私に新しいお母さんができた。
新しいお母さんは、最初はお母さんの友達だった。
何度かうちに遊びに来たことがあったので、顔は覚えていた。
だけど、密かにうちのお父さんと他所で会っていたみたいで、仲良くなってしまったのだ。
お母さんにバレて、お父さんは逆に怒ってお母さんを追い出してしまった。
お母さんは、お父さんが浮気を止めてくれるものと思っていたけど、そうは行かなかった。新しいお母さんが、お父さんにお母さんを追い出すように迫ったのだ。
お母さんは、泣く泣く、離婚届に判を押し家を出て行った。
そして、お母さんの友達だったおばさんが、私の新しいお母さんになったのだ。
私は、本当はお母さんについて行きたかったのだけど、お母さんはずっと働いていなかったので、生活をするために職を探さなくてはならず、実家のおじいちゃんもおばあちゃんも亡くなっていたので、私と生活するのは難しかった。やむなく、私は、お父さんの方に引き取られたのだ。
新しいお母さんは、本当は、お父さんと二人きりで暮らしたかったので、私が邪魔なようだった。
世間体もあり、仕方なくお父さんは私を引き取った。悲しかった。
お母さんは、優しい人だった。いつも、私に綺麗な手作りの服を着せてくれたり、おやつも手作りで作ってくれた。
手芸が好きだったお母さんの作った縫いぐるみや、パッチワークのソファーカバー、刺繍など、全て新しいお母さんによって捨てられた。貧乏臭いというのだ。私は、お母さんの思い出が全て捨てられるようで悲しかった。
だから、一番のお気に入りの、小さなうさぎの編みぐるみだけは、ランドセルにつけて大切に取っておいたのだ。
ところが、新しいお母さんが、それを目ざとく見つけて、私から取り上げた。
「返して!返してください!」
私は必死に食い下がった。それが気に入らなかったのか、私は頬を思いっきり叩かれた。
「何?この貧乏臭い編みぐるみ。何か臭いわ、これ。」
私はお母さんが侮辱されたようで、怒りがこみ上げてきた。
「なーんか、編みぐるみって、気持ち悪いわよねえ。一目一目にあの女の怨念がこもってそうで。」
そうニヤニヤ笑いながら汚らしいものを持つように、うさぎの耳の部分だけをつまんで振り回した。
違う。その編みぐるみは、お母さんが私の誕生日に一目一目、愛情を込めて編んだものだ。
怨念など、こめているはずがない。この女は全て自分中心に世界が回ってると思ってる。
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「クソババア!」
私は初めて酷い言葉で人を侮辱した。
新しいお母さんは、みるみる鬼の形相になって、私の髪の毛を掴み、2.3回ビンタした。
「捨ててきな。」
そう吐き捨てて、編みぐるみを私の足元に投げた。
「いや!」
逆らうと、今度はおなかを蹴られた。
「捨ててこないと、もっと酷い目に遭わすからね!お向かいにコンビニがあるだろ?そこのゴミ箱に捨ててきな。ここから見てるからね。捨てないと、どうなるか、わかってるだろうね!」
私は泣きながら、編みぐるみを拾った。
玄関を出ると、新しいお母さんが、二階の窓から、煙草を吸いながら、私の行動を見張っていた。
私は仕方なく、言われた通りに、泣きながら編みぐるみをコンビニのゴミ箱に捨てた。
すると、新しいお母さんは満足そうに笑った。
とうとうお母さんの思い出の全てが無くなった。もちろんお母さんの写真なども全てゴミとして捨てられたから、家にはお母さんの思い出の品は何も無くなった。
ところが、あくる日、あの編みぐるみは戻ってきた。
私は酷く叩かれた。お前が拾ってきたんだろうと。
私は拾いに行った覚えは無い。
戻ってきた編みぐるみは酷いにおいがした。
何か、お魚が腐ったようなにおい。私が持っている時にはこんな臭いはしなかった。
怒り狂った新しいお母さんは、今度は自分の手でどこか私の知らないところへその編みぐるみを捨てに行ったようだ。あまりの悪臭に、家のゴミに混ぜておけなかったのだ。
その夜、私は夜中に何かの気配に目が覚めた。
お父さんとお母さんの部屋から、何か強烈な悪臭がするのだ。
なに?この変な臭い。それは、昼間かいだ、あの返ってきた編みぐるみと同じ臭いだった。
まさか。あれは、新しいお母さんが自分の手でどこか遠くに捨てに行ったはず。
私は恐る恐る、寝室を覗く。
すると、ベッドサイドのテーブルにそれは在った。
捨てたはずの小さなうさぎの編みぐるみ。私が見つめていると、その編みぐるみがムクリと体を起こした。
嘘!お人形が動いた。
そして、何事かうなされている新しいお母さんのほうに這い寄ると、口を無理やりにこじ開けて自らの体を押し込んでいった。ぐりぐりと臭いにおいを撒き散らしながら、口の中に押し込まれていく編みぐるみ。それでも、新しいお母さんは目覚めない。とうとう、すっぽりと口の中へ入って行き、消えてしまった。
私は恐ろしくなって、自分の部屋に駆け込んだ。
今見たのは、きっと夢よ。
そう自分に思い込ませて頭から布団をすっぽり被ることしかできなかった。
次の日の朝、新しいお母さんは急にお腹が痛いと言ってのたうちまわり、お父さんが救急車を呼んだ。
新しいお母さんは緊急手術を余儀なくされた。
私は昨日の編みぐるみの話をお父さんにしようとしたが、とうてい信じてもらえないと思って黙っていた。
そして、新しいお母さんのお腹の中から、人間の指が摘出された。
胃の壁面に、薄いピンクのマニキュアをした女性と思われる指が食い込んでいたそうだ。
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数日後、近所の山で女性の腐乱した首吊り死体が見つかった。
その死体は、左手の薬指が欠損していた。
新しいお母さんの胃から出てきたのも薬指で、その指には結婚指輪が嵌められていた。
新しいお母さんは、ほどなくして、お父さんと離婚した。
作者よもつひらさか
1げとw