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中編3
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廃線駅

その日も彼は、疲れきって帰宅途中の電車で横になり、ウトウトしていた。

段々と意識が遠のいていき、深い眠りにつく彼を起こす者はいない。

そんなわけで、目を覚ました時には、列車はもう彼の最寄り駅を通りすぎてしまっていた。だが、折り返すにも遅い時間で列車はもうない。

「ったく、誰か起こしてくれてもいいのになあ・・・・・・まあしょんなし、次で降りてタクシー呼ぶか。」

そうごちて、携帯を取り出し最寄りのタクシー会社を調べる彼だが、ここでふと車窓から見える風景がおかしな事に気付く。

それに、いつもなら多少混みあう列車が不気味な程、空いている。運転手にくだをまくいつもの酔っぱらいもおらず、やけに静かだ。

何か奇妙なものを感じつつ、気のせいだろうと自分に言い聞かせる彼。

そんな静かな列車に、車内アナウンスが流れる。

「次、鐙田駅、停車致します。」

そのアナウンスに彼は、驚いた。

鐙田駅と言えば、昔あった山鹿温泉鉄道の駅で、現在は自転車道になっているはず・・・・・・タイムスリップか、夢でも見ているのだと彼は思って、とりあえず降りて見ることにした。

その駅のカレンダーは現代のもの、携帯も繋がる。だが、状況が飲み込めない。廃線されたはずの線路がなぜあるのか、電化されずに廃止された鉄道が、なぜ電化され現代にあるのか。

彼はタクシーを呼んで、しばらく外を眺めていたが、そこは普段と変わらない田舎町だ。

やがてタクシーが来て、乗り込む。運転手も普通のおじさんだ。

だが、戸惑いと不安を隠せない彼の表情を見て取った運転手が、口を開く。

「お客さん、まさか外から来た人?じゃあ、その顔も無理ないですね。こっちの世界ではね、基本的な事はあんま変わらんけど、さっきの鹿鉄も残ってたり、ちょっと違うんだよね、我々の世界とは。あ、私も外から来たんだよ。」

異世界、というより少し分岐した平行世界という事だろうか。

夢だと思いたいが、彼の意識ははっきりしており、現実の出来事であると認識せざるを得なくなっていた。

こうなっては仕方ないと、どうやったら、元の世界に戻れるか運転手が何か知っているかもと思い、聞いてみたが、分からないという。

だが、何かヒントがあるのではと、後日来た場所へ戻ってみた。

期待した変化は何も起こらない。この世界でも、普通の生活は元と変わらなかったが、それでも元の世界に戻って、両親や友人の顔をもう一度見たい。

その一心で彼は、連日あの駅へ通った。

そんなある日、あの駅へ向かった彼は奇妙なものを目撃する。

見たこともないような、黒い雲が不気味に渦巻いていた。彼は、迷わず、その雲へと向かっていく。

案の定土砂降りの雨に打たれるものの、気に留める事もなく、雲が晴れるのを待った。

やがて、雲が晴れ、彼はあの駅へ向かった。そこには線路も何もなかった。

記憶通り、廃線跡は自転車道になっていた。

彼はなぜ、あの時彼処へ向かわされたのか、それから毎日毎晩考えたが、答えは出なかった。

ある日、終電を逃した彼はタクシーを呼んだ。運転手は、あのおじさんだった。

また、お会いしましたね。貴方のおかげで、私も帰ってこれました。

ここで、彼はある結論に至る。

自分は、あの世界に迷い込んだこのおじさんを連れて帰ってくるのが、役目だったのではなかろうかと。

そして、またこのおじさんも誰かを・・・・・・と。

そんな神の悪戯に微苦笑しつつ、眠りにつく彼。その顔は、穏やかだった。

Concrete
コメント怖い
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ゆっぴー様

いいですね。
私的には、このオチ好きですよ。
この手のお話にありがちな展開とは一味違う、ただ、「怖い」だけではおさまらない どこか哲学的と申しましょうか。秀逸な出来だと思いました。

「きさらぎ駅」の不思議なお話は、「異世界」「パラレルワールド」の存在を信じている私にとってもたいへん興味深く じわじわ来る「恐怖」と「焦り」 電車という乗り物が醸し出す臨場感とマッチし、「好き」なお話です。(誤解を承知で申しますならば、実話・創作・もしくは夢、幻の類であったとしても、文句なし「怖話」殿堂入りの名作だと思っております。)

時代とともに廃れ行く運命にあったもの
鉄道もその一つでしょう。

「テツ」という程ではございませんが、私も若い頃よく「旅」をいたしました。
地方に行くと、「国鉄」時代に引かれた線路が、赤さびのあがったまま残っている・・そんな情景を良く目にしたものです。
「ノスタルジック」な思いもあり、「怖い」+「懐かしい」でポチいたしました。

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