高校を卒業した年の夏、友達と5人で3泊4日のキャンプへ行った。
私、ミユ、カナ、男友達のマコトとカズキ。
それから、マコトの愛犬であるラフ・コリーのトム。
キャンプ場は私達の住む神奈川県内にあって、ちかくには清流もあるので釣りができる。
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男子共は、主に釣りが目的だった。
朝早くにカズキの車で出たので、キャンプ場に着いたのは昼前だった。
車からキャンプ用具を降ろし、夕方までにテントを張らなくてはいけない。
駐車場からキャンプ場までは、山登りになる。
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ただ登るだけだとツラいので、女子はおしゃべりをしながら進んだ。
山登りと言っても、テントを張れる場所までは歩いて20分ほど。
川沿いに登ると、レンガ造りのカマドや丸太を利用したテーブルや椅子が見えてきた。
その炊事場の右奥にトイレ。
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そこからさらに登ってテントを張れる場所に到着。
トムが先に登っていて、お座りしていた。
「いいなぁ、トムは荷物もないし身軽で」
恨めしげにボヤくカナに、「わんっ!」とトム。
男子はすぐ、テント張りに取り掛かる。
それをトムが邪魔をする。
「こら、トム!」
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飼い主に怒られつつも、本人は本人なりに飼い主達のテント張りを応援しているようだった。
女子は食料やら飯盒やら紙製食器等を持って、先ほど通った炊事場へ。
「いやはや良かったよー、あんたに何の反応もなくてさ」
ミユがわたしの肩を叩いた。
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「どういう意味?」
私が尋ねると、
「ここのキャンプ場いるー!とか言わないから」
そう答えるミユに、
「山だから夜は分からんよー?」
と私。
「やだ、もー!変なこと言わないでよねー」
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和気藹々としながら炊事場へ着くと、さっそく昼食の準備にかかる。
「お昼はパスタでいいよね。ソースどうする?」
カナの言葉に私とミユが、
『カルボナーラ!』とハモった。
そこへやってきたトム。
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「おー、どうした、トム?」
ミユがトムの頭を撫でる。
「さては、飯の気配を感じ取って下りてきたな、おぬし」
カナが言う。
「ほら、ちゃっちゃと作っちゃお!」
私が言って、みんな料理に取り掛かった。
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お昼を少し回った頃、テントを張り終えた男子が炊事場へ下りてきた。
「おぉっ!旨そう!カルボナーラ!」
カズキがテーブルに座る。
「トムはペディグリーな。パスタはダメ」
マコトの言葉に、心なしかシュンとするトム。
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ワイワイと楽しい昼食を終えると、後片付けをしてからテントへ戻った。
「おー、すごい!頑張ったね!」
ミユが歓声を上げる。
しっかりした作りのテントが2つ、張られていた。
「デカイのが女子、狭いのが俺ら」
マコトが言った。
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それぞれのテントに入ると、テントの梁に電池式のカンテラを吊るして荷物を整理する。
それから寝袋の準備。
夕飯までは時間があるので、男子共とトムは釣りへ。
女子は周囲の散策へ出かけた。
「ねぇねぇ、見て!」
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ミユが川辺に湯気を発見。
近付いてみると、川のすぐ横に岩を丸く組んで囲った誰かが作ったと思われる温泉が。
ちゃんと、川の水を引いて温度を調節できるようにもなっていた。
「でかした、ミユ!褒めてつかわす!」
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私がワシャワシャとミユの頭をなでると、「私はトムじゃないよー」と言いながらも嬉しそうに笑う。
お風呂に入れるとは思ってなかったので、私達は喜んだ。
キャンプ場に戻ると、釣りから戻ってきた男子に温泉を教えた。
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「マジで!?すげーじゃん!」
「これで汗臭いのとはオサラバだー」
喜ぶ男子を置いて、女子は夕飯の支度へ。
トムも付いて来た。
炊事場へ行くと、先客がいた。
だが、どうも様子がおかしい。
トムが隣で、低く唸る。
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良く見ると先客は身体が半透明で、何をするわけでもなく炊事場の横に佇んでいるだけ。
害はなさそうなので、私は無言でトムを撫でた。
「どした、トムー?何かいたー?」
2人には見えていないので、私が「何でもないよね、トム」と声をかけると、トムは鼻を鳴らして大人しくなった。
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夕飯は定番のカレー。
飯盒でご飯が炊ける頃には、先客も消えていた。
なんだったんだろうと思いながらも、和気藹々とした夕飯に、いつしか気にならなくなった。
トムはペディグリーをハフハフと食べていた。
「ごちそうさまー!温泉行くぞー!」
マコトが言って、夕飯の片付けに入った。
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片付けが終わると、いったんテントに戻ってから着替えやらタオルを持って温泉へ。
辺りはすっかり暗くなっていたので、懐中電灯で夜道を照らしながら進んだ。
温泉は、テントから歩いて10分ほどの場所にある。
最初は男子が湯に浸かり、女子が見張り。
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木と木の間にロープを張ってタオルをかけ、簡易的な仕切りを作ってある。
「トムはダメ!ドライヤーないんだからな!」
マコトに怒られ「クゥン」とトムがショゲたようだった。
30分ほどして、男子と交代。
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「なんでトムは良くて、俺らダメなの?」
「トムはワンコだからいいの!」
どうやら女子のハダカを見たい男子共は、トムが私たちと一緒にいるのが気にくわないらしい。
温泉はちょうどいい湯加減で、昼間の疲れも癒された。
空にはいつの間にか月が出ていて、月明かりの中の露天風呂はサイコーだった。
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テントへ戻ると、疲れが一気に出たのか寝袋に入っておしゃべりもそこそこに爆睡モード。
それは、男子も同じようだった。
翌日は朝から川遊びをする予定になっている。
水着も持ってきていたし、みんな翌日が楽しみだったと思う。
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バシッ!バシッ!
どのくらい眠ったのか、テントを激しく叩くような音で目が覚めた。
「んー、なぁに〜…?男子共、まだ起きてんのー?」
私の横に寝ていたミユも目を覚まし、カナもアクビしながら起き上った。
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「幼稚っぽいイタズラやめろっての」
寝起きで苛立っているのか、カナが言った。
仕方なくカンテラを点けた時、男子のテントの方から悲鳴が上がった。
「え?え?何!?何!?」
パニクるミユ。
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とたん、私は背中にゾクリと寒気を感じた。
「2人はここにいて、私が外見るから」
私の言葉に、2人が頷く。
私はテントのファスナーをゆっくり上げて外に頭を出し、男子のテントの方を伺った。
…暗闇に、何か黒い影がテントの周囲を徘徊しているのが見えた。
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「黒い影がテントの周りを回ってた」
「やだ、幽霊!?」
「うん、浮遊霊だと思うんだけど…、男子の誰かと波長が合ったみたいで付け狙ってる感じ」
私の言葉に、2人が顔を見合わせる。
その時、また男子の悲鳴が。
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「ちょっと行ってくる」
懐中電灯を持ってテントを出ようとする私に、
「気を付けてね!」
とカナが声をかけてくれた。
テントの外に出ると、まだ黒い影は執拗にテントの周りを徘徊している。
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ちょっとタチ悪そうだな、と思いながら私が祝詞を唱えだした時。
「わんっ!わんっ!ガルルル…ッ!わんわんっ!」
テントからトムが飛び出してきて、影に向かって猛烈に吠え始めた。
そんなトムに、怯む影。
…すごいぞ、トム!
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私は一気に祝詞を唱え上げると、影はフッと霧散するように消えた。
それから、男子のテントを覗く。
マコトとカズキの2人は、憔悴していた。
「大丈夫?」
私の問いかけに、手をヒラヒラさせて答える2人。
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「トムが頑張ったんだよなー!」
翌日、朝食が終わる頃にはトムは英雄扱いされていた。
「動物って霊的なものには敏感だから、本能的に主人のピンチを悟ったんだと思うよ」
私が言うと、マコトはトムをワシャワシャと撫でた。
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「どうする?あんなことあったし、予定切り上げて引き上げる?」
ミユが尋ねると、
「トムがいるから大丈夫だよ!」
とマコト。
それに、キャンプ場の利用料も勿体ないと言った。
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結局、万一の為にと私が持ってきた清めの塩を使ってテントの周囲に結界を作り、キャンプ続行。
その後は何事もなく、キャンプは無事に終了した。
あとから知ったことだが、私達の利用したキャンプ場は幽霊がよく目撃されることで有名な場所だったらしい。
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皆さんもキャンプへ行く時は、キャンプ場の表の情報だけでなく、裏の情報も調べて行った方がいい。
今はネットで簡単に情報検索できるし、身の安全を考えるならそれが1番。
どうせなら、キャンプは楽しく過ごしたいものである。
[おわり]
作者ゼロ
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
トムの吠えっぷりハンパなかったです。
動物が何もない宙を見つめている時は、そこに見えない存在があるからだそうです。
特に犬は本能的に主人を守ろうとするので、皆さんもペットは大切に可愛がってあげて下さい♪