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中編6
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部屋探し

友人から「部屋探しに付き合ってくれ」という依頼は、ちょこちょこある。

それは、『事故物件の摘発』…もとい『幽霊の出る部屋を避けるため』だった。

20代も半ばに差し掛かった頃、男友達のソウ君から「部屋探しに一緒に行ってくれ」と言われた。

土曜で休みだから、まぁ、いいかと了承。

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彼が言うには、ヤバそうな家賃の安すぎる物件は省くようにして、3件の物件に絞ったとのこと。

どれも駅からは離れているが職場には近く、家賃も6万円台から7万円台の好物件らしい。

一緒に同行してくれる不動産屋のお兄さんに挨拶して、不動産屋の車に乗り込む。

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1件目は丘陵に建てられた3階建てのハイツ。

周りは閑静な住宅街だが、坂が多いので自転車だと大変そうなイメージを受けた。

間取りは2DKで西向き、家賃6万5000円。

部屋は2階。

玄関前に立ったとき、ゾワッとした。

<うわ、これはもしかして…いる?>

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不動産屋のお兄さんがドアを開けた時、私は無言でソウ君の腕を引き階段を下りた。

「ソウちゃん、ここ論外」

私が言うと、ソウ君は「えっ?」という顔をした。

「どうかされましたか?」階段を下りてきた不動産屋のお兄さんが、声を掛けてくる。

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「…あの部屋、誰か首吊ってるんですけど、過去に自殺ありましたよね?」

不動産屋のお兄さんに、そう尋ねる私の横でソウ君が青ざめる。

「いや、僕は何も聞いてないですけど…、ちょっと待ってください」

不動産屋のお兄さんは携帯を出すと、何やら電話を始めた。

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しばらく誰かと話して、お兄さんが電話を切る。

「お待たせしました。…15年ほど前に、確かに事件があったそうです」

「家賃、下げなかったんですね」

私が言うと、お兄さんは、

「家賃下げると露骨に分かってしまうから、だと思います」

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…確かに。

しかし、なんだか悪意を感じるのは気のせいだろうか…。

「次行こう、次!」

まるで、今あったことを忘れたいかのように明るくソウ君が言うと、再び車に乗りこんで次の物件を目指した。

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2件目も閑静な住宅街の中にあったが、目の前に道路を挟んで小さな公園があり、子供達が遊んでいた。

土日は賑やかそうだ。

物件は2階建てのアパートの2階で南向き、間取りは2K。

家賃は6万8000円。

「ここは、どう…?」

私に、おずおずと尋ねるソウ君。

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玄関を開けると、すぐ横にキッチン。

奥に4畳半の洋室が2間。

「うん、部屋は大丈夫」

そう言って私は、奥の部屋の窓を開ける。

「目の前の公園の横に霊道があるけど、この部屋には影響してない」

私の言葉に、ソウ君は微妙な顔になった。

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「霊道だなんて、夕方とか夜に公園の方を見られないじゃんか」

ポツリと言うソウ君。

結局、その部屋はやめて次へ。

途中、不動産屋のお兄さんオススメのラーメン屋で昼食をとった。

…チャーハンが美味しかった。

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ラストの3件目は、幹線道路から少し奥に入ったところにあった。

コンビニやスーパーも近く、間取りは2DKの東向きだ。

家賃は7万2000円。

近くに霊道もなく、いたって平和な部屋。

玄関を入ってダイニングキッチン、奥に6畳の和室と4畳半の和室。

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3階建てのアパートの1階だった。

「ここ、いいじゃん。近くに神社もあるから、護られてるし」

私が言うと、なぜだかソウ君と一緒に不動産屋のお兄さんまで胸を撫で下ろしていた。

「じゃぁ、ここにします!」

ソウ君は即決したようだ。

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部屋も決まり、ソウ君は2週間後に引っ越した。

だが、ことは平穏に過ぎなかったのである。

引っ越して荷解きをし、最初の1ヶ月は何事もなく過ぎて行った。

2ヶ月目に入って間もなく、ソウ君はうなされるようになったらしい。

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「ちょっと、マジ無理。部屋、見に来て」

私の携帯にソウ君から連絡が来た。

なんだなんだ、とソウ君の部屋に行くと。

「なんで、こうなった…?」

私の言葉に、

「やっぱ、なんかいるの!?」

半泣きになるソウ君。

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お隣さんとの併用の壁になっているであろうそこに、ニョキッと男性の上半身が生えていた。

もちろん、ドラえもんの通り抜けフープは存在しないので生者の仕業ではない。

「お隣さんは?」

「…あー、そう言えば最近見てないなー」

隣から物音もしない、とのこと。

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私がソウ君の家のキッチンを借りてケーキを焼き、お裾分けの口実でお隣に突撃。

ピンポーン、とチャイムを鳴らしても応答なし。

何度か鳴らしたが出てこないので、外出してるのかもしれない。

ソウ君がドアの新聞受けから覗こうとして、異変に気付いた。

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「なんか、ガムテープみたいので目張りしてある」

郵便受けはアパート入り口に全部屋のが固まってあるから、チラシ拒否ではないようだ。

…嫌な予感がした。

私はソウ君に言って、管理人さんを呼んできてもらった。

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「変って何?何が変!?」

ソウ君に訳も分からず引っ張られてきたのであろう管理人のお爺ちゃんが、そう喚きながらこちらへやって来た。

ソウ君の部屋で見た幽霊のことはひとまず黙っていて、様子がおかしいことだけを管理人さんに伝えると、鍵を開けてくれた。

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ドアノブに手を掛け少し引っ張ってから、

「ドアにも目張りしてある!」

ソウ君はそう言うと、無理くりドアを開けようとドアノブを引っ張りまくった。

そばにはオロオロする管理人のお爺ちゃん。

そのうち、ベリッと音がして少しずつドアが開く。

「うっ…っ!」

ドアの隙間から異臭がした。

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「お爺ちゃん、警察呼んで!」

私の言葉に、管理人さんは慌てた様子で電話をかけに自分宅へと戻っていく。

ソウ君は壁に足を掛けてドアを引きまくっていた。

すると、バリバリッ!と音を立てて目張りが剥がれ、ドアが開いた。

「…っ!!」

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思わず2人で絶句して、その場に固まる。

開いたドアの向こう、すぐ奥の4畳半の和室で男性が首吊りをしていたのだ。

戻ってきた管理人さんが、私とソウ君の間から部屋の中を見て腰を抜かす。

無理もないことだった。

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やがて警察が現場に到着し、黄色いテープが張られる中で捜査が始まった。

遺体の男性は、その部屋の住人の男性で間違いないそうだ。

管理人さんとソウ君で確認した。

死後3日ほど経っていて、腐敗が始まったばかりだったとのこと。

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ひとまずソウ君の部屋に避難すると、壁から生えていた男性は消えていた。

「…なんで死ぬかなー」

ポツリと呟くソウ君。

迷惑そうな顔をしながらも、どことなく切なそうだった。

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「また引っ越すつもり?」

私が尋ねると、ソウ君は首を横に振った。

「最初はそう考えたけど、考えてみりゃ、どこにだって普通に孤独死はあり得るじゃん。今回は、たまたま自殺だったけど」

それから、こう言った。

「それに何より、神社の加護は捨てがたい…!」

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…そこかい。

思わずツッコミ入れたくなったが、やめた。

住みにくく、経済状況も不安定で結婚率や出産率も低下しているこの日本で生きていくには、何かと不安もつきまとう。

おまけに隣人との付き合いもない、という人も多くいる。

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孤独死が増えている今だからこそ、自分だけでなく周囲に目を向けるのも大切なんだと思う。

なかなか難しいかもしれないけど、一人一人の心がけが誰かを助けたりするんじゃないだろうか。

誰かを笑顔にするんじゃないだろうか。

ソウ君は今も、その部屋に住み続けている。

[おわり]

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