大学1年の夏、まだ斗馬と出会うずっと前の話。
圭太と竜二と俺の3人でO市にある廃病院に肝試しに行った。
O市は一応観光地なんだが、なんというか地味で活気があるようには見えない市だ。
駅前だけがかろうじて栄えている。
今回行く廃病院は駅の裏側を山の方に向かってひたすらまっすぐ行った所にある。
こんな山の中に建てたらそりゃつぶれるだろう。
道に迷うことなく着いた。
一本道だから迷う人はいないだろうが。
車内で暑い暑いと文句を言いまくっていたが、病院の前に来ると寒いというか涼しいというか暑さはまるで無かった。
ミンミンうるさかった虫の声もせず静かだった。
この頃の俺達は「虫も夜は寝るんだろう」と考えていて何も不思議には思わなかった。
外観を数枚写真におさめて、壊れた自動ドアから中に入る。
中は空き缶やお菓子の袋が散らばっているものの、肝試しのスポットとしては綺麗な方だった。
受付やロビー、売店っぽい所など写真を撮りながら進んで行った。
カメラ係は圭太だ。
竜「圭太!桃!記念写真!!」
圭「おぅ」
圭太、竜二、俺と並んで食堂で記念写真を撮った。タイマーなんてないから自撮りで。
正直あまりにも何もないので心霊写真に期待していた。
竜「何か音しない?」
廊下に出てからの第一声。
圭「は?しねぇよ。そんなんじゃビビんねぇよ。」
そんな強がり圭太をいじめたくなったので
俺「わっ!!」
圭太の耳元で大声を出してみた。
圭「うぉわっ!!」
地面から2cmほど浮いてくれた。
いいリアクションをありがとう。
竜二も笑うと思ったのに竜二は俺らの方なんて見てなかった。
俺「本当に聞こえたの?」
竜「聞こえたってか今も聞こえる」
俺「………マジザマス?」
竜「マジザマス」
俺にはなんも聞こえないざます。
圭「早くメイン行こ」
俺「んぁ?おう」
音が何なのか気になったが、俺には聞こえないもんだから音自体はあんまり怖くない。
俺達はメインの2階、病室に向かった。
コン コン
圭「失礼しま~す」
こいつは病室1つ1つにノックと挨拶をして入る。律儀だ。
1部屋に4個ずつベッドが並んでいた。
受付やロビーなんかとは比にならないくらい雰囲気があって怖い。
シーツや枕などはそのまま残っていた。
パシャッ
圭「現像楽しみ~♪」
インスタントカメラは2つ目に突入していた。
3階に上がり、ここでも病室を見て回っていた。
俺「あ、そうだ。コケシは?」
圭「忘れてた!竜二!コケシ!!」
俺達は後から来るであろう肝試し好きの方々の為に、病室にコケシを20体ズラッと並べて恐怖を増して差し上げようと、コケシを持参していた。
なんのいわくもないただのコケシだ。
竜「…置いてく?」
俺「そのためにわざわざ買ったしな」
圭「持ち帰っても使い道ないしな」
竜「んー…りょっかい」
気が進まなさそうだったが竜二が窓際に20体のコケシを1列に並べた。
そして記念撮影。コケシと一緒に。
浮かない顔をしていた竜二もカメラのレンズを見たら元気溌剌だ。
皆でコケシの真似をして撮った。
圭「おじゃましました~」
再び律儀に挨拶し、病室から出ようとした。
ガゴゴゴゴッ!!!!!
………落ちた。
コケシさん達が皆さん落下しなすった。
俺達3人、硬直。
俺「あ、ほら!ドアの振動?とか?」
圭「古いしね!建物古いしね!」
竜「コケシどうする?」
……どうしよう。
また並べ直すかこのままか。
愛着もクソもないコケシだが、このままは可哀想な気がする。
俺「並んでなきゃ怖くなくね?このままだったら他の奴等ビビんないじゃん。もどそ。」
圭「おう」
3人でコケシを並べ直し、もう落ちませんようにと心の中で祈りつつ後ろを向いた。
ガゴゴゴゴッ!!!!!
………落ちました。
14体落ちました。6体は無事なご様子。
圭「え…なに?なんかあんの?」
俺「知らんわ!なに?なに?」
さすがにビビるビビリ~ズ。
だってドア、さっき開けたままにしたから今回は触ってないし。
振動とか、ないし。
竜「コケシ…どうする?」
俺「どうしましょうかね」
圭「6体無事だから良くね?6体も立ってたら十分怖いて。ね?」
竜「1体は首もげたしな」
俺&圭「は!?」
落下したコケシ達を見ると確かに1体だけ首と胴体が分裂していた。
圭「首…首、細いもんな!安いコケシだし!そりゃ折れるわ!!」
俺「材料木だしな!折れるわ!!」
俺ら必死。
結局コケシはそのままにして病室を出た。
ぶっちゃけ帰りたくなったけど竜二と知り合ってまだ4ヶ月。
仲は良いがまだ見栄を張っていた。
俺も圭太も根性なしだと思われたくなかった。根性、ないんだけどね。
圭「もう病室よくね?手術室行こ」
俺「だな。手術室1階だっけか?先に行けば良かったな。」
足を震わせながら階段を下りていった。
顔は笑顔。もちろん強がり。
2階から1階へ下りてる最中
竜「コケシ、全部落ちたと思う」
………えっ
俺「は?なんで?音でもした?」
竜「いや、なんとなく落ちた気がした」
圭「怖いて!!おやめになって!!」
俺「…確認しに行く?」
圭「いや、上り階段辛いからいいわ」
俺「だな」
ありがとう圭太。却下してくれて。
怖いもんな!怖いもんな!!
本当に落ちてたら怖いもんな!!!!!
竜二の余計な一言で更にビビった俺は手術室なんてどうでも良かった。
今すぐに帰りたかった。
でも駄目だ。カッチョイイ奴という印象を竜二に植え付けたい。
俺は見栄の為に余裕ぶっこいたフリをしなから手術室へ向かった。
途中「パリパリいってね?」とか「水の音した」とか竜二がいらん報告してくるもんだから俺の股間から水が漏れそうになった。
パリパリも水の音も俺と圭太には聞こえなかったから「なんだこいつは…目立ちたいんか?」と思っていた。
この時は霊感あるのは聞いてたけど霊感とか信じてなかった。
手術室に着いた。
何だかわからんが手のひらが痒い。
何かでかぶれたかな?
圭「開けるぞ」
ス―――ッと案外滑らかにドアが開いた。
中は病室や他の部屋とは比べものにならないくらい空気が重かった。
更に気温が下がったように感じた。
竜「手術室ってこんなんなんだな」
俺「俺も初めて入ったわ」
圭「俺もー」
竜「じゃ、記念撮影」
圭「ほーい」
竜二がさっきよりも普通に話すもんだから恐怖心が少し無くなった。
手術台をバックにはいチーズ。
何に使うのかわからないがボロボロのデカい布やシルバーのトレイなんかがあった。
メスとかは無かった。手が痒い。
竜「もう帰るかー見たいとこ見たし」
俺「だな。もう飽きたしな。」
圭「ねみぃもんな」
帰れる!!嬉しい!!!
喜びで早足になっていた。
玄関(出入口)を出て車へ向かった。
竜「うわっ」
初めて竜二のビビり声聞いた。
こいつもビビるんだなと安心した。
竜二の目線の先にはセミの死体が山積みになった竜二の車があった。
50匹くらいかな?気持ち悪かった。
圭「いたずら?」
竜「誰もいなくね?」
圭「そうだけども…」
車に乗せていた雑誌でセミを落とし、俺達は車に乗った。
運転席に竜二。
助手席に俺。
後部座席に圭太。
エンジンをかけ、ゆっくりと走る。
視界悪いし道も悪いからあまりスピードは出せない。
なんとなく気になって病院を見た。
俺「うぇ!?」
声が裏返った。
圭「なに?まだ何かあんの?」
圭太が運転席と助手席の間に挟まるように上半身を乗り出して座っている。
俺「コケシ並んでた」
圭「じゃあ6体落ちてなかったんじゃね?」
俺「20体いたと思う。少なくとも6体よりは多かった。」
圭「マジザマス?」
俺「タブンザマス」
竜「暑いザマス」
そういえば病院出てから暑いな。
その日はそのままマックでだらだらして朝イチでカメラを現像に出して解散した。
結局2個しか使わんかった。
バイトやらなんやらで次に集まったのは1週間後だった。
この時には恐怖も薄れ、手の痒みも無くなっていた。
俺「写真なんか写ってた?」
圭「まだ見てない」
竜「今日取ってきたん?」
圭「一緒に見ようじゃないかと思いまして!!」
俺「ビビり」
圭「お前もな」
仲良く写真の鑑賞を開始した。
真っ赤な写真とかデカイ顔が!!みたいなのは無く、普通の写真ばかりだった。
俺「ふっつー」
圭「フラッシュ使った割には暗いしなー見辛いわあー」
竜「メガネ買え」
竜二は見た写真を左右に分けていた。
俺「何してんの?」
竜「分けてんの」
俺「何基準?」
竜「心霊写真と普通写真」
圭「心霊写真あんの!?」
竜「うん。だからメガネ買えっつったの。」
竜二が分けた写真4枚をガン見した。
………わからない。わからない。わからないっ!!
普通の写真に見える。
圭「あっ!みっけ!!」
竜「ぴんぽーん!!」
俺「…?」
圭&竜「……………」
丁寧に指を差して教えてくれました。
1枚目は外観右側を撮った写真。
木の陰?後ろ?に黒い人の形したやつ。
暗くてよくわからん。心霊写真と言われればそう見えるけど偶然と言われれば偶然だとも思える。
2枚目は受付の写真。
受付の奥の窓に白い手のひらが2つ。
両方右手だと思う。
3枚目は病室でコケシと撮ったコケシ顔真似写真。
全くわからない。異常なんてない。
俺「普通じゃね?」
竜「コケシ、同じやつ買ったよな?」
俺「おう」
竜「頭」
……………マジザマスゥゥゥ!!!!
俺らが邪魔で20体中12体しか写ってないけどその12体の頭の大きさが違う。
4体だけ変にデカイ。他のも微妙にバラバラだがこの4体ほどは気にならない。
なんかまた手が痒くなってきた。
4枚目は適当に廊下を撮ったやつ。
右側のレントゲン室の前の長椅子に黒い人の形したモヤ?みたいなのが2つ座ってる。
………なんでこれ気付かなかったんだろ?
なにこれなにこれと興奮したもののこれが何かなんて分かるわけもなく…
圭「お祓いとか焚き上げ?とかした方が良いんかな?」
竜「要らないなら従兄弟のとこ持ってくわ。燃やしてもらう。」
圭&俺「要らない」
竜「りょっかい」
というわけで、何だか怖いので心霊写真じゃない普通写真も竜二に押し付けた。
気付いてないだけで心霊写真かもしれないし。
この話をすると圭太も竜二も俺も
「見栄張ってました」「強がってました」「かっこつけてました」と言う。
そういうお年頃だったんだと思う。
作者退会会員
桃矢、竜二、圭太、三人の物語。
このシリーズはこれで終わりです。