今、僕は生まれて初めて、人魂というものをみている。
部活帰りの夕暮れ。オレンジの物体が僕の頭のすぐ上をふわふわと飛んでいるのだ。僕は、怖いというより、不思議な気持ちだった。だいたい、これが人魂と認識するまで、ゆうに5分はかかったのだ。僕はその行く末を、呆然と立ちすくんで見守っていた。
するとどこからともなく、網を持った、小学低学年くらいの男の子が走ってきて網を振り回している。僕が見るところ、網は空を切ってはいるが、虫と思しき物は見当たらない。ただ一つ、考えられることは、この男の子が追っているのは、虫ではなく、あの人魂だということ。
僕は恐る恐る、その男の子に聞いたのだ。
「何を追いかけているんだい?」
男の子は、どことなく、現在の子供にしては古臭い服を着ている。全体的に、昭和臭が漂っている。
「あのね、人魂。あれを獲って帰らないと、鬼の親分に怒られちゃうの。」
全く意味不明だった。
「君はどこから来たの?なんで人魂を獲らないと怒られちゃうの?」
男の子はしばらく考えて、僕にこう言った。
「うーん、わかんない。人魂を獲って来いって言われて、獲ってこなかったらぶたれちゃうの。あっちの川原からきたんだ、僕。」
川原?このへんに川なんてあっただろうか?
僕は少し、薄気味が悪くなった。
もしかして、この子は人ならざるものなのかもしれない。
「あ、逃げちゃう。」
男の子は、ふわふわと飛ぶ、オレンジ色の物体を追いかけて、行ってしまった。
家に帰って、あの子は誰なんだろう、とずっと考えていた。
そして、僕は次の日も部活帰りにその場所を通った。気付かなかったけど、この場所って墓地に近いんだな。木々の間から、ぽつぽつと灰色の四角い石が見え隠れしている。
その男の子はベンチに座っていた。
全身傷だらけで。しかも頭は割れて、少し脳が露出している。
僕は心臓が飛び出しそうなほど驚いた。その男の子が、僕に気付き、そんな様子でも声をかけてきたのだ。
「こんばんは、昨日のお兄ちゃん。」
「どうしたの?その傷。大丈夫?」
僕が言うと、男の子は俯いた。
「昨日ね、ちゃんと人魂、捕まえてね、鬼の親分に渡したの。でもぶたれちゃった。」
脳が露出していたら重態だが、この子はしゃべれるということはやはり人ならざるものらしい。
「なんで?ちゃんと獲って渡したんでしょ?」
「うん。でも、あれは人魂じゃなかったの。猫魂だったの。」
人のじゃなかったんだ。
「君は何者なの?」
男の子は痛々しい腫れあがった顔で僕を見上げた。
「僕は餓鬼。僕ね、前世で子供を虐待して殺しちゃったの。だから餓鬼にされちゃった。鬼の親分は僕が殺した子供だよ。人魂を100個獲るまでは許してもらえないの。」
地獄の試練ってやつか。
この子はこれから、何百回もこうして打たれるのだろう。
それも前世の業だから仕方ない。
「そっか。がんばってね。」
作者よもつひらさか