短編2
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身代わり

 あれは私が小学生くらいの頃でしょうか。居間でテレビを見ていると突然、壁にかけていた時計がガタッと落ちたんです。

壁のネジがゆるかったとかそういうことでもなく、本当に突然ガタッと。

当時は子どもだったんでそれで怖いなあと思っていると、母がこんな話をしてくれました。

「こうやってね、時計が落ちたりした時はね、私達家族に何か起きる前に身代わりになってくれたって事だけんね。

怖がる事ないよ。守ってくれたんだけん感謝せなんよ。」

と、この話を真に理解できたのはもう少し成長してからでした。

やがて高校生になって原付免許を取り、初めて足ができたのが嬉しくて、練習がてら目的地も決めずあちこち走り回っておりました。

やがて運転にも慣れてくると、人気のない山道でスピードを出したり、無茶な事もするようになりました。そんな折、学校から帰る際に原付のエンジンがかからないおいった事が目立ってきました。

元々古いバイクだったので、それほど気にせず何回かキックして多少吹かし気味にエンジンを回して乗っていましたがある日、いくらキックしてもかからず、ガソリンかオイルがないのかと思い車体を揺らしてみますが満タン・・・。

あまりにもかからないので親に電話しようと思ったちょうどその時。今までのはなんだったのかというように普通にエンジンが回り始め、帰路に着く事にしました。

学校を出て帰る途中、疲れて少し眠かった私せいかボーッとしながら運転していると、横の脇道から車が飛び出してきてハッ!となり慌ててブレーキを握りしめました。

ボーッとしたまま走っていてスピードも出ており、目の前の赤信号を見落としていたのです。

やばいやばい・・・もうだめか・・・・・・と思い必死にブレーキを握りしめ車体を思い切り傾け、なんとか衝突は回避できました。

心配して止まってくれた車の運転手さんに謝り、大丈夫ですと言ってそのままゆっくりと帰りましたがもしあの時・・・・・・そのまま突っ込んでいたらと思うと・・・。

バイクは教えてくれて守ろうとしてくれたんでしょうか・・・車とかバイクっていつも一緒にいますから、そういう不思議な事があるんでしょうかね。

ちなみにそのバイクはその後、走行中に駆動ベルトがぷつんと切れ、バイク屋で修理してもらい、今もよくちょく整備しながら大事に乗っています。

彼女を手放す事は、まだ当分ないかと・・・。

Concrete
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ちょっと素敵な話でした。

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