの前へ移動した。

カウンターには斗馬の代わりに違う人が入った。

彼女はまだカシオレをちまちま飲んでいる。

圭「あの人だよ。さっきの。」

斗「ボーリングのですか?」

圭「おう。マックにもここにもついて来ちゃったよ。」

斗「まぁ、良いんじゃないですか」

圭「どこが」

ダーツを始めた。

斗馬はやっぱり上手かった。

チャージ無料の夢はあっさり途絶えた。

あの席に戻るのも嫌だったが、ソファ席は他の客がいたので仕方なくカウンターに戻った。

斗「次何飲みます?」

圭「ブルドッグ」

俺「モスコミュール」

竜「………ウーロン」

斗「茶ですね」

斗「お次はどうしますか?」

彼女のカシオレはいつの間にかなくなっていた。

メニューを見ながら困っている。

また斗馬がオススメしたものを頼んでいた。

柚子みつサワー。可愛いの飲ますね。

カシオレの時より飲むのが少し早い。

気に入ったんだろうか。

結局閉店まで店に残り、斗馬の仕事が終わるまで待って圭太の家に行った。

彼女は「間もなく閉店ですので…」と斗馬が説明し、先に店を出ていった。

なんだかんだで柚子みつサワーを3回ほどおかわりしてた。

圭太の部屋に着き2次会が始まった。

竜二はやっと呑めると喜んでいた。

途中で買ったおつまみやチューハイを消費しながら学校の話やバイトの話をした。

そして話はやっぱりあの女の人の話になった。

竜「なんなんだろーなあの人」

圭「頭おかしいのかな」

斗「別に良いじゃないですか」

俺「お前やたら寛大だな」

圭「斗馬は店でしか会ってねぇじゃん」

斗「最初から会ってても意見変わりませんよ」

竜「あーいうのタイプなん?」

斗「そういう意味じゃないです」

皆オールで眠たかったのか、次々に床で眠りこけていった。

昼過ぎ、目が覚めた。

竜二が既に起きてた。

俺「はよ」

竜「んー」

俺「なした?」

竜「いや、変なもん見た」

俺「なに?」

竜「昨日の人」

起きて飲み物を飲もうと冷蔵庫を開けたら空だったのでコンビニに行こうとしたらしい。

で、玄関開けたら2つ隣の部屋の前に昨日の女の人が立ってたんだと。

俺「見間違いじゃなくて?」

竜「じゃなくて」

俺も気になったので見てみることにした。

ドアにチェーンをかけ、5cmほど開ける。

………いた。本当に立ってる。

俺はゆっくりドアを閉めた。

竜「まだいた?」

俺「いた。何やってんの?」

竜「知らねーよ」

俺「いつから居たんだろ」

竜「朝からだったらキモいな」

でも多分朝からだろう。

着いて来たんじゃなきゃ場所わかんないだろうし。

俺達は水道水を飲んだ。

斗馬と圭太はまだ夢の中。

2人が起きるまでゲームをしてることにした。

赤い服きた髭のおじさんやピンク色の丸い謎の生物や黄色い電気ネズミ、やたらと卵を産む恐竜、ピーターパンみたいな服着て剣を振り回す青年などが大乱闘するあのゲーム。

アッアアーイ☆とかやってる内に圭太が起きた。

外にいる女の人の話をしようと思ったがゲームが良い感じだったので後にした。

ゲーム参加者は3人に増えた。

騒いでいるとやっと斗馬が起きた。

第一声は「近所迷惑ですよ」だった。

こんな平日の昼間に寝てんのはお前くらいだ。

斗「飲み物無いんですか?」

圭「無くなっちゃった。買ってきて。」

斗「お茶でいいですか?」

圭「おー」

ピィッカァァァー!(キラーン)と電気ネズミが飛んで行った。

…まだあの人いるかもしれない。

乱闘は一時休戦し、2人にさっきの事を話した。

圭「まじで!?キモ!!」

竜「だから大人しく水道水飲め」

圭「いつまでいんの?まじ無理!」

斗「俺買ってきますよ」

俺「あの人の後ろ通る事になるよ」

斗「大丈夫ですよ」

圭「俺は付いていかないからな!!」

斗「一人で行けますよ」

斗馬はあっさりと出て行った。

年下に1人で買い物に行かせ部屋でビビってる男3人。情けない。

10分ほどで斗馬が戻ってきた。

竜「あの人まだいる?」

斗「いますよ」

圭「どんなだった?」

斗「良かったら一緒に食べないかって聞いたんですけど断られました」

圭「何勝手に誘ってんだよ…」

おにぎりやカップラーメンを食べながらあの人どうしようと話をした。

竜「あの人、帰ってくれないかな」

斗「言えば帰りそうですけどね」

圭「まじ?じゃあ言お?」

斗「なんか可哀相で」

俺「どこが」

あの部屋の人が帰ってきたらきっとびっくりするだろうし、それまでにはどうにかしたい。

ってのは建前で単に気味が悪かった。

斗「あの人、何だか気付きました?」

俺「ストーカー女」

圭「ボーリングガーター女」

竜「柚子みつサワー女」

9割は合っている自信がある。

斗「あの人の影、見ました?」

影なんか見てるわけがない。

他人の影なんて気にする事は滅多にない。

竜「人じゃないとか?」

圭「なにそれ」

竜「よくあるじゃん。幽霊とかは影が無かったり変な形してたりって。」

斗「まぁ、そのよくあるパターンですね」

どうやら影が無い、または変な形をしてるらしい。

肝試しで実は拾って来ちゃってたんじゃないか?とか

ボーリング場にいたのを拾って来ちゃったんじゃないか?とか

色々考えたけど斗馬は「違いますよ」だと。

斗「可哀相なんであんま悪口言わないであげて下さい。多分耳良いから聞こえてますよ。」

竜「なんの霊?」

斗「幽霊じゃないです」

俺「なに?」

斗「影見たらわかりますよ」

どうして素直に教えてくれないのか。

仕方ないからドアを少し開けて影を見ることにした。

相変わらず立っている。

でもちょっとキョロキョロしてる。

本当、何やってんだろう。

影は確かに人の形ではなかった。

人の形には近かったけど付属品がちらほら。

なんだあれ…しっぽ?みたいな…

『きつね?』

竜二がポロっと口にした。

その瞬間女の人は肩をビクッと動かし、走ってどこかへ行ってしまった。

圭「………どっかいったな」

俺「…うん」

よくわからないままドアを閉めた。

斗「あーあ、可哀相」

俺「あれ狐なの?」

斗「狐ですね。正体言っちゃダメですよ。頑張って化けてたんだから。」

竜「えっゴメンナサイ…?」

斗馬は蓋の上で冷ましていたど●兵衛の油揚げをお湯の中に戻して食べた。

狐にやるつもりだったんだろうか。

斗馬の予想ではボーリングとかマックでご飯とかやってみたかったんじゃないか、だと。

本当の事は本人(狐)じゃないからわからんけど。

付いてきたのも悪気は無いだろうからあんまり悪く言わないでやってくれ、と。

圭「なんでそんな狐に優しいのお前」

俺「俺も思った」

斗「小さい頃、仲良かった友達が実は狐だったみたいで…それからですかね」

竜「ファンタジーすぎるわ」

詳しく聞きたかったのに斗馬は教えてくれなかった。

でも3年以上騙されてたらしい。

反応からして、正体バレたら術がとけるのかと思ったらそういうわけでもないらしい。

今回のあの狐は単にバレたのにびっくりして逃げただけなんだと。

狐が人に化けるとか話の中だけの事だと思ってた。

この事があってからしばらくはやたらと他人の影を見るようになった。

悪気なくても、悪いことしなくても、人じゃないものが人のフリして混ざってたら十分怖い。

Concrete
コメント怖い
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魔太郎兄さんコメント有難うございます!

このシリーズはあと二話ぐらいで終わりです( ^ω^ )

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桃太郎氏、体験談風に軽いタッチで書いてはいるが、とても印象に残る作り方で素晴らしですね、やあロビン魔太郎.comだ。

いや、初めて番長の作品を読んだ時のような衝撃を受けたよ…ひ…

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