とある日の出来事。
詳しくは覚えていないが、見た光景。
ひとりの女性が苦しんでいた。その表情は見て取れるほど苦痛に歪んだ顔だった。
その女性は必死で呼びかけていた。いや、助けを呼んでいたに近いかもしれない。
その声はどのようにして発し、言葉にしていたのかはわからなかった。
だけど、その呼びかけは言葉ではわからなかったが、なにに訴えているのかはわかった。
女性の背後には、幾多の屍が彼女を追うように倒れていたからだ。
女性をどのような理由で追いかけ倒れたのかはわからない。
そんな折だった、女性が見つめていた奥の林から真っ黒い靄状で白い仮面のような顔をした人がこちらに向かって詰め寄ってきていた。
僕は思わず悲鳴を出しそうになった。だけど、不思議と声が出なかった。
喉の底から息を吐きだし、声とするものを吐こうとするも、それはでることはなくただ、息という風だけがぼくの口からこぼれだしていただけだった。
その黒い靄がこちらに近づくにつれ、その姿ははっきりと見える。
思い出したくもないあの影だった。
影はぼくを一旦、見つめた後、その女性に向けて手を指し伸ばしながらこう告げた。それは言葉ではなく、頭に直接響くかのような声だった。
「代償と引き換えに助けてあげます」
と。
「私は病気を治したい。永遠に続く痛みと恐怖、私の後を追いかけてきた亡き人々のためにも」
女性は悲願した。
屍に指を指しながらその影にそう迫ったのだ。
「よい。では、代償となるものを以下から選べよ」
と、差し出したのは14枚の様々な色に光り輝くメダルだった。
「それを正しい順に並べよ」
影はそういい、彼女に正確な並び方をするように唱えた。
ぼくは、一瞬積みだと思った。
なぜならヒントとなるものはない。
それぞれのメダルは様々な色を放ち、順番に合わせることができるという代物ではなかった。
ぼくは影にヒントひとつでも上げないのかと疑問を上げたのだが、とうていその影に言えるほど勇気はない。その影の正体を知っているからだ。
下手に刺激したり、会話したとき、ぼくはこの場所から消えてしまうのかもしれないと恐怖に覆われつつあった。
「これでよろしいでしょうか」
いろんな思考が横切るぼくの頭の中で、彼女は完成したようだ。
メダルの彩りとどのような順番になったかは僕が見ないうちに、その影は隠してしまった。
女性に何も言わず、次の僕の方へ見つめこう頭の中へ伝えてきた。
「君は罪深い。君は何を選ぶのだ」
と、指定されたのは、死ぬときどのような境遇で死ぬのかという選択肢だった。
・病気で苦しく死ぬか
・事故で痛みで苦しく死ぬか
・他人に傷つけられ、痛みと恐怖で死ぬか
など、様々な選択肢を見せつけられた。
ぼくは、その場から離れたくて駆け出した。
そして、目が覚める数秒前に、屍たちは起き上がり、女性に助けてくれたことを感謝述べている光景を目にした。女性はどうやら正解だったらしく、病気も回復する方向へ向けられたようだった。
暗闇の中、目が覚めたとき、ぼくははっきりと誰かの声がした。
「逃げられると思うなよ」
と。
作者退会会員