お話しの登場人物は
私=みゆ
みずき
りさ
しいの
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「このお店ってさ、お化けいる?」
「へ!?おばけ?」
唐突すぎて何を聞かれたか分からなかった。
「どうでしょう?私は会ったことないです。。。見える方なんですか?」
「いや、ちょっとね。気になっただけ。」
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「つっかれた〜!!つーか気持ち悪ーいよ〜。」
ここは田舎のキャバクラ。
田舎とは言え、地方都市だから夜はそれなりに賑やかになる。
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「しいの飲み過ぎだから!
つか、客席で脱がないで!
つか、酔っ払うなし!」
「みゆちゃん。ソイツにそんなこと言ってもダメだよガキなんだから。」
そう言うみずきちも酔っ払い。目がすわってる。
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「いやいや、しいのも二十歳超えてんだから少しは落ち着きなさいよ。」
「え?しいのまだ18歳です♡きゃっ!先輩、こわーい♡」
「あ?うるせーぞこの酔っぱらい!!」
「はいはい。やめやめ。しいの22歳でしょ。
未成年はお酒飲めませんよー。
ほら、みずきちも着替えて帰ろー。」
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ここはキャバクラの更衣室。
たまに飲むと酔っ払うしいのには脱ぎ癖がある。やめていただきたい酒癖だ。
酒は飲んでも飲まれるな!
みずきちは、普段から飲んで普段から酔っ払って、おまけに相当お酒に強い。
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今日だってテキーラを飲んでいた。
テキーラなんてうちの店のメニューにないんですけど?
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酔っ払ってドレスは脱ぐくせに、私服を着ないしいのに無理やり服を着せ、荷物を突っ込んだバッグを車に放り込み、代行のお兄さんに後はお願いした。
何度もお願いしてる代行だからよろしくやってくれるだろう。
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さっ、私も着替えて帰ろっと。
「あれ?しいのはー?」
「帰ったよー。と言うより帰した。」
「みゆさん偉いっすね。アレの世話してあげるなんて。
いやー、お疲れ様です。
私だったら面倒臭くて殴っちゃう♡」
「りさちゃん、殴っちゃダメ♡」
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この店のキャストの半分はお酒を飲む子なので、酔い任せに本音をぽろぽろ出す。
りさちゃんもがぶがぶいく口。
あとの半分は車通勤なので、飲まない。飲むときには、しっかりお客様から代行代をいただく。
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今日のしいのはそのパターンだった。
「みゆさん。今日、しいの掃除っすよ。」
「そうなの?いいよ。私やるから。」
うちでは営業が終わったあとに当番制で掃除をする。
ボーイさんはホールと男子トイレ。
キャストは更衣室と、女子トイレ。
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「じゃ、私ゴミまとめるんで床お願いします。」
りさちゃんは、しいののひとつ上だけどしっかりしていて、とても頼りになる。
「はーい。トイレは?」
「みずきさんがやってます。」
「了解。」
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コロコロしながら先ほどの会話を思い出す。
“ちょっとね”なんて言っときながら、お客さんはホールのある一点を見つめてた。
「ねぇ、りさちゃん。お化け見たことある?」
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「どーしたんすか突然。」
「いやー、さっきピン客がさ言ってきたんだよね。「このお店お化けいる?」って。」
「私は見たことないっすね。
みずきさんは見たことあるって言ってましたよ。」
コロコロする手が止まる。
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「え?まじ?それってこの店で?」
「らしいっすね。」
この手の話し、私は苦手だ。
そりゃ、建物には一体ぐらいそういうのがいるという迷信というか、都市伝説的なものはあると思うし、実際そういうものかなって思ったりするけど、
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自分の身近で“そういう話し”があるのは非常に怖い。
怖いので詳しく聞かないことにした。
「…れ?み…ちゃん?…ちゃーん!」
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途切れ途切れだけど、トイレ掃除をしてるみずきちが大きな声を出してる。
「みゆさんのこと呼んでんじゃないすか?」
「え、なんで私?」
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髪の絡むコロコロから使用済みシートを無理やり引き剥がし、りさちゃんのまとめたゴミ袋に放り投げる。
「なーにー!!私、更衣室だよー!!」
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大声で返事をしながらみずきちのいる隣のトイレへ向かう。
「みずきちー、なに?」
トイレットペーパーを三角に折ってたみずきちが振り返る。
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「え?なんで!?」
いやいや。呼んだ相手が来たのに、なんで?はないよね。しかも驚いてるし。
「なんなのよ?」
「なんでそこにいんの?え?どこにいたの?」
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「更衣室だよ。みずきちが呼ぶから来たんじゃん。だから何の用?」
質問を質問で返された私はムッとしながら聞き返した。
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「今鏡の前にいたでしょ?
突っ立ってて邪魔だからどいてって言ってんのにどいてくんなくて…。
その後何も言わずにトイレ入っちゃって…。
あ、みゆちゃん今日、髪巻いてたっけ。
…じゃ、違うか。
それに白いドレス着てたもんなー。」
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「ん??トイレはみずきち以外誰もいないよ。
ほら…個室も開いてるし。」
青く表示されてる鍵を指差し、一応、中を覗く。
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「あとはほとんど帰ったし、りさちゃんは私と一緒に更衣室いたし。
それに…今日私が着てたのは赤いドレスだよ。」
「うん。黒髪で、やたら長いストレートの子がそこにいたの。」
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うちの店には週末に髪をセットする決まりがある。
今日は土曜だからストレートの子はいない。
確かに私も黒髪で長いけどさ。やたら長いってひどい。
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ん?
突っ込むのはそこじゃないよね。
さっき、りさちゃんが言ってたことを思い出し、みずきちに聞いてみた。
「もしかして、それって…
お化けとか幽霊とか見たってこと…?」
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「知らない。けど、今日のは黒髪で長かったからみゆちゃんかと思ってさ。」
“今日のは”ってどういうことよ。
「黒髪じゃない子もいるの?」
「茶髪のミディアムくらいの子もいるよ。」
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みずきちよ。お化けを見ておいて何故そうもドライでいられるのか私には不思議でたまらん。
「うそでしょ?どこにいるの?トイレにいるの?」
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もし、トイレ常駐してるならほとんどのキャストが膀胱炎になってしまう危険がある。
「んー?今日のはトイレにいたのよ。この前のはホールの柱の影にいた。」
「柱の影…。」
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ドレスアップして髪もふわふわにセットした茶髪の女の子が柱の影から静かにこちらを見つめてる。。。
いかにもすぎるシチュエーションを想像してしまい、ぞっとする私。
しかも、嬢スタイル。
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「いつもいるの?」
「いや、たまにかな?けど、最近よく見るよ。」
なんてこった…。
幸い私にはそういう類いは見えない。
けれど、いると知ったら怖がらずにはいられない。
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「んじゃ、みゆちゃん、わたし掃除終わったから帰るねー。」
衝撃の告白に呆然としてる私を置いて、みずきちはさっさと更衣室へ戻ってしまった。
「ちょっ!!ちょっと待ってよ!怖い怖い!!!」
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電気を消して更衣室へ戻る瞬間。
白いものが動いた気がしたけど、確かめるのも恐ろしくそそくさと更衣室へ入った。
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◇ ◇ ◇ ◇
「どうしたんすか?みゆさん。そんなに慌てて。」
「みずきちがさ、トイレでお化け見たって言うからさ。。。」
「また始まった!みずきさん!怖いこと言うのやめて下さいよ!」
「ホントのことだし。私見たんだもん。」
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「1人でトイレ行けなくなるじゃないですか!」
「2人で行けばいいじゃん!!」
確かに、1人よりは怖くないし安心だ。。。
解決になってないものの、みずきちの案に妙に納得させられた。
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「りさちゃん、そうしよう。とりあえず、怖い間は誰かと行こう。」
このとき、まだこの目で見てない私にはリアリティがなかった。
それに解決なんて私たちには出来ないんだし。
つづく
作者粉粧楼
皆様、ご無沙汰しておりましたフンショウロウです。初めましての方も多いですね♡どうぞ片隅の方にお見知り置きを。
今回はキャバクラが舞台です。
実話Mixにてお贈りします。
登場人物の名前は平仮名が多いので最初に紹介させていただきました。
このお話しは2年ほど前に書いたものなんですが、ゴールが見えずGmailにずっと下書き保存していました。
やっぱり皆様のお話しを読んでいてまた書きたくなってしまった稚拙な私です。
未だにゴールは見えませんが、ゆっくりと投稿していこうと思います。
私が遠のいていた間に素敵なお話しを書かれる方が増えわくわくしています。またはすれ違ってふれあえなかったこと。残念に思います。