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中編5
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あっぷっぷ

私には今もずっと一緒に暮らしている女性がいます。

今回はその女性と知り合った経緯をお話したいと思います。

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私は去年の初夏に仕事で初めて出張というものを体験しました。仕事とはわかっていたのですが、比較的スケジュールが緩めな事もあり、さながら小旅行気分でした。

仕事はすぐに終わり、調べていた美味しいお店に行きたかった私は荷物を置きにホテルに向かいました。ホテルは駅前にあり、ワンルームで小さな冷蔵庫とテレビがあるだけののありきたりなビジネスホテルでした。

さっさと着替えをすませ、私は夜の街を堪能しました。何軒かまわってお店を出ると、外はポツポツと雨が降っていました。

傘もなく、時間的にもそろそろ帰らなきゃなぁと

名残惜しい気持ちを抑え、私はホテルの部屋に戻りました。

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部屋に入って最初に少し違和感を覚えました。

私はこのホテルにチェックインしてから1度もバスルームには入っていないのです。

しかしこの部屋に戻ってきた時、バスルームのドアは開いていました。それから誰かが少し前お風呂に入っていたかのようにほんのり温かい湯気のようなものがドアから出ているのです。

私はすぐバスルームを調べましたが、何一つ物を動かした形跡はありません。床さえ濡れていないのです。

ベッドの辺りからかすかに石鹸のような香りもします。

その時ベッドの横にある窓も開いている事に気が付きました。

私はベッド付近を覗き誰もいない事を確認すると、すぐにフロントへ電話をかけました。

フロントの方は、あぁ…となにか理解しきっているような雰囲気で私の話を聞き、部屋を変えますね。と提案してきました。

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私は酒に酔い、食べ過ぎで気持ち悪く、下着などを脱ぎ散らかした部屋を見て、部屋替えは正直面倒だなと思い。

2つ返事で断りました。

フロントの方の、えっ?は?え?そのままで??

という間の抜けた声は今でも私のツボです。

私は電話を切りお風呂に入りました。少し嫌でしたが、幽霊がいるとしてももう先にお風呂に入っている訳だし入って来ないだろうと考えていました

この時の私は変だったのです。得体の知れない初めて来たホテルにいるなにか。それが全くこわくないんです。今同じ事が起きたらキャーキャー騒ぐ自信があります。

なのにこわくない。この日はそんなこと全く気にしていませんでしたし、今でも理由はわかりません。

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お風呂から出た私は下着も着けずにベッドに大の字になりながら携帯をいじっていました。テレビはつけたままです。

そうしてるうちに眠くなり、毛布だけを掛けてテレビを消しました。

部屋に音がなくなって気が付いたのですが、外の雨が異常な強さになっていました。

少しエアコンが弱いので窓を開けたかったのですが、確実に雨が入って来るので諦めました。

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私は右を向いて寝る癖があり、その日も同じでした。

右には窓があり、大粒の雨が見えます。

カッ!と眩しい光が私の部屋を一瞬照らしました。

あーきたかぁと小さく呟き、私は反対側を向きました。この部屋のカーテンは薄く、大した遮光性がないため雷を防げず。せっかく電気を消した部屋中を何度も見せてくれました。

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音も激しかったのでなかなか寝付けず、部屋のドアの方をぼんやり見ていると、とんでもないサイズの蜘蛛が廊下の壁の端にいました。

雷がなるたび少しずつ動くのです。

私は蜘蛛が大嫌いなので当然目が離せなくなり、いきなり飛んだりしたらどうしようかと枕を盾に怯えていました。

次の雷で今度は蜘蛛が2匹に増えました。

反対側の廊下の壁に。

私はフロントを呼ぼうと電話に恐る恐る近付きました。

その時雷がまた部屋を照らしました。

そして気付きました。

蜘蛛じゃない 手だ

廊下の壁に両手をついてるんだ。

誰かが少しずつこっちにきてる。

酔いなど冷めた私は電話を置き、ベッドの上から廊下を見据えていました。

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その誰かは、雷の光が部屋を照らすと少しずつこちらへ近付いて来ているようでした。

やっとそれが部屋に入った時に、私は姿をはっきり確認しました。片手が骨折しているように曲がり、足もグチャグチャなそれは、恐らく女性だと思われます。

その女は部屋が暗い時は一切存在感もなく、目を凝らしても見えないのに、雷が光った瞬間だけ少しずつこちらへ動いて来るのです。

確実に私の方へ。

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女とベッドとの距離が1mくらいになった時に雨が突然弱まり、雷も遠くへ行ったのかペースが落ちてきていました。

私は怖がりながらも少し安心して女のいた方を見ると、やはり暗い室内に女はいません。

ホッとため息をついた時、部屋が今までより少し鈍く光りました。弱い雷が部屋を照らしたのです。

女は私の上にいました。私ではなく窓の外を見ていました。

この時ふと感じました。

この女性は自殺したんだなと。理由はわからないけれど、最後にお風呂で身体を綺麗に洗って、この窓から…

私はその通路にいたに過ぎなかったのです。

なんだか少し彼女が可哀想になりました。彼女顔の片方が潰れて血だらけなのに、泣いているんです。

次の雷がなりました。

彼女は窓から大きく身体を出して、今にも飛び降りようとしています。

きっと毎晩成仏できないままこんな事を繰り返しているのでしょう。

ダメッ!

私は彼女の身体を掴んで部屋に戻そうと窓から身を投げ出し、彼女の身体を抱きしめました。

そして部屋に戻そうと力を入れました。

その時彼女は顔をこちらに向けて片方だけの顔でにこーっと笑い。私の髪の毛を強く掴んで私ごと窓から落ちて行きました。

落ちる時は意外とスローだとよく聞きますが、私には一瞬でした。

その部屋は二階だったから

落ちた後私は考えていました。二階から落ちて死んだ霊があんなズタボロなわけないよなぁ。

バカだなぁ私

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私は軽い怪我はしたものの次の日出張を終え、帰宅しました。

帰りの新幹線で、なぜあの女はズタボロだったのか、誰がお風呂に入ったのか色々考えましたがわかりませんでした。

そもそも死因はなんだろう?

しかし私は2度と霊には同情しないと鋼の意志を持つことをちかいました。

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あのホテルにはもう何も出ないでしょう。一緒に飛び降りてくれたバカな人間のおかげで霊の夢も叶ったでしょうし。

でもその時からなんです。

家で寝ているとたまに窓が開いていて、半分だけの顔で笑っている女が部屋のどこかからこっちを見て笑っている。そしてその場所からゆっくり近付いて来るんです。

私が気が付くとその場で彼女は止まります。

そして気を散らした瞬間、また近付いてくるんです。

天井、テーブルの下、テレビの裏。

必ずどこかから。ニコニコ半分だけ笑って

でも無理だよこの部屋3階だもん。

一人で落ちて逝ってくれよ。たのむから

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