ある日先輩からこんな電話がかかってきた。
「なぁ、お前。俺に『してあげる』なんて電話かけたか?」
身に覚えは無いので(そもそも誰にも電話をかけた記憶が無い)「違う」と言ってその電話は切った。
その数日後、先輩は事故で亡くなった。
当然だけど、電話の事なんかと関連付けることは無かった。
separator
一年くらい経って仲間内でささやかな飲み会を開いた時のこと。
電話が鳴り、部屋主だったやつがその電話に出たんだ。
そいつはすぐに戻ってきた。怪訝そうな顔をして、しきりに首を捻っていた。気になった俺は、何の電話だった聞いてみたんだ。
そいつは変な電話だったと前置きして「なんか『してあげる~』なんて女が言ってた」と俺たちに言ったんだ。
酔いもあって、先輩の事なんかかけらも思い出さなかった。
…数日後、そいつも死んだと聞かされるまでは。
そいつが死んだと聞かされた時も、少し記憶に引っかかったくらいだった(先輩もそんな電話の事を話していたな…)
またしばらく経って、飲み会に同席していたやつから電話があった。
「してあげる」って言う電話がかかってきたそうだ。
そいつも数日後に死んだ。
separator
俺は怖くなった。
『してあげる』を聞くと死んでしまう。そう思い、自分で電話に出ることは決してしなかった。
家に誰かがいるときは変わりに出てもらい、誰も居なければいくら電話が鳴ろうが近づくことさえしなかった。飲み会に出ていた友人にも、できる限り伝えた。「電話をかけるのはいいけど自分では決して出るな」と。
そうこうしている内に、飲み会に出ていたやつらのほとんどが死んでいた。
『してあげる』を聞いたってやつが、俺に電話をかけてくることも何度かあった。
数日すると、死んだと聞かされたり、連絡が取れなくなる…
そのたびに恐怖が上塗りされていくようだった。
とはいえ数年が経つと『してあげる』の話題が誰からも出なくなってくる。
時間が経つと恐怖も薄れてくる。
そう、俺は油断してたんだ。
separator
ある時、結婚が近くなり俺は彼女と電話してたんだ。
打ち合わせは終わり、俺は受話器を置いた。すると、受話器を置いたばかりの電話が再び鳴り始めた。
当時は携帯はおろか、発信者通知機能なんてものはなかったので、俺は彼女がかけなおしたのだと思い、すぐ受話器をとってしまったんだ。
うかつにも。
「もしもし、まだ何かあった?」
「・・・」
相手は数秒無言だった。
「(間違いか何かか?)」
のん気にもそう思い受話器を置こうとすると、キュルキュルという音がした。かと思えば
電話の向こうから声が聞こえてきた。
shake
「してあげる」
動きが凍りついた。
「****してあげる」
数秒の間を持って女が繰り返す。
「****してあげる」
(ああ、とうとう俺の番か)
「****してあげる」
歯の根がかみ合ってないのがわかる。
「****してあげる」
「****してあげる」
「****してあげる」
「****してあげる」
・・・・・・
・・・
女は延々と繰り返す。
俺はまるで金縛りにあったように動けない。
separator
何時間が経っただろう。
受話器を置いてしまいたかった。だけどそれ以上に置くのが怖かった。
いつの間にか辺りは暗くなっていた。
そして、自分で電話を受けて初めて気付いたことがある。
女が『してあげる』という前に毎回奇妙な音がしているのだ。カセット早送りにしたようなキュルキュルという音。
何時間が経っただろう。
微かに。本当に微かだったけど、女の言葉が変わった。
「***ぉしてあげる」
本当にゆっくりだったけど、女の言葉は徐々に変わって言った。
「***ぉしてあげる」
「***ぉしてあげる」
「**ろしてあげる」
「*ぉろしてあげる」
shake
「ころしてあげる」
shake
「殺してあげる」
はっきりと「殺してあげる」と聞こえた時、俺は我慢できずに叫んだ。叫んでしまった。
「嫌だ!死にたくない!俺は死にたくない!」
そして叩きつけるように受話器を置いた。
あれから一年経つけれど、幸いにも俺は死んでいない。あの電話は何だったんだろう…
作者@@@
死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?の投稿ですが、引用元が見つけられませんでした。