先日、友人が挙式した。
社会人になってからできた友人ではあるが、20代から30代前半まで共に旅行やら趣味の音楽やらに時間を費やして来た仲であり、2014年の1月に私が先に結婚してしまったのもあって、彼女が良縁に恵まれたことはとても嬉しかった。
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相手は高橋大輔似のイケメン。
本当は桜が満開になる頃に挙式したかったようだが、お互いの仕事の都合もあってこの時期になったそうである。
挙式は教会式で、披露宴会場があるホテルの中に式場もあった。
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私はヴァイオリンの演奏も頼まれていたので、ヴァイオリンケースを背負って新婦の共通の友人であるユウちゃんとアヤちゃん、3人で会場を訪れた。
控え室の前にカウンターが設置されてあって、そこでご祝儀を渡して記帳、それから中へ入る。
控え室には、すでに新郎と新婦が揃っていた。
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新郎の方はモーニングに胸元のユリのコサージュが印象的だった。
「どうしてユリのコサージュ?」
と尋ねると、「ユリは百に合うと書いて百合だから、百歳まで共に人生を付き合っていこう、という意味を込めたんだ」と新郎。
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思わず「へーぇ」と感嘆。
こういうことを考えてくれる人なら、友人である新婦を幸せにしてくれるんじゃないかと思った。
対して新婦の方は、淡い桜色掛かったウェディングドレスで、大胆に肩を出して胸の谷間がチラリと見えるセクシーなものだった。
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裾は膝丈でレースが施され、活発な彼女らしさを醸し出している。
「今日は演奏、よろしくね!」
新婦のトモちゃんが、わたしの肩をバシバシと勢いよく叩いた。
「皆様、式場の方へよろしくお願いします」
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式場のスタッフの方が控え室に入ってきてそう告げ、式場に入る前に栞を手渡された。
そこには、挙式や披露宴のプログラムと賛美歌が書かれていた。
賛美歌は、新婦の入場時に歌うものである。
曲目は『慈しみ深き』だった。
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「おっす!今日は俺もよろしくな!」
不意に肩を小突かれて振り返ると、男友達がカメラ片手に立っていた。
「あらリョウちゃん、今日はカメラマンなの?」
「そうよ、みんなをコレで撮るのよ」
そう言ってカメラを掲げる。
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「あらー、みんな美男美女に撮らないと、あとで怒られるわよー?」
「分かってますわよー、オホホホホ。お前さんも、演奏頑張れよー」
リョウ君とハイタッチして式場へ入る。
私は挙式のラストに演奏の一仕事があるので、端の席へ。
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やがて荘厳なオルガンの音と共に新郎が式場へ入ってきて、ヴァージンロードの前の方まで進むとスタンバイ。
その後、新婦が父親と腕を組み、参加者がオルガンに合わせて賛美歌を歌う中、ヴァージンロードを進んで新郎の元へ。
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父から新郎へと新婦が譲渡され、2人で段を上がって神父の前へ進み出た。
朗々とした声で神父が聖書の一節を読み上げ、2人の誓いが始まる。
『汝、病める時も健やかなるときも…』という、あれだ。
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誓いが終わると結婚宣誓書にお互いがサインし、指輪を交換、新郎が新婦の頬にキスを落とす。
拍手に包まれる中、私はヴァイオリンを持って段の裾へ移動。
オルガンの前奏が始まり、それに合わせて私はシューベルトの『アヴェ・マリア』を弾いた。
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新郎と共に段を降り、裾で演奏する私に新婦はウィンクすると式場をゆっくりと出て行く。
演奏がひと段落して一礼すると拍手が上がり、ひとまずホッとしてみんなと一緒に式場を出る。
式場を出てすぐ、ライスシャワーを渡された。
左手にヴァイオリン、右手にライスシャワー。
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やがて再び現れた新郎と新婦を、ライスシャワーで祝福。
身内だけの撮影会と、友人を交えた撮影会をすませると、今度は披露宴会場へ。
私はユウちゃんとアヤちゃんの3人で、身内席のすぐ後ろの席へ通された。
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リョウ君は挙式からカメラを回しっぱなしで、その時もカメラ片手に披露宴会場の隅で新郎と新婦の入場待ちをしていた。
なんでも、撮ったものを後で編集し、結婚式までにみんなで撮り集めたビデオレターを特典映像として付けて贈るそうだ。
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みんなが着席してしばらくすると、会場の明かりが一斉に消えて暗くなり、スポットライトが会場の出入り口の扉を照らすと扉が開き、新郎と新婦がキャンドルサービスで入場。
カメラのフラッシュが眩しい。
一席一席にキャンドルを灯して言葉をかけ、全ての席を回ると2人はいったん前の席に着いて会場には再び明かりが点けられた。
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仲人さんが司会進行も務め、新郎と新婦に祝辞を述べたあと、5段のウェディングケーキが運ばれて来た。
会場のテンションが上がる。
さて、これからケーキ入刀に移ろうとした時。
いきなり会場の明かりが前触れなく、全てフッと消えた。
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ザワッとなる場内。
それから、すぐ明かりが点いて、しばらく点滅。
私はその時、何故か背中がゾワッとしたが、そのあとは何事もなかったかのように明るくなったので、何だったんだろうと思った。
騒つく場内だったが、「停電や異常はありませんでしたので、どうぞご安心ください。誠に失礼致しました」とのアナウンスに、会場はなんとか落ち着きを取り戻した。
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ケーキ入刀で、再び電気が消される。
ケーキは上から3段目までは本物で、下の2段は生クリームを発泡スチロールに塗っただけのものだそうで、食事のあとにみんなに少しずつ振舞われることになっていた。
バシャバシャと忙しなく焚かれるフラッシュ。
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緊張してるのだろう新郎と新婦は、ケーキに入刀して笑顔を引きつらせていたせいか、会場からは笑いが漏れた。
すぐに明かりが点けられたが、先ほどのような不具合は今度は起こらなかった。
テーブルに食事が運ばれてくる。
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最初はフレンチのフルコースを考えたらしいが、フレンチ=量が少ない=食べた気がしない、ということでイタリアンに変えたそうだ。
パスタやピザを目の前に「炭水化物は太るんだよねー」とかボヤきつつも、ユウちゃんもアヤちゃんも完食していた。
もちろん、私も。
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みんなが食事を楽しむ中、披露宴は進行していく。
やがて新婦がお色直しに立った時、私もトイレを済ませておくことにした。
このあと、演奏があるからである。
トイレを済ませて戻ると、リョウ君がカメラと格闘しているのが目に入った。
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「どうしたの?」
私が声をかけると、
「ケーキ入刀が終わったあたりから、なんか調子がおかしくてさー。いきなりさっき、電源落ちたから電池換えたのに点かないんだよ」
と言う。
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「えー!どうすんの!?もうすぐ、お色直しから戻ってきちゃうよ?」
「俺だって、何とかしたいよ!でもコイツが…、…あっ!直った!」
見ると電源が入り、カメラに付いている液晶画面が起動していた。
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…だが。
『え…っ』
私とリョウ君は2人して液晶画面を見たまま、その場でフリーズ。
液晶画面には、ケーキ入刀直前のシーンが映し出されて止まっていた。
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まだ会場の電気を消す前である。
新郎と新婦がケーキの前に移動した直前の様子であるのだが、2人の斜め後ろの壁に影のような真っ黒い人の形をしたものが写り込んでいた。
異様なのは、全身像は影ようなものであるのに目だけが浮かび上がるように新郎と新婦を睨んでいるのである。
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おまけに、ベージュ地に花柄の付いた会場の壁紙が透けて見えることから、肉体を持った者でないことが解る。
「なに、これ…」
リョウ君と顔を見合わせて、試しに映像の前後を観てみた。
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すると、ケーキ入刀が終わって会場の明かりが点いた直後のシーンに、画面全体に白い靄のようなものが映り込み、液晶画面を右横に倒すとそれが人の顔だということが解ったのである。
解った直後、2人で思いきりビビっていた。
「なんだよ、お前さん視えるのに気付かなかったのかよ!?」
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「いや、明かりが点滅した時に異様な感じはしたけど…」
そうこうしてるうちに、少し時間のかかっていたお色直しが終わって新婦がオレンジ色のマーメイドドレスに着替えて戻ってきたので、とりあえず映像を保存して撮影を再開。
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披露宴は、新郎と新婦のママさん達によるカラオケ大会や、2人の幼い頃のスライドショーや、オカルト好きの新郎の友人達が『百物語』ならぬ『十物語』なんかを上映して盛り上がった。
その『十物語』の中には怖い話が盛りだくさんだったので、時間のある時に紹介しようと思う。
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それはさておき。
やがて演奏の出番が回ってきたので、私はヴァイオリンを持って新郎と新婦の前に立った。
2人に祝辞を述べて、木村カエラの『butterfly』を演奏した。
なんとかノーミスで弾ききり、盛大な拍手がもらえた。
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アンコールと共にリクエストが上がり、アナ雪の『ありのままで』を演奏。
親戚の子達であろうちびっ子が、日本語翻訳版とひたすら「レリゴー!レリゴー!」と歌っていたのが面白かった。
演奏を終えて再び拍手をもらい、私の役目は無事に果たせた。
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その後、特に何事もなく披露宴のプログラムは進んでいき、最後に新郎と新婦からお互いの両親へと感謝の手紙を涙ながらに読み上げ、花束を贈呈すると披露宴は幕を閉じた。
披露宴のあと、会場から帰って行く人達と挨拶を交わすのに新郎と新婦は大忙しだった。
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私や友達は引き出物をもらうと、挨拶がひと段落するのを待って2人を呼んだ。
例の映像を観てもらうため、である。
映像を2人に見せると、開口一番に新郎が、
「あ…、これ…元カノ…」
そう呟いた。
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『えぇ〜っ!?』
となる私や友人達。
「その元カノって死んでんの?」
とリョウ君。
「いや、生きてるよ」
と新郎。
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「じゃぁ、生霊ってこと?」
アヤちゃんが首を傾げる。
「ちゃんと、お互いに理解し合って別れた?」
と私が尋ねると、新郎は微妙な面持ちで、
「かなりグズられたけど、ちゃんと別れたよ」
と言う。
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「これ、睨んでるってことは、かなり嫉妬してるよ?1度ちゃんと話し合った方がいいと思う。これ、元カノは納得してないよ」
私が言うと、新郎は「分かった」と頷いた。
「ちなみに、別れた原因は?」とリョウ君。
新郎が言うには、仕事や私生活への干渉が酷くて別れたらしい。
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携帯のチェックからスケジュールの管理まで、元カノはやっていたそうな。
そりゃ、息が詰まるだろうと思った。
話を聞いたリョウ君は「女、怖ぇー!」と震え上がっている。
「それだけ好きだったんだよ。だから、別れても未練がましく生霊飛ばしてきたんでしょ」
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同じ女であるから、ある程度は気持ち分かる、と理解を示す女性陣。
「これ、1度、神社かお寺に持ってって見てもらった方がいいかもね」
リョウ君は「そうする」と言って、カメラをしまった。
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挙式から数日が経ったが、新郎と新婦の2人にはこれといって何もなく過ごしているらしい。
リョウ君からはあのあと連絡が入り、
「生霊ヤバイらしいけど、例のシーン以外は大丈夫だってさ。無事なトコだけ編集したら、元映像はお焚き上げ頼んできた」とのこと。
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めでたい席での心霊騒ぎではあったが、色恋沙汰はいつの世もトラブルが絶えませんな。
新郎が元カノと上手く決着をつけ、ぜひ2人で幸せになってもらいたいものだ。
[おわり]
作者ゼロ
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
長い付き合いの友人が幸せを掴んで、ホッと一安心しているゼロです。
『その結婚、ちょっと待ったー!』なんて、映画やお話の世界だけかと思いきや、それが心霊現象で来るとは思いませんでした。
お2人とも、これからもお幸せに☆