「ちょっと、コレ。」
私のデスクの上に、ドサっと紙の束が放り投げられた。
私はウンザリとした顔で、放り投げた本人を見上げた。
「ゴミ箱に捨ててあったんだけど。よもや大事な資料を間違って捨てたんじゃないでしょうね?」
鬼の首でも取ったように、口角を上げる大女が立っていた。
またか。私は、溜息をつきながら、パソコンから資料ホルダーのアイコンを探した。
「バックアップは取ってありますから。捨てた覚えもありません。」
あんたが私の引き出しから盗んで捨てたんでしょう?
大女の顔が引きつった。
「と、とにかく!大事な資料の管理はちゃんとしてよね!」
そう言うと一人でプリプリ怒りながら自分のデスクに戻った。
「ホント、やなやつ!朝一、社員が来る前にゴミ箱は清掃会社の人が捨てるから、絶対にあり得ないよね!よくもまあ、あんなミエミエな手口で人を陥れようとするよね!頭悪すぎ。」
隣の同僚が声を潜めて、私に耳打ちをしてきた。
私は苦笑いを返す。恐らく、昨日遅くに私のデスクの引き出しから抜き出し、持ち帰ったのだろう。
これはすでに想定済みだ。今までの経験で、彼女が私を嫌って陥れようとしていることも、知っているし、彼女の発言もすでに想定済みである。
私には特殊な能力があった。3秒後の未来が見えるのである。たった3秒なので、何も役に立たないのだが、最低限の危険は回避できる。だが、数時間後、数日後となるとなかなか回避できなかったので、このお局様の大女には、さんざんやられたものだ。お局様は、40代半ばで足で稼いできたたたき上げの営業職女性だ。しかし、噂によると、若い頃はかなり枕営業もという噂もあった。女も40ともなればそれもままならず、それに、この時代にそんな古い営業スタイルは通用しない。
しかも、この女性、パソコンに対しては苦手意識が強くて、自分から習得しようとはせずに、全て事務処理は若い世代の人間に押し付けていた。いったい自分のデスクで、日がな一日何をして過ごすというのか。それでも、会社は彼女をクビにすることなどできない。
コンプレックス、焦り、そして彼女の中にはいろんな嫉妬が渦巻いている。それゆえ、若い世代に対しての嫌がらせは、日々度を越して行き、特に3秒後の未来が見え、失敗も少なく若い私に対しては、なんとか陥れたいという意図をビンビン感じるのだ。
そんな彼女と私は、今日、彼女の昔なじみのお得意様の会社へと一緒に出向かなければならなくなった。それもこれも、彼女の事務処理の不安により、やむなく私がタブレットを抱えて同行しなければならないという理由だ。このITの時代、契約も全てタブレット上で行う。慣れてしまえば、簡単な作業なのに、彼女は一向に覚えようとはしない。
彼女は得意顔で、私の前を颯爽と歩く。彼女にとっては、私は部下でお付の人間のような感覚なのだろう。会社の不安も知らずに、バカな女。舌先三寸で、渡れる営業の時代はもう終わったのよ。
ふと、私の頭の中にイメージが降って来た。お局様の歩いている後ろに、大きな看板が落ちてきて、九死に一生を得るイメージだ。私は思わず、叫んだ。
「山中さん!」
すると、彼女は怪訝な顔で立ち止まって振り向いた。
彼女の頭を看板が直撃し、潰された頭からおびただしい血が溢れ出し、脳漿が飛び散った。
私は、口を押さえて、金切り声で叫んだ。
ちなみに口を押さえたのは、この笑顔を隠すためだ。
作者よもつひらさか